#08 膝枕は古い!これからは尻枕なのだよっ!
ドキドキする。
やっぱり好きなんだって実感した。
私服のリン君もかっこよかったし、お弁当美味しいって言ってくれた。
幸せすぎて、死にそう。
『ナノは恋愛ベタにもほどがあるって』
「だって〜〜〜どうしたらいいか分かんないんだもん」
『それでも鉄壁って言われてる黒岡と、なんだかんだでうまくいってんだからナノはがんばってるって』
「うん……あれだけ誘っても一年間デートすらできなかったのに、今日は念願の夢が叶ったんだよ。テンションも上がるって」
『はいはい。良かったね』
自分のやり方が間違っているんじゃないかって不安になって、親友のツムちゃんに電話をしてしまった。
『今何時……ふぁぁ』
「ごめん、寝てたよね?」
『うわ……もう昼すぎてんじゃん』
「それでね、お弁当は喜んでくれたんだけど、もう手を尽くしちゃったっていうか」
『あのさ……ナノ。あたしだって恋愛なんてしたことないんだから、知るわけないじゃんって話。相談相手間違ってるっつーの』
「はぁ、なんだか胸が苦しい。お料理は毎回作るにしても、他になにか決め手があればいいんだよね」
『考えられるとすれば……軽いボディタッチとか? 知らんけど』
「なるほど」
『ただ、黒岡って変わってるからなぁ』
「やれるだけのことはやってみるっ! ツムちゃん、ありがと〜〜〜っ」
ふっふっふっ!
良い策を思いついちゃった!
◆
二十分は放置プレイされているんじゃないだろうか。
白水はあれからずっとトイレに行ったまま戻ってこない。このままだとここで放置されたまま一日が終わり、休日だというのに俺は勉強もできないまま今日という日のエンディングを迎えてしまう。
もう俺の中でエンドロールは流れている。
出演:俺
演出;俺
監督:俺
・
・
・
エキストラ:白水菜乃
なんて考えていると白水が小走りで戻ってきた。
「ごめんね〜〜〜リン君。彼女がいなくて寂しかったでしょ」
「彼女じゃないけど、ああ、そうだな」
「じゃあ、寂しくて泣きそうだったリン君にいっぱい甘えさせてあげる」
「いえ、それは……本当に結構です」
「ほら、遠慮せず食後のお昼寝はわたしの膝を使ってください」
「膝?」
「膝を枕代わりにするアレ。男の子の夢なんでしょ?」
こいつはなにも分かっちゃいない。
「お前知ってるか?」
「なにを?」
「膝枕って首に対して高さも合わないし、第一、太ももは折り曲げると硬いんだ。人間の二足歩行を担う筋肉が集中してるんだから、ちょっと考えたら分かるだろ。つまり、寝心地は悪い。以上」
ちなみに俺はしてもらったことは一度もない。
きっとそうだという推測と理屈でしかないが、自分で正座をしてみれば分かるだろう。
「硬いからいや?」
「そうだ」
「柔らかければいいの?」
「まあ……枕なら普通そうだろ」
「じゃあ……お尻?」
「は……?」
「だって、柔らかさをご所望なんでしょ……?」
「そういうことじゃ」
予想の斜め上をいく展開を口走りやがった。
S級美少女の尻を枕に……って変態だろ。
そんな考えに行き着く時点で変態としか思えない。
「あっ、でも高さはお尻のすぐ下あたりがいいのかな?」
白水は立ち上がり、俺に尻を向けてくる。それで、「ほら、この辺」と指してみせた。短いプリーツスカートだからか、周りから見たらまるで俺が変態のように思われないか?
「お前はバカか。そもそも昼寝なんてしてる場合じゃない。時間は有限だ。片付けたら勉強に移るぞ」
「えぇ……お昼休憩大事だよ。ほら、リン君も眠いでしょ?」
「……俺は眠くない」
「とにかくリン君、実験しよう」
「実験?」
弁当箱を片付けてバッグにしまいこみ、白水に連れられて図書館の外に出てホールのベンチに移動した。図書館の前の科学館のホールは広く、天井は吹き抜けとなっている。そこはベンチが幾つか並んでいて、まるで室内の公園。
外とは違い、エアコンが利いていることもあって快適だ。
「まずね、ここにリン君が座る」
「うん。それで?」
「それでわたしがこっちに座るでしょ」
ベンチに座らされて、俺のとなりに白水が座る。
ただそれだけだった。
なにが実験なんだ?
「よいしょっと」
「待て。なんで俺が」
「だって、リン君が言ったんだよ。膝枕は快適じゃないって」
「確かに言ったな」
「うん。でも、愛があれば快適なんだよ」
俺の両膝の上に白水が頭を乗せてきた。そう、俺が白水の頭を太ももに乗せて、膝枕させてやっている形になったのだ。
つまり白水は、“本当に膝枕は快適じゃないのか?”ということを実証したいのだろう。
「ほら、すごく良い。あ」
「なんだ?」
「お尻枕ってベンチではどうすればいいのかな?」
「馬鹿かお前は。こんな場所でできるわけないだろうがッ!!」
「じゃあ、今度寝そべることができる場所でしよーね?」」
「しよーね。じゃねえよ。絶対にしないからな」
「わたし思うんだよね」
「……なにを?」
「これからは膝枕じゃなくて、お尻枕の時代だって」
「はぁ……」
白水には羞恥心とか、そういうものは備わっていないのだろうか。
「リン君良い匂いする」
「柔軟剤な」
「ねえねえ、どう?」
「なにが?」
「彼女を初膝枕するのって」
「彼女じゃないけどな。どうもなにも……おかしくないか?」
「ぜんっぜんおかしくない。ほら彼氏、髪をナデナデして」
「するかっ!! いや、だから俺は彼氏じゃない。あくまでも先生だからな」
「して」
「しない」
「お願い。一生のお願い」
「それはこの前聞いたぞ」
「いつ?」
「昼休みに自販機行くとき。“午前ティー”のミルク買ってこいって。一生のお願いだったろ」
「じゃあ、一生お願いを後世の分まで前借りするから」
後世の分まで前借りしたら、生まれ変わっても俺が白水の相手をしなくちゃいけないってことじゃないのか。それはそれで地獄すぎる。
『お兄ちゃん頭ナデナデして』
『
『お母さんはしてくれるよ?』
母親……か。
「ほらこれでいいか?」
「うんっ! リン君の手って大きいね。繊細そうでピアニストみたい」
「ピアノはセンスの欠片もなかったけどな」
妹と違って。ピアノもダメだったがな。
髪を撫でていると、白水はクスクスと笑った。
「なにがおかしい?」
「ううん。リン君って面倒見がいいんだろうなって。口がすっごく悪いのに」
「別に良くない。ほら、もう終わりだ」
俺は誰からも必要とされない人間だった。
だから、妹に撫でて欲しいと言われたときに素直に応じたのは、妹が俺を必要としている、という自尊心が働いたからだ。
面倒見が良かったんじゃない。
妹は俺の気持ちを察してくれただけ。
今でもそうだ。
嫌なことを思い出したな。
髪を撫でていた俺の手首を白水が握った。
「本当に繊細だなぁ。スキンケアしてる?」
「してない」
「そっかぁ」
いつの間にか手を握られた。ドサクサに紛れてなにしてるんだか。
「白水、本当に勉強しないと」
「そうだね。でももう少し」
そんなことを言っていううちに白水は本当に寝てしまった。確かに食べたら眠くなるのは分かるが、本当に膝枕で寝るやつがあるか。とはいえ、あの弁当を作るために早起きしたのだとしたら、眠くなるのも仕方のないこと……かもしれない?
それにしても幸せそうな顔をして寝ている。
危機感というものがないな。
期末試験まで時間がない。
本当に転校してしまうのだとしたら、こんなことをしている場合じゃないのだが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます