一見して、エンタメ時代劇の様相を呈しながらも非常に個性的な作品です。
12世紀の中国という時代観に縛られつつも、一切ぶれずに自分が信じる愛を貫き通すヒロインが魅力的です。
この時代の女性は皇后だろうが正妻だろうが男性の所有物。名前も残りません。
女性に生まれた時点で人生の選択など皆無、でも封建的、儒教的な考えと現代の自立して生きる女性観が絶妙なバランスで同居しています。うまく折り合いをつけているかんじ。
一般的なヒロインが、金持ちで美形な男、王子とか皇帝とか貴族とかに選ばれて愛されて結婚することをゴールにしているのに対して蘭児は違います。
貞女でいたいと思いつつも貞女の模範的な生き方にどこか懐疑的であり、別の形で愛を成就しようとする。
彼女の生き様は王道ではないかもしれない。けど選択肢としては全然アリ!
カッコイイと思うし、カッコイイ作品だと感じました。
これは…と呻らされる作品。毒を盛られた皇太子は障害を負ってしまい、こともあろうに国史にまで不自由な体をあげつらわれ誹謗中傷されてしまう。正史にまで悪く書かれ後世に残ってしまうなんてもう誹謗中傷のスケールが違う。それに対して彼は何もしなかったわけではなく…?
彼はこの境地に達するまでにどれほど苦しんだのだろうかと考えてしまった。
物語はとても静謐で、それでいて力強い。人間の尊厳とはハンデを負っても罵倒されても突き崩せるものではなく。
ひどい言葉に傷ついて傷ついてそれでも屈しなかった心の強さ、誇り高さに心打たれた。
読み終わった後で、考え込んでしまったのです。
とてもいい作品だから紹介したいけど類似作品が思い浮かばない...
「~のような」という紹介ができないのです。困った。
身分違いの恋愛や三角関係など基本はおさえているようで思い浮かばない!
かといって流行りのタグの寄せ集めでもない!(後宮くらい?)
それだけ作者のオリジナリティーが強い作品かと思うのですが表現が難しい。
一晩うんうんと悩んだのですが、あえていうならゲームのICOかな、と。
ボーイミーツガールでずっと逃げているわけではないのですが、どことなく透明感が
あるのと必要最低限のことしか語らないサッパリとした文体が近いような気がしました。
読む人によって印象が変わる作品だと思います。
読む側にそう思わせること自体すごいことです。
一見すると御膳番(蘭児)をめぐる男2人(3人?)の恋愛劇のように見えますが…
もしかして…コレって皇太子をめぐる女3人の話なんか?
と思った瞬間スゴッ!!!!!!!!
スゴすぎんかコレ…となってしまい…
あの、家の間取りは同じなのに奥行きが全然違うっていうか…
見方がひっくりかえってしまったよ…!
そっか、
中国化(というかどうか知りませんが)しなければ何の問題もなく結婚できたんだ…
匈奴とか突厥に嫁いだ公主とかもそうなってますもんな…出身地は関係ないし
この逆の発想はなかった…
ここらへんはもっと説明したほうがいいんじゃないでしょうか。
わからなくても本筋には関係ないかもですが、
意味があってこの設定なんだと思いますし、ちょっともったいない気がしました。
ラストに向かって話が一気に動いていくさまが、まさに大河ドラマ!
あ、歴史研究家のいうことは信用できませんのでご注意ください(笑)
最後の最後まで油断せず読むことをおススメしまくります。
中華?儒教?なにそれ?なタングートの兄妹が好きでした。
最後まで生まれや親から逃れられなかった某兄妹とは対照的です。
恋愛と並行して親子関係みたいなのがずっと語られていて、皇太子も親との関係については一つの答えを出しているように感じました。
逃げてもいいじゃんと思っちゃったんですよね。逃げていいよって。
この世界には本来の中国が存在します。
体は壊されちゃって元には戻らないし一生不自由なままなんだから、逃げてもだれも責めないし。
四川でも雲南でもどこにだって行けるしそのほうが安全だし幸せになれるのに。
けどそうはしない。地獄にふみとどまる勇気があった。
体は壊されても心を壊すことはできなかった。現実世界でもこういう人間が一番強い。目の前にいたら脅威です。
逃げなかったし、放り出さなさなかった。その史実の部分に一番感動しました。
和物や和風ファンタジーが好きなので舞台が日本ならいいのになと思いながら読みました。読み終わった今は中華世界でないと成立しない物語(ファンタジー)だと認識しています。日本、和の世界にするには無理があるのです。舞台や設定に必然性があり、実に緻密で計算高い筆致で描かれています。文章は恋愛ものらしく人物の心情描写に主眼がおかれて情感豊かです。人物の生き死にに関しては残酷なまでの作者の冷徹な眼を感じる一方、柱として仏教世界の愛、最初から最後まで愛(慈悲)がつらぬかれている印象です。ただ肝心の真実が伝わらないため後世の人間がこの物語のテーマであろう愛を受け取ることができないのが切ないです。
主に皇太子の個人としての幸福について考えてしまいました。彼の個人的な幸福とは恋愛等は抜きにしても太后とともに国を治め盛りたてることだったと思います。そうならなかったのは悲劇というほかありませんし、だからこそこの愛の物語は始まり愛によって帰結するのです。最後の舞のシーンは特に象徴的です。廃嫡殿下の公的な物語はここで終わります。彼女が舞う姿を目にしながら皇太子の心情が一切語られないのはすごいなと思いました。たぶん一番会いたかった人なんじゃないですか。この物語が愛憎劇ではあっても復讐劇にならないのは彼女の存在あってこそでしょう。万感の思いがあるだろうしその描写を読者も期待するだろうに、一行も語らない。作者は沈黙し、彼も沈黙する。よくよく考えれば彼は声が出ようが後遺症で出なかろうがずっと沈黙しているのです。心のもっとも奥の部分、本心を明かさない。周囲が皇太子はこうなのだろうと勝手に想像しているだけです。本心はわからないけど行動はする。行動には慈悲がある。実が伴うので周囲はついていくし歴史にも残る。史実から考察が始まり、現代までとめどない考証のリピートになっているかと。
公的な物語が終わったあとで彼はとある人物に「好きだ」と言います。彼の私的な部分、個人的な好意がここで初めてわかりやすく表に出てくる。この流れは見事というほかありません。舞のシーンから何回か読み返しましたがさりげなくそれでいて胸を打ってやみません。皇太子というおおやけの呪縛から解放された瞬間でもあるような。何気ない言葉ですし恋愛的な意味はありませんがこれもまた愛であるとわかります。会いたいと思っていたことが伝わってきます。
正史において廃嫡殿下は苦難に満ちた孤独な生涯であったと書かれているのかもしれません。実際に事実だけを見ても大事な人、愛する人を喪うばかりの悲しい人生です。けれども希望もあります。過酷な人生でもそっと秘められた私的な部分においては、もしかしたらささやかな幸福を見つけたのではないか。そう読者に期待を持たせてくれるのもこの物語の愛、慈悲ではないかと思います。
ライトノベルというよりは文芸史劇よりな気がしますが、中華ファンタジーもいいものだなと思いました。時間がかかりましたが読んでよかったです。恋愛エンタメ作品としても上等です。レビューも様々な意見があって面白かったです。私のそれは偏っている自覚があるのでもっと多種多彩な考察や感想を読んでみたいです。
文句なしに素晴らしかったですホントに。最低でも星がひと桁足りないと思います。
特にセリフが冴えすぎ、キレすぎでもうメッタ刺しにされました。
普通の会話もキャラの性格がよく出ていておもしろいのですが、ここぞという場で繰り出される名言の数々に涙涙…
おすすめは幾つもありますが
↓これが個人的に優勝ですね
「私は……ただ、息子に会いたかっただけ」
彼女の絶対に外に出せない心がこもっていると思うと…
このあと皇太子が頓珍漢というか、ズレたことを言ってしまうのですが(これは仕方ない)その返しがまた…
そうじゃないんだよお!そうじゃないんだよなあ!わかってくれえ!
と叫びたくなりました。
たぶん想いは同じはずなのに絶妙かつ残酷なすれ違いに悶絶するしかない…
恋愛ものの醍醐味といえ、あまりにも切ない。
傑作ですね。皆さんも悶えてください!