第7話 復活する魔力
晩餐は欠席して、部屋で夕食を食べることにした
あの後、部屋に戻って何もしないでいたら、不意に涙があふれて、とても、人に見せられる顔じゃなかった
どんなに泣いても泣いても涙が止まらなくて
アーネスト
あの子が生まれてきてくれてからずっと、一番たくさん思った、声に出した名前
世界で一番大切な人の名前
何度も何度も夢に見た
会いたくて会いたくて、でも、変わってしまった私を見ないでほしくて
でもやっぱり会えることがうれしかった
アーネスト
世界で一番大切な人の名前を、口にしてはいけない、もう
私は臣下になったのだ
もう姉としてふるまってはいけないのだ
私は姉なのに
あの子は弟なのに
『ハミルトン公爵夫人』
あんなおぞましい男の妻として私を見ている
あんなおぞましい男の妻として、私を
アーネストが、弟が、まるで汚いものでも見るような目で、私を
また涙が溢れてきた
何度も何度も、思い返す、そのたびに
それでも、ハミルトン領に帰るのは遅らせたい
できるだけ遅らせたい
ここにいたい
もう姉として認めてもらえなくても、ここにいたい
アーネストのそばにいたい
アーネスト
アーニー
・・・
泣くのは今日だけにして、明日はちゃんと挨拶しよう
姉ではなく、臣下として・・・ハミルトン公爵夫人として
・・・魔力を封じられてから、一年
あのおぞましい男に・・・
私は意識を集中して、魔力を発動、身体強化発動を試みる
できるわけないのに
いくら集中しても体に力はみなぎらない
いくら集中しても・・・
私は立ち上がって鏡の前に立つ
私の胸に刻まれた呪紋
魔力封じの呪紋
あの男が死なない限り解呪できない、呪い
あの男の物である、印
・・・・・
・・・・・
帰りたい
一年前に帰りたい
最後にアーネストと話をしたあの時に帰りたい
あの時に帰って、言いたい
嫁ぎたくないと、言いたい
どこにも行きたくない、と、言いたい
アーネストはこんな姉を許してくれるだろうか
王女としての務めを果たすより、自分の気持ちを優先する私を許してくれるだろうか
こんな情けない姉を、許してくれるだろうか
許してくれる、もし戻れたら、きっとあの子は私を許してくれる
そして私が、ここにいることを、アーネストのそばにいることを許してくれる、きっと
あの子は優しい子だから
こんなバカな姉でもきっと、許してくれる
帰りたい、あの時に帰りたい
子どもみたいに泣いてしまうだろうけれど、そんな私をアーネストに見られてしまうだろうけれど、
でも、帰りたい、あの時に
目を覚ましたら、深夜だった
目を覚ました私は、何か違和感を感じた
なんだろう、変だ
この違和感はなんだろう
なんだか、解放されたような、高揚感がある
変だ
私はベッドから起き上がり、床に足をついた
足をついて立ち上がった瞬間
懐かしい感じがした
騎士として過ごしていた一年前までの私と同じ感覚
まさか、と思った
まさかそんな、と
私は意識を集中する
すると、力が、私の魔力が戻ってくるのを、湧き上がってくるのを感じた
夢じゃない
私には魔力が戻り始めている
昔の私に戻り始めている
私は鏡まで歩いた
体が羽のように軽い
鏡の前に立って、胸の呪紋を確認した
呪紋が消えていた
それはつまり、あのおぞましい男が、ジェラルド・ハミルトン公爵が、死んだことを意味した
あの男が死んだ
あのおぞましい男が
そう理解すると私は、私の体は、耐えがたい気持ちになった
歓喜が次から次へと湧き上がり、その喜びに、私は到底耐えられなかった
私は解放されたのだ
アーネスト
アーネストに言いたい
私はもうハミルトン公爵夫人ではないことを、今すぐ、アーネストに言いたい
そこで私はようやく気付く
どんなにおぞましくとも、あれは『夫』だった
その『夫』の死を悼む気持ちが一かけらも湧き上がらない私
『夫』の死を歓喜している私という女
こんな女が、一体どんな顔をしてアーネストに、弟に会えると言うのだろう、と
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