第30話 密貿易とダークエルフ
★☆ 学園への準備と密貿易の取引
学園入学の準備が着々と進む中、俺は領地の後始末に取り掛かっていた。スタンビートは大規模なものが発生するとしばらくは小規模の発生しか続かない。そのため、ナナ姫に領地の運営を任せてもしばらくは問題ないだろう。彼女も俺ほどではないが、特能魔法を使えるのだから。
だが、最後の懸念は残っていた。それは密貿易――いや、正確には「合法」な取引だ。この世界において、魔王軍との貿易を禁止する法律など存在しない。そもそも、魔族と交渉すること自体が常識外れだ。地球で例えるなら、野生のオラウータンと正式な貿易条約を結ぶ法律を作るか、といった感覚だろう。
ただし、倫理的には手放しで褒められる行為ではないことは理解している。
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★☆ 闇ノ森での取引
俺はセバスと家臣団を率いて、闇ノ森へと向かった。俺自身、特能魔法以外にも優れた魔法を使えるし、セバスは一流の元冒険者だ。加えて、家臣団も領内では最精鋭だ。この護衛体制なら問題ない。
本日の相手はダークエルフの部族。交渉の場に到着すると、すぐに取引が始まった。俺は様々なマジックアイテムや調度品を差し出し、それをダークエルフの族長が念入りに確認する。
「これが今月の納品分です。価値にすれば…20万から30万ゴールド程度でしょうか」
族長が頷くと、彼らの納品物が運び込まれてきた。それは精霊石や希少な薬草、特殊な素材の数々だ。
中でも「森の精霊石」は最重要だ。農地に加護をもたらし、病害虫を防ぎ、収穫量を何十倍にも増加させる。この石のおかげで、かつて不毛の土地だったビルディン大公領は豊穣な大地に生まれ変わった。これを大量に確保するのも、俺の役目のひとつだ。
「これだけの品を王国や他国に売れば、総額500万ゴールドにはなりますね」
思わず笑みがこぼれる。500万ゴールド――日本円で約500億円だ。それが毎月手に入るのだから、悪くない話だ。
族長の気持ち悪いくらいニタニタしている。おそらく、同じ程度は儲けているのだろう。
グラント子爵領は税収だけで黒字運営が可能だ。そのため、この利益はオレが自由に処分できる金額だ。笑いが止まらない。
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★☆ 学園入学と取引の懸念
取引が一段落すると、俺は族長に切り出した。
「俺は学園に入学するので、しばらくここに来られなくなります。その間、セバスを代表として派遣することを了承していただけますか?」
ダークエルフの族長は少し考え込んだが、やがて頷いた。
「構わぬ。お主の信義を信じよう。だが、取引が滞ることのないよう、セバス殿にも責任を持ってもらいたい」
「ありがとうございます」
セバスは目に見えて「ホッ」としている。
もし、族長に試練を受けろといわれるのではないかと思っていたのだ。オレが族長と取引をする際に、「弱いものは信用できない」と族長に言われ、試練を受けた。
その試練を乗り越えたからこそ、族長に信頼してもらえたのだ。
セバスは超一流の戦士であり、冒険者でもあるが、あの試練は無理だ。
それを、セバスはオレの手先ということで信用してもらえることになった。
これで一つ問題が解決した。
だが、俺にはもう一つの目的があった。
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★☆ ササリナとの婚姻交渉
「例の話を考えていただけましたか?」
俺が尋ねると、族長が目を細める。
「あの件についてならば、こちらとしては問題ない。ただし、そちらの準備は整っているのか?」
「大丈夫ではありません!」
横からセバスが声を荒げる。だが、俺は彼を睨みつけて黙らせた。
例の件とは、俺とダークエルフの戦士であるササリナとの婚礼の話だ。彼女は族長の娘であり、卓越した戦士でもある。俺は彼女を「妻」として迎えることで、ダークエルフの隠密行動を利用した諜報部隊を編成しようとしていた。
族長は俺の意図を理解しているが、特に問題はないという立場だった。
「ササリナは人族の社会に憧れを抱いている。それが原因で禁忌を犯し、部族を抜け出した。お前が彼女を受け入れるというなら、むしろありがたいことだ」
禁忌――それはダークエルフの掟に反して人族の街に入り浸ったことだった。族長としては、問題児のササリナを追い出す名目が立つのは願ったり叶ったりらしい。
「俺が彼女を迎えることで問題は起きません。幻術の魔法で彼女が人族として暮らすことに支障はありませんし、彼女を側室として迎える責任を全うします」
族長はじっと俺を見つめ、やがて静かに言った。
「分かった。ササリナをお前の嫁にする。ただし、彼女はわしの娘であり姫だ。それなりの人員を連れて行くことになるが、お前に面倒が見られるか?」
「もちろんです」
俺は即答した。部隊ごと引き受けるのが目的だ。むしろ歓迎すべき条件だった。
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★☆ ササリナとの対面
族長がササリナを呼び出すと、彼女は満面の笑みを浮かべて現れた。
「グランド殿…いや、旦那様とお呼びすればいいのですか?」
彼女の声には、外の世界への期待が隠しきれない。
「その通りだ。これから君を迎え入れる。俺の側で共に歩んでほしい」
俺が言うと、ササリナは感謝の言葉を述べた。
「ありがとうございます!ずっと外の世界を見てみたかったのです。旦那様の力になれるよう努力します!」
彼女の笑顔に、俺は満足感を覚えた。この婚姻は純粋な愛情ではなく、政治的な取引でもある。だが、それでも彼女となら良い関係を築けるだろう。
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★☆ 新たな絆と未来
こうして、俺はダークエルフの諜報部隊とともに、新たな絆を手に入れた。ササリナを側室として迎え入れ、学園への準備も万全だ。
だが、この関係がどのように未来を変えていくのか――それはまだ誰にも分からない。
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