1章 魔法使い
家財の処分を終えると、石造りの家は以前にも増して閑散として見えた。リズは明かりの差す窓辺に寄って、旅の荷物を今一度確かめた。
燻製肉、焼き菓子、メニエから貰ったチーズ、干し芋、革袋の水筒、砥石、火口箱、笛、単眼鏡、ロープ、ピッケル。
金は少額を革袋に入れ、残りは腹巻きの中に隠した。大金ではないが、仕事が見つかるまでしばらく世話になる金だ。万が一、奪われたりなくしたりしたら事である。用心するに越したことはない。
腰のベルトに護身用の短刀を差し、皮のマントを羽織った。荷物を担いで、リズは長年暮らした家を外から見上げた。
「父上、母上」紐に通して首から提げた父母の指輪を、服の上から両手で包む。「どうか、親不孝をお許し下さい」
短い祈りを捧げて、リズは村の出口へ向かった。
見送りの老夫婦と最後の別れの言葉を交わす。
「次の行商の馬車を待つ気はないんだね?」
「ええ。一本道だそうですし、自分の足で歩きたいんです」
そうか、と呟くと、メニエの夫はしばらく黙ってリズを見つめた。目尻に涙を滲ませながら、彼は無理やり微笑んだ。
「気をつけて行くんだよ」
「……はい。今日までお世話になりました」
「ああ、リズ!」
メニエはリズを抱きしめた。
「……本当に行くのね?」
「ええ、メニエ。……寂しくなるわ」
メニエはリズが物心つく前から、母の面倒をよく見てくれていた。特に父が亡くなってからは、病床の母を毎日見舞い、竈で料理を作って、暗くなりがちだった家に何度も温かな火を灯してくれた。
メニエは目に涙を溜めてリズの髪を撫でた。
「どんなに離れていても、あなたのことを思っているからね」
「私もよ」リズはメニエを力強く抱きしめた。「一緒に母を看取ってくれて……本当にありがとう。あなた方がして下さったすべてのこと、一生忘れません。ご夫婦とも、どうかお元気で」
老夫婦に頭を下げ、リズはそれきり、二度と村を振り返らなかった。振り返れば足を止めてしまいそうな気がした。
カーン、カーン。
ガントがつるはしを振るう音が、間延びして響いている。
カー…ン、カー…ン。
遠く、離れていく。
ガントは無骨な山男だ。古い馴染みが死に、弟子が次々と村を離れても、ひとり黙々と山を掘り続けている。
リズが村を出ると告げたとき、彼は手持ちの中で一番小ぶりなピッケルを手渡した。別れの言葉はなかった。だからリズも、何も言わずにそれを受け取った。
(ありがとう、ガント)
山を下るリズの背後で、ガントがつるはしを振るう音は、次第にぼやけていった。
灰色の山肌に、初冬の木枯らしが容赦なく吹きつけた。
暮れなずむ空の裾に夜の色が滲んだ。
野営の準備は明るいうちにすませるのが鉄則である。リズは荷物を下ろし、岩の天井に守られた庇の下で石を積み上げ、即席の竈を作った。ロープとピッケルを使って崖を降り、灰色の森で枯れ枝を集める。
借宿に戻り、使い慣れた火口箱を荷物の中から取りだした。火打ち石のカチカチいう音、弾ける火花。病で伏せった母に代わり竈の火を守ってきたリズには、どちらも慣れ親しんだものだった。
薄暗い手元から、ふわりと赤い炎が起き上がった。
はぐれ狼や、冬の寝床を探してさまよう熊といった野生動物を警戒するのはもちろんだが、一人でいるとき何よりも気をつけなければならないのは、不安を生み出すことだ。不安は冷静さを奪い、体力を無駄に消耗させる。
火に当たって焼き菓子を囓りながら、リズは母から聞いた昔話を思い出していた。
「おとぎ話じゃないの。魔法使いはね、本当にいるのよ。私は会ったことがあるから知っているの。その人はとても立派な魔法使いで、水の上を歩いたり、夜空に光の橋をかけたりもできたのよ」
「どうしてそんなことできるの?」
幼いリズが続きをせがむと、母は寂しげに微笑んだ。彼女は腕にはめた銀色の腕輪を、手のひらでそっと包み込んだ。
「実は母様も知らないの。魔法使いは秘密を大事にする人たちだから……。あなたも会えばわかるわ。いつかきっと……」
夜の帳が下りて、辺りの景色が闇に溶け込んでいく。
リズはマントを体に巻きつけ、狭い岩陰に体を滑り込ませた。
野生の獣や追いはぎに襲われるかもしれない、危険と隣り合わせの旅だが、そんな中で、母の面影とともに思い出す魔法使いの物語は、彼女の心を安らかにした。
リズは一日かけて山を下った。
麓につくと、これまで崖の上から見下ろしていた森の木々が、空を狭く閉ざすようになった。行商の馬車が刻んだ轍を辿りながら、リズはフードを取った。背中にしまい込んだ髪を、両手で外に出す。新鮮な冷たい空気が髪を洗うようだった。
ここは村よりも空気が濃い。鼻から大きく息を吸う。
村で最後に行商人と会ったとき、彼は、一緒に山を下りないかとリズを誘った。母親を亡くした少女の身の上に同情したのだろう。
だが、その申し出をリズは断った。
一人旅は危険だと行商人はだいぶ食い下がったが、最後には折れてくれた。厚意を無下にしたようで気が咎めたが、リズは村を出るときは、自分の足で出て行くと決めていたのだ。
途中で道をそれ、山道を歩いているときに見当をつけていた川の方角へ向かう。迷わぬよう短刀で木の幹に印をつけながら進んだ。
苔むした大きな岩を乗り越えたとき、リズは川の音を聞いた。
そして、木立の先に流れる川と、川岸を目前にして倒れている人の姿を見つけた。
毛皮の外套に隠れているが、体の大きさは、壮年の男性を思わせた。足音を立てぬようジリジリと距離を詰める。油断なく右手に短刀を握りしめながら、リズは倒れた男の頭側へと回り込んだ。背後から襲われたらしく、灰色の髪が血で汚れている。
首に手を触れると、まだ脈があった。
短刀を鞘に収める。
リズは男を仰向けにした。カラカラにひび割れた唇から、微かにうめき声が漏れる。見たところ旅人のようだが、荷物はない。おそらく追いはぎにやられたのだろう。
少し迷ったが、まだ生きている人間を見捨てるのは忍びなかった。
「しっかりしなさい」
リズは男の肩を揺すった。反応がない。彼女は革の水筒から、手の受け皿に少しだけ水を出した。
「水です。聞こえますか」
乾いた唇をそっと湿らせると、閉じた瞼が薄く開いた。彼女は川で手ぬぐいを濡らして軽く絞り、血と砂で薄汚れた顔を拭った。
日焼けした肌は浅黒く、太い眉は髪の毛と同じ灰色だ。口まわりの髭は、本来はしっかり手入れしているのだろうが、今は半端な長さに伸びている。
目やにを取ってやると、男の虚ろに開いていた瞼が、パチパチと瞬いた。深い鈍色の瞳にぼんやりと光が戻る。
リズは男の頭を支え、水筒の口を乾ききった唇にあてがった。
「水を飲みなさい。一口ずつ、ゆっくり」
水筒を傾けて一口分だけ注いでやると、男の喉が嚥下した。リズは何度もそうして男に水を飲ませた。
頭の上にいた太陽が、次第に傾いてきた。
軽くなった革袋に川の水を汲む。リズがまた頭を支えて飲ませようとすると、男はそれを手で制し、水筒だけ受け取った。ゆっくりと体を起こしてから、ぐいぐい浴びるように水を飲み始める。
「そんなに急いで飲んでも、体が受けつけませんよ」
案の定、男はむせて咳き込んだ。
リズは水筒を取り戻し、改めて男を観察した。年老いているが、体つきは筋肉質で逞しい。服の上からも胸板の厚さがわかる。渇きで痩けた頬と首回りが回復するのも時間の問題であろう。
彼の眼差しは、死の淵から戻ったばかりとは思えぬほど、静かで理性的だった。リズが男を観察するように、男もまた、リズを見ていた。そのことに気づいた瞬間、彼女は急いで立ちあがった。
「そこを動かないで。……しばらくしたら戻ります」
ポケットから笛を出して男に放る。
「獣よけの笛です。ないよりマシでしょう」
彼女は男を置いたまま、逃げるように上流へ向かった。
さらさらと流れる川のささやきを聴くうちに、リズは自分のしたことが恥ずかしくなった。先に相手を無遠慮に見つめたのは自分のほうなのに、相手にばかり非があるような、意地の悪い振る舞いをしてしまった。
そして理由はどうあれ、半病人を放り出したのだ。生死の境をさまよい、意識を取り戻したばかりの男を。
山から流れ出した天然のわき水で、リズは顔を洗った。身を切るような冷たさに目が冴える。
戻ろう。
そう決めて顔を拭ったその時、狼の遠吠えが森にこだました。
リズはハッと辺りを見渡した。木と岩ばかりで、獣の姿はない。
狼がまた吠えた。今度は応える仲間の声があった。
リズは駆け足で来た道を引き返した。
元の岸辺に戻ると、男が新しく火を焚いていた。彼はリズの姿に気づいて、気さくに手を挙げた。
「やあ、お嬢さん。さきほどは失礼」
「それどころではありません」リズは男の言葉を遮った。「遠吠えが聞こえなかったんですか。狼が近くにいるんです」
「そのようですな」
男は慌てる様子もなく、川から釣り上げたらしい新鮮な魚を枝に刺した。それをのんびり火で炙る。よく見ればその火には、焚きつけも火種もなかった。
(この男、どうやって火を)
リズは悠長に構える男を怪訝に見下ろした。
男は大きな平べったい石を運んできて、火の手前に置いた。腰を伸ばした男の体躯は、リズの頭ひとつ分以上も大きかった。
「心配ならさずとも、狼がこの川を越えて来ることはありません。狼よけのまじないを放ちましたからな」
「まじない?」
リズは対岸の森を気にしながら、半信半疑で尋ねた。
「……あなたは魔法使いなのですか?」
「そう呼ばれるのも久しぶりです。わたしの故郷では、まじないに通じる者たちは皆、魔道士と呼ばれます」
男の言葉に耳慣れない抑揚があるのは、異国の者ゆえか。
リズは短刀に手をかけたまま、男が用意した平べったい石に腰掛けた。彼の言うことを全面的に信用するわけではないが、狼よけのまじないの効果は確からしい。ほどなく対岸に数匹の狼が現れたが、彼らは川を前に立ち往生し、しばらくうろうろしたあと、諦めて森の奥へ戻って行った。
「火はいいですな。心まで温まる」
年老いた顔に滲むような笑みが浮かぶ。男はやおら立ち上がり、騎士のように胸に手をあてながら、リズに頭を下げた。
「命を救っていただき、感謝の言葉もありません。わたしの名はダレル。ダレル=リーヴと申します」
「ご無事で何よりでした。リズ=ラッセルです」
ダレルの笑みが深くなる。
「良い教育を受けておられる。さよう、行きずりの人間、とりわけ魔道士に、本名を明かすべきではありません」
「あなたはどうなのですか?」
「自分らしく生きるためなら、名前はいくつあってもいい」
「面白い人ね」
リズの口元が綻んだ。母が亡くなってから初めてのことだった。
魔法の火を挟んで、二人は早めの夕食をとった。
「追いはぎに荷を奪われていなければ、もう少しマシなものをお出しできたのですが」
「十分です。いただきます」
焼き魚の白い身が口の中でホロホロと崩れる。塩気を含んだ柔らかな身は、胃の腑に沁みるほど美味かった。魚をあっという間に食べ終えると、リズはお返しに、溶かしたチーズを載せた焼き菓子をダレルに振る舞った。
焼き菓子を受け取ったダレルの瞳に、明るい喜色が浮かぶ。
「ありがたい。人からこれほど良くしていただくことは、滅多にありませんからな」
「何のことです?」
ダレルはぺろりとチーズを平らげた。
「この国に限った話ではありませんが、魔道士というのは世間の鼻つまみ者でして。『魔の道を往く』という由来から、魔の者と同一視される傾向があるのですよ。触れれば障りがあり、殺せば祟りをもらうとね」
「けれど、私の母は」リズは言いかけた言葉を飲み込んだ。「あなたが追いはぎに襲われて無事でいられたのは、そのためですね?」
「皮肉なものでしょう」
「不幸中の幸いでした。命あっての物種ですもの」
温和な笑みを絶やさないダレルとの軽口混じりの会話は、純粋に楽しかった。リズは久しぶりに胸が浮き立つのを感じた。
ダレルの指の動きに合わせて、付近の枯れ枝が風に乗って運ばれてきた。彼は集めた枯れ枝を魔法の火にくべた。パチパチと、炎がはぜる音が鳴り始める。
「しかしリズ殿は、魔法を見てもあまり驚かれませんな?」
「立派な魔法使いの話を聞いて育ちましたから」
ダレルは虚を突かれたように目を瞬いた。
「参りました。本当にいいお嬢さんだ」
彼はひとしきり笑った。
「魔法は自然の理の一部に過ぎません。神代の大鷲と縁を結んでヨームを建国したユリウスのように、魔道士でなくとも、精霊と意志を交わすことはできます」
「なら、どうして世間の人たちは魔法使いを悪く言うのですか?」
「先人による風評被害ですな。人は誰しも、己に理解できぬ事柄を厭うものです。魔道士ほど邪気を持たない人種はいないと、わたしは自負しておりますがね」
ダレルの言うことは、どこまで本気かわからない。だが、不思議と引き込まれた。リズは彼の口にする冗談交じりの言葉に、クスクス笑った。
ダレルは焚き火に枯れ枝を足しながら、何気ない調子で尋ねた。
「それはそうと、リズ殿。ご両親はどうされました?」
突然のことで、リズはとっさに返事ができなかった。楽しいひとときの夢から覚め、現実に引き戻される。膝の上に手を置いて、彼女は心を静かに保つよう努めた。
「……亡くなりました。父は十年前に。母はつい先日、葬儀をすませたばかりです」
しばし、枯れ枝がパチパチはぜる音ばかりが響いた。
ダレルが思案するような顔で、顎髭をざらりと指で撫でた。鈍色の瞳の中で、映り込んだ炎が暗く踊っている。
「……なるほど、そういうわけでしたか。では、これからコル・ファーガルへ行くのですね」
「はい。都なら仕事があるかと思いまして」
「は? リズ殿が働かれるのですか?」
目を丸くするダレルに、リズは不安になって問いかけた。
「私に出来るような仕事は、都にはないでしょうか」
「いえ、そういうわけでは」
ダレルは慌てて戸惑いを打ち消し、一転して明るい声を出した。
「これからリズ殿が参りますコル・ファーガルは、人も物資も集まる、北方辺境領の要所です。わたしも以前、十年ほど暮らしていたことがありますよ。大丈夫、仕事はあります。着いたら早速、知人を当たってみましょう」
「ありがたいお話ですが、あなたにも都合があるのでは?」
「いえ、わたしも元々は都へ向かうつもりでした。助けていただいた礼に、これぐらいのことはさせて下さい」
口では遠慮するようなことを言ったものの、ダレルのこの申し出は、リズにとってありがたかった。都へ無事に辿り着いたとしても、仕事が見つかるまで数日はかかるだろうと覚悟していたのである。
交代で火の番を務めながら、二人は川岸で一夜を明かした。
翌日、ダレルは森から集めてきた蔓で、小舟を編んだ。
彼の手の動きに従って蔓がスルスルと編み込まれていくのを、リズは物珍しく見守った。母から話には聞いていたが、実際にダレルが魔法を使うところを目の当たりにすると、確かにそれは、奇跡としか言いようがなかった。
隙間なく編み上がった舟の縁を、ダレルは満足げに叩いた。
「水流に乗っていけば、歩くよりも早く森を抜けられます」
「すごいですね。ダレルさん、疲れてはいませんか?」
一晩でだいぶ血色が良くなったとはいえ、昨日まで行き倒れていた男である。
彼はカラカラ笑った。
「歩くことを考えれば楽なものです」
リズは水上に浮かぶ舟に、おそるおそる片足を伸ばした。どうにも足場がゆらゆらして頼りない。岸に足を戻す。
「ひっくり返ったり、沈んだりしませんか?」
「舟は積み荷の重さで安定するものです。大丈夫、ひっくり返ることはありませんよ」
先にダレルが乗り込んで腰を落ち着けると、舟の揺れが小さくなった。彼の体が軸になったようだ。
「さ、お手をどうぞ」
差しのべられた手を取ろうと、リズが腕を伸ばした刹那。
ダレルが身を乗り出して勢いよくリズを引っ張り込んだ。舟が大きく揺れ、川面から飛沫が跳ねあがる。リズが驚いて声も出せずにいるうちに、彼は舟を急発進させた。
何事かと起き上がり、リズは息を呑んだ。
弓や剣で武装した五、六人の男たちが、森から岸へ駆けてくるところだった。首領らしい顎髭の男の指示を受けて、足の速い二人が川沿いに舟を追ってくる。
「やれやれ。今度こそ命を取られるな」
指先で操舵しながらダレルがぼやいた。
「ダ、ダレルさん」
「必ずお守りします。しっかり掴まっていて下さい」
舟は水流以上の速さで川を突き進んだ。
慣れない揺れに耐え、両手で船縁にしがみつきながら、リズは岸に目を向けた。ダレルはすでに追っ手をだいぶ引き離していた。森の中から飛び出した追いはぎの首領が馬を駆って食いつくが、足場が悪いせいか速度が出ていない。
このまま逃げ切れるかと思えた矢先のことだった。追っ手の一人が弓に矢をつがえた。
「よせ、射つな!」
首領の制止を振り切り放たれた矢が、弧を描いて舟に迫る。
ダレルが船首を背に立ち上がり、目の前に手をかざした。
矢が空中で止まり、クルリと向きを変えて射手のもとへ返る。自らが放った矢で腕を貫かれた追っ手は、もんどり打って倒れた。
「射つな! 射つことは許さん!」
首領の割れた怒号が響き渡る。
ダレルが文字通り一矢報いたことで、追っ手の足並みは大きく乱れた。もはや舟に追いつくことはないだろう。彼らの姿はみるみる小さくなり、じきに木立に隠れて見えなくなった。
リズはふらつきながら起き上がった。まだ頭がぐらぐらした。
「また……追ってくるでしょうか?」
「なに、心配には及びません。魔法で数日は足止めできます」
船縁にもたれたダレルが、のどかに空を見上げる。
まるで始めから襲撃などなかったかのようだ。
しばらく気が落ち着かなかったリズも、次々と移り変わる風景に、次第に心を奪われるようになった。何時間もかけて歩くはずだった森が、ぐんぐん視界の端を通り過ぎていく。
舟は一時間たらずで森を抜けた。
リズは木立の向こうにそびえる山脈を見上げた。生まれてからずっと暮らした村がある山、両親の墓標が立つ山だ。
(父上、母上……ごめんなさい)
心の中で懺悔する。
(……ひとりになってしまって、私、悲しいんです。言いつけを破っても、オズウェルに会いたいの)
胸に提げた指輪に、服の上から手を重ねた。
水車小屋の手前で舟を下りる。道中の宿場で宿を取り、リズとダレルは、草原に拓かれた街道を黙々と歩いた。
太陽が地平に隠れる頃、コル・ファーガルの城門を示す小さな明かりが、薄闇の彼方に灯った。
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