第20話 従者の選定
★☆ 従者の選定
学園への入学を控えたある日、オレは執務室に座りながら、学園へ連れて行く従者の選定に頭を悩ませていた。
「ご主人様、候補者をお連れしました」
セバスが扉を開け、几帳面な動作で一礼する。その後ろから、数名の候補者たちが入ってきた。それぞれが緊張した表情を浮かべ、静かに列を作る。
「紹介いたします。こちらは我が領地の中から選ばれた、最も優秀な人材です」
セバスが一人ひとりを指し示しながら、簡潔に説明を始めた。
「まず、カイン=ハーヴェイ。彼は領軍の若きエリートで、武術の達人です。年齢は二十歳、武勲も数多く立てております」
カインは一歩前に出て、しっかりとした動作で礼をした。短い金髪と整った顔立ちが印象的で、その姿は頼もしさを感じさせる。
「次に、リサ=グレイシア。彼女は冒険者ギルドの推薦で選ばれました。軽業と隠密行動に長け、情報収集能力も期待できます。平民出身でありながら、その能力を認められたことから、騎士の身分を認められた逸材です」
リサは明るい赤毛を揺らしながらにっこりと微笑んだ。彼女の緩んだ態度は、どこか掴みどころがないが、その眼光は鋭い。
「最後に、エミリオ=バートン。彼はグランド領で代々薬師を務める家系の者で、治癒魔法と錬金術を得意としております。戦闘においても後方支援が可能です」
エミリオは痩身で知的な雰囲気を持つ青年だった。黒縁の眼鏡をかけたその姿は控えめだが、頼りになる印象を与える。
★☆ 質問と観察
「…なるほど」
オレは一人ひとりの顔を見渡しながら考え込んだ。彼らはC級冒険者相当の能力か・・優秀なのは間違いないが、学園という場で役に立つかどうかは別問題だ。学園では、戦闘力だけでなく、交渉術や知性も求められる。
「カイン」
オレは最初にカインを見た。「お前が学園でオレを守るために必要だと思うことは何だ?」
「護衛として、閣下のお体をお守りすることです」
彼は即答する。その答えは立派だが、少々単調すぎる。
ちなみに呼称であるが、オレは子爵であるので閣下と呼ばれるのが正しい。しかし、ある程度、近い人間にはご主人様と言わせている。
「それだけか?」
オレが問い詰めると、彼は少し考え込んでから答えた。
「学園では他国の貴族や王族との関係も重要です。その中で閣下が不利にならないよう、周囲を警戒し、情報を集めることも重要だと思います。特に騎士の間では特別なコミュニティーが存在します。騎士のとして武芸を競うため、試合をすることが多いです。これはグランド家のみでなく、他家とも積極的に行われます。某は武芸に自信があります。学園という世界でならば、積極的に家臣間のコミュニティーに参加し情報を集めることができます!」
「なるほど、悪くない」
オレは軽く頷いた。カインのいうことは正しい。騎士には騎士独自のネットワークがある。それを活用できるのは有効であると思える。それに彼の堅実さは頼りになる。
次にリサに目を向けた。
「リサ、お前の軽業と隠密行動は確かに優秀だ。だが、学園でそれがどう役立つと考える?」
リサは肩をすくめながら答えた。
「隠密行動は学園の規則には引っかかるかもしれませんが、情報収集は得意です。貴族の子息や令嬢たちの動向をいち早く把握することで、閣下に有利な立場を提供します。ついでに、誰がどのくらい金を持ってるかも調べられますよ!」
最後の一言に少し冷や汗をかいたが、その発想力と柔軟性は評価できる。
最後にエミリオを見る。
「エミリオ、お前の治癒魔法や錬金術は確かに役立つだろう。ただし、学園という環境で、どうオレに貢献する?」
彼は眼鏡を押し上げながら冷静に答えた。
「閣下が万が一、負傷されたり病気になったりした場合、即座に治療を行えます。また、学園内では独自の薬品が求められることもあるでしょう。それを提供することで他の生徒や教職員との信頼関係を構築できます」
「うん、いい答えだ」
オレは満足げに頷いた。
★☆ アニーの乱入
ちょうどその時、扉が勢いよく開き、アニーが飛び込んできた。
「ちょっと待って!その人たちだけで決めるなんておかしいわ!」
彼女は腕を組んでオレを睨みつける。
「おかしいも何も、学園に従者を連れていくのはオレの判断だ」
「だからって!私もついていくべきだと思うわ!」
アニーは胸を張るが、どう見てもメイドとしての自覚はゼロだ。
「お前が学園に行ったら、ただのトラブルメーカーだろう」
「トラブルメーカーで結構よ!それでも、ローラ様を守るためには私の知識が必要でしょ?」
オレは彼女の主張を一瞬考え込む。確かにアニーのゲーム知識はこの世界を生き抜くために重要だ。だが、彼女を連れて行くことで新たな問題が生じる可能性も高い。
「まあいい。お前の同行については後で考える」
オレは一応そう告げて場を収めたが、アニーは納得していない様子だった。
★☆ 最終決定
最終的に、オレは次のように決断した。
「カイン、リサ、エミリオ。お前たち3人を従者として学園に連れて行く」
全員が一礼し、それぞれの役割を再確認する。
「セバス、従者たちの装備や必要な物資を準備しておけ」
「かしこまりました」
オレは椅子に深く座り直し、次なる準備に思いを巡らせる。学園での生活は、単なる学びの場ではなく、ローラ様を守るための戦場だ。その戦いに備えるため、オレの選んだ従者たちとともに、すべての準備を整える必要がある。
「これでいいだろう」
オレは心の中でそう呟いた。
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