第31話 ササリナとの初夜 1
★☆ ササリナとの夜の会話
その夜、俺はササリナと二人きりで話す機会を得た。夕食を済ませた後、彼女を客室に案内し、簡素ながら落ち着いた部屋の一角で向かい合う形になった。
ササリナは椅子に深く腰掛け、落ち着き払った様子で俺を見つめていた。その瞳には、どこか挑むような光が宿っている。彼女の体躯はしなやかだが、その姿勢には鋭い戦士の雰囲気が漂っていた。
「それで、旦那様。私はこれから、どう動けばいい?」
彼女が真っ直ぐに切り出す。その口調はきっぱりとしており、そこに女性らしい柔らかさはまるでなかった。
「まずは落ち着いてほしい。これからのことは順を追って説明する。今はゆっくりしていい」
俺は穏やかに答えたが、彼女は不満そうに眉をひそめた。
「冗談じゃない。私をここに連れてきた以上、私には役目があるはずだ。ただ寝て飯を食えと言われるのは性に合わない」
その言葉に俺は少し笑ってしまった。彼女の気質がまさに想像通りだったからだ。
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★☆ ササリナの決意
「ササリナ、君はダークエルフの姫であり、優秀な戦士だ。これからは俺の側室として、この領地と俺を支える立場になる。それは簡単なことではないが、君ならきっと…」
俺が言いかけたところで、彼女が手を挙げて遮った。
「待て。『側室として』とかいう形式ばった言葉はやめてくれ。私はそんな肩書きに縛られるつもりはない」
「だが、事実だろう?君は…」
俺が続けようとすると、彼女は椅子から立ち上がり、俺を見下ろすように言った。
「いいか、私は戦士だ。お前が私を選んだ理由も、ただ強い戦力として必要だからだろう?『側室』なんて言葉は、この私には不要だ。ただ、戦士としてお前の役に立てれば、それで十分だ」
その言葉には、彼女の誇りと強い意思が込められていた。
「なるほど。君らしい意見だな」
俺は微笑みながら答えた。彼女の姿勢に一切の迷いがないことに、むしろ安心感を覚えた。
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★☆ ササリナの問い
ササリナは再び椅子に腰を下ろし、腕を組んだまま俺を見つめた。
「それで、ご旦那様。今夜のこの場で何を語るつもりだ?ただ儀礼的な挨拶で終わらせる気か?」
「いや、そんなつもりはない。むしろ、君がここに来た理由をもっと知りたいと思っていた。君はなぜ、人族の街に憧れたんだ?」
彼女はしばらく考え込んでいたが、やがて答えた。
「簡単な話だ。私には夢があった。狭い部族の中でくすぶるよりも、外の世界を見たかった。それがたとえ、部族の掟を破ることになったとしてもな」
「それは分かる。だが、人族の社会に馴染むのは簡単ではなかっただろう?」
俺が尋ねると、彼女は笑みを浮かべた。その笑みにはどこか鋭さがあった。
「馴染む必要などない。幻術を使えば、人族の中に溶け込むのは造作もない。問題は、そいつらがどう見ようが私がどう動くかだ。それだけだ」
「強い言葉だな」
俺は感心しながら答えた。
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★☆ 主従の絆
「なら、これからもその強さを俺のために使ってくれ。俺たちの目標は同じだ。君の力は俺の領地にとっても、俺にとっても必要不可欠だ」
ササリナは少し目を細め、真剣な顔で俺を見つめた。
「分かった。だが、一つだけ誓え、旦那様」
「誓え?」
俺は首を傾げる。
「私は戦士だ。戦士としてお前に尽くす。それは構わないが、私を戦士以上の何かとして見るのはやめろ。『姫』だとか『妻』だとかの余計な枠に縛られるのはごめんだ」
その言葉に、俺は苦笑しながら頷いた。
「分かった。君は戦士として、俺を支えてくれればいい」
ササリナはそれを聞くと、満足そうに頷いた。
「なら話は終わりだ。俺に必要があるなら、遠慮なく命令しろ。それが私の望む役割だ」
「了解した、ササリナ。これからよろしく頼む」
こうして、俺たちは互いの立場を確認し合い、新たな主従関係を築き始めた。ササリナの強さと独特な口調は、むしろ頼もしさを感じさせるものだった。
★☆ ササリナとの初夜
その夜、俺たちは形式上の「初夜」を迎えることになった。ダークエルフの文化では、婚礼の後、夫婦としての絆を深めるために一晩を共にすることが当然とされている。だが、俺とササリナの間にはそういった雰囲気は皆無だった。
俺が用意された寝室に入ると、ササリナは既にそこにいた。普段の戦闘装束ではなく、部族伝統の薄手の礼装を纏っていたが、その姿に色気を感じるどころか、むしろ威圧感すら覚えた。
彼女は片膝を立てて椅子に座り、俺が入るなり鋭い視線を向けてきた。
「旦那様、今夜の儀式というやつだが…どう進めるつもりだ?」
その口調は、まるで戦場で指示を仰ぐ部下のようだった。
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★☆ 不器用なやりとり
俺は苦笑しながら椅子に腰を下ろした。
「そんなに身構えなくてもいい。正直に言うが、今夜は形だけのものだ。何も強要するつもりはない」
ササリナは目を細め、少し鼻で笑った。
「そう言うと思った。お前が無理強いするような男なら、私はこんな礼装を着る前に剣を抜いている」
「……怖いことを平然と言うな」
俺は肩をすくめながら答えたが、彼女の言葉に本音が込められていることは分かった。俺に対する信頼があるからこそ、こうして余裕を見せているのだ。
「だが、別に無理強いではないぞ。私はお前の『妻』だからな」
ササリナはあっけらかんと言った。
「これも儀式も演技よりも本物のほうが良い。お前の領民たちも、本物の初夜を迎えることで安心するはずだ」
「安心、ね…」
俺は皮肉を込めて呟いた。「部族の期待を背負うのも、楽じゃないだろう?」
「期待か?」
ササリナは微かに笑い、俺をまっすぐ見据えた。「私は期待なんか気にしない。ただ、自分の役目を果たすだけだ。お前の側室としてここに来た以上、お前を支える。それが私に課せられた務めだからな」
その潔さに、俺は逆に申し訳なさを覚えた。
「俺は君を側室として迎えたが、それ以上のことを強要するつもりはない。だから、君が無理をする必要はないんだ」
「無理をしているつもりはない」
ササリナはきっぱりと言い切る。「お前が必要だと言うから、私はここにいる。それだけだ。それに…」
彼女は少しだけ視線を逸らし、控えめな声で続けた。
「…お前の目には、偽りがない。だから、私はお前を信じている」
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★☆ 初夜の「演技」
部屋の外では、使用人や家臣たちが初夜の進展を気にしているのが分かる。こうした文化では、初夜が形式的に終わることすら重要視されるのだ。
「仕方ないな…少し騒がしい本当の演技をしようか」
俺が提案すると、ササリナは眉をひそめた。
「ぶん?くだらん。だが、必要なら付き合ってやる」
俺たちは計画を立て、あえて外に聞こえるように声を張り上げた。
「ササリナ、少しこっちに来てくれ!」
俺がわざとらしく呼ぶと、彼女が低く笑う。
「まったく、声が大きすぎるぞ。人目を気にしろ、旦那様」
彼女の言葉にはほんのりとした皮肉が込められており、俺も思わず笑いそうになる。だが、ここで笑えば演技が台無しだ。
二人してベッドに横たわる。そして、彼女の服を一枚ずつはがしていく。肌があらわになると、舌は彼女の肌に合わせいた。それが、こそばゆいのか彼女は呆れたように呟いた。
「これで満足か?」
「いや、まだだな。もう少し声を…」
俺が言いかけると、彼女が突然肩をすくめ、面倒くさそうに言った。
「仕方ない。『旦那様、そんな急に…!』こんな感じでいいのか?」
「……」
俺はあまりの棒読みぶりに言葉を失った。
「演技には向いてないと自覚している。これで十分だろう?」
彼女は全く気にした様子もなく、平然としていた。
外からは咳払いの音が聞こえ、どうやら家臣たちはそれで満足したらしい。
彼らはどこかに退散した。彼らに人情があるのだろう。これからは夫婦水入らずを楽しめということだ。
そうか、それでは、これで、演技は終わりだ。これからが本番だ。
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