第3話 アリシア23歳アーネスト16歳
姉23歳弟16歳
「アーネスト!」
「くっ」
私の剣戟を受けきる
私は全力ではないけれどそれでも受けきる弟
この子は強くなった
私には身体強化があるけれど、この子はそれがない
それでもここまで私とやり合えるぐらい、この子は強くなった
「・・・強くなったわね」
「・・・姉上にはまだまだかないません」
そう言って笑う弟
何年もずっと変わらない笑顔
背も伸び大人となった今も、小さいころと変わらない、笑顔
「あなたは王になる人だけれど、剣士としてたぶん、この国では五本の指に入るぐらい強くなっているわ」
「はい」
涼しい顔で弟は私からの評価を受け入れる
事実それぐらい強い彼からは、驕り高ぶる気持ちが感じられない
王になるために生まれてきた弟
「最後にあなたとこうして稽古ができてよかったわ」
「・・・」
弟は答えない
私は、明日嫁ぐ
王家から臣下へと嫁ぐ
「そんな顔しないでアーニー」
「・・・こんな顔にもなりますよ、姉上
なんであんな、年寄りのもとに嫁ぐのです?」
「そんな言い方してはいけないわ、公爵は素晴らしい方よ
あなただって」
「姉上をめとる男としては認められません
それに、あの男は、謀反の」
「やめなさいアーニー、そんな噂をうのみにするような愚かな子ではないはずよ」
「・・・」
弟は私が嫁ぐことに反対している、まだ
王になる、その器をもって生まれた
賢く強く、そして誰もが次代の王として認めるこの子は、私に対してだけは、ただ、弟なのだ
私もこの子に対してだけは、ただの、姉でいたい
「明日、出立、結婚式はまだ先だけれど、あなたも」
「僕は行きませんよ姉上」
はっきりと拒絶された
弟がこんな風に拒絶するのは、久しぶりだ
胸が痛い
本当にこの子は私が嫁ぐのが嫌なのだ
「僕は認めません」
「アーニー」
「・・・姉上、気を付けて出立してください、道中どうか、お気をつけて」
認めないと言いつつ、私を心配してくれることは変わらない
「ええ、もちろん気を付けるわ、護衛もいっぱい来てくれるし
第一、私は誰よりも強いし」
「・・・どんなに強くても、策を弄するものが相手なら、後れを取ることもあります
姉上はそういうことにはとんと疎いお方だ」
「ごめんね不出来な姉で」
皮肉で言ったのではない
本当に私は剣をふるうしか能のない女だ
「・・・そんな意味で言ったのではありません、姉上」
「うん、わかってる」
私は目をつぶる
この子の優しさが染みるから
「・・・」
気配を感じて目を開けると、弟が私から一メートルも離れていないところまで動いていた
私は弟を見上げる
見上げた時にはもう、30センチぐらいしか、離れていない
背もとっくに私を追い越している弟
身体強化がなければ私はもうはるかに弟にかなわないだろう
「・・・明日は、僕は見送りません」
「・・・」
「でも道中の無事を願っています、姉上」
真剣な目で弟が言う
「ありがとうアーニー」
私はそう言いながら
弟の思いやりが染みながら
それなのに
それなのになぜか、怖いと思った
最愛の弟を、怖いと思ってしまった
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