女...だった...のか?──1.5
(佐奈視点)
突然だがわたしは"女"だ。そしてわたしの隣にいる奏という幼馴染も、”女”だ。
なぜこんなことを突然言うのかは、わたしたちが今まで性別を偽装して目の前にいるもう一人の幼馴染と接しているからである。
…今思うと最初にちゃんと言っておけばこんなことにはなっていなかっただろう。
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わたしは泣いていた。なんでかは忘れた。
「グスッ、なんでっ、なんでなのっ」
「大丈夫か?」
「男の子なんだから泣くなよ〜」
「いやわたし、男の子じゃな...」
「そんな泣くための言い訳いいから。…って俺が言えることじゃねぇけどな」
「泣く時は思いっきり泣け。我慢せずに泣く方が後が楽だろ」
「っ……」
この時もっとはっきり「わたしは女の子だー!」とか言っておけばよかった。
結局そのあとはめっちゃくちゃに泣いた。…そしてわたしは忘れない。この時した約束を。
「それじゃ。あとはお家の人に迎えてもらいな」
「あの…。ちょっと待って!」
「…なに?」
「…いっしょにいてくれない?」
「まあ…いいよ」
「そんなにわたしといるの…いやなの?」
「いやいや。いやじゃないよ!なんならずっといっしょに居てもいいくらいだよ」
「…約束だよ。ずっとね」
「あ、ああ。約束するよ」
当時の彼はべつにそんなつもりで言ったわけではないだろう。でもわたしは違う。本当に彼といっしょにいたくて言った。
話すことも特になく沈黙が続いた。
「…ねえ」
「どうしたの?」
「自己紹介しない?」
「いいね。俺は神川秋、小学四年生だ。はい、そっちの番」
「え、えっと。…秋田佐奈、小学四年生。」
「え?同学年なの?てっきり一個下かと...」
こんなこと言われたらいつものわたしなら殴りにかかっていただろう。でもできなかった。なぜか彼といると調子が狂う。こんなのおかしい。
「なわけないでしょ。身長もそんなに変わらないじゃない」
彼とわたしの身長差はざっと5センチほどだ。
「いや、俺けっこう四年では小さい方だから。だから同じくらいなら三年の高い奴って可能性もあるだろ」
確かに…。六年生でも四年生と同じくらいの身長のひといるもんな。
「まあ、確かにその可能性もあるけど…。というかそもそもわたし、あなたと同じ学校行ってるんだけど。」
「いやぁ、それについてはごめん。俺人の名前とか覚えるのニガテでさ。」
この反応的に、よくあることみたいだね。
「…そう。じゃあわたしの名前言ってみてよ」
「あきた…なんだっけ?」
「佐奈、よ。どうやったら忘れるのよ」
「ごめんってさら」
「だから違うって!さな!次間違えたらタダじゃ済まないわよ」
「ごめんな、さな」
「っ……。…そうよ」
名前を言われただけなのになぜか顔があつい。これが最近みんなが言ってる”恋”ってやつなのかな…。
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…これがわたしと彼の初め。そしてわたしが初めて恋を知った時。…責任とってよね。
「佐奈!このゲームいっしょに遊ばない?」
「うん、遊ぶ!ちょっと待ってて」
そろそろあの言葉を言ってもいいのかもしれない。
◇◇◇
(奏視点)
わたしは”女”だ。それを言わないといけない相手がいる。今目の前にいる幼馴染、神川秋にだ。言わなければいけない理由を最初から振り返ってみよう。
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それは、小学四年生の時のことだ。わたしはこの頃はかなり根暗で今の自分から見ても、この時期のわたしはかなり気持ち悪いと思う。
わたしはいつも通り図書室で本を読んでいた。そんな時に”彼”と出会った。
「ねえ、そこの君」
急に話しかけてきてびっくりして、当たり障りのない返事しかできなかった。こんなのが彼との初めての会話だったなんて今思う人生で一番恥ずべきことだったと思う。
「え?あ、はい。…なんでしょうか?」
「いや、そんなかしこまらなくてもいいよ。普通に何を読んでるのかなあと思って、いつも図書室にいってるでしょ?だから本のおすすめとか知りたくて」
この言葉でわたしはかなり救われた。いままで図書室で話しかけられたことがあっても、だいだいは「この本のどこのおもしろいの」とか良いことなんてなかった。もう一度言う、わたしはこの言葉に救われた。
そのあと彼とは本の話をたくさんした。人というのは不思議なもんで一回話してしまうと意外と止まらないものなのだ。
「そしてこの本の一番の魅力はやっぱヒロインが主人公にときめいてるところなんだよね。この時の表情なんか考えたらもう最高で最高で」
「そうなんだ!ここのページとかのこと?」
「そう!大正解!そこがほんとによくて…」
そしてなにより良かったのが、わたしが話してる話にしっかり相槌をうってくれた後はいろんなことを質問してくれる。本好きとしてとても嬉しいことだった。それにしてもさっきから心臓がうるさい、なんだろう…こんな感覚は初めてだったのでよくわからなかった。でも今思えばこの時からすでに恋に落ちていたのだろう。
…この後30分ほど話して、別れの時に言った言葉のせいで、秋の前では”男の子”として生きていくことになった。
「じゃあ、今日はありがとうな!」
「いやこっちこそ聞いてくれてありがとう」
「これからも同じ男の読書好きとしてよろしくな」
この時わたしは後で誤解を解けばいいと思い、男であることを否定しなかったのは完全に間違った選択だったと思う。
「あ、うん。…よろしくね」
「おいおい、なんか乗り気じゃないね。俺にとっては初めてできた読書仲間なんだよ。だからその友達を裏切るようなこと一生しないって約束できるよな?」
わたしはこの人の初めての一つをもってるんだ、ととても嬉しかった。”一生だからね”。
「…うん、約束する。一生ね」
「そうこなくっちゃな!俺神川秋、小学四年生だ。これからもよろしく」
「わたしは冬樹奏、同学年。よろしくね」
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と言う感じだ。まあみんな初恋なんてこんなもんだろう。
「なあ奏。この本読んでくれよ!後よければ感想くれよ」
「ああ、いいですよ。期待してますよ」
呼ばれたのここでわたしの昔話は終わりだ。
わたしに恋を教えた罪は深いからな秋。
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あとがき
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