第16話 祝賀会――揺れる感情
★☆ 祝賀会――揺れる感情
戦いの終わりを祝うため、グランドシティの城館では盛大な祝賀会が開かれていた。
冒険者、家臣、そして援軍の貴族たちが集まり、勝利を讃え合う賑やかな夜。食卓には山盛りの料理が並び、酒が注がれるたびに歓声が沸き起こる。だが、その喧騒の中で、俺の心は落ち着かないままだった。
大広間の片隅に立ち、静かに飲み物を口にするローラ様を見つける。戦場で見せたあの威厳と気高さ、そして誰もが憧れるその姿――その全てに、俺はいつの間にか抑えきれない感情を抱いていた。
「ローラ様…」
俺は意を決して彼女に声をかけた。彼女が穏やかな笑顔を浮かべて振り向く。
「ロード、どうしましたか?こんな賑やかな場で、あなたが隅にいるなんて珍しいですね」
彼女の声は柔らかく、疲労を感じさせない。
「少し、お話がしたいのです」
自分でも声が震えているのが分かったが、もう止められなかった。
★☆ 感情の爆発
祝賀会場を抜け、静かなバルコニーへと移動した。夜空には星が瞬き、心を落ち着けるような風が吹いているはずだったが、俺の胸は熱くなる一方だった。
「ローラ様、この度はありがとうございました。ローラ様が率いる竜騎士団がいなければ、どうなっていたか・・」
「いえ、ロード。私たちがいなくとも貴方ならば、何とかしていましたわ」
「それでも、死者、重傷者がゼロなんてありえなかったでしょう。これは、心ばかりのお礼です」
オレはローラ様に目録を渡した。目録には援軍に参加してもらったお礼として、金銭などの記載がなされていた。援軍をしてもらったら、最低限の費用は依頼主が負担するのは当然で、それがなければ、次から援軍を出してもらえないだろう。
今回の費用だが、ブラックオーガの素材で、何とか補填できたらいいが、、
それに目を通してローラ様は少し息を吐いた。
「ありがとうございます。ロード、ビルディン大公家は本当にお金がなくって、、」
お金がないとは、ビルディン大公家の収入がないというわけでない、とてつもなく支出が多いのだ。理由は竜騎士団にある。竜騎士団は当然に竜の世話が必要にあるが、その費用がとてつもないのだ。戦えば無敵の竜騎士団であるが、維持が大変という欠点がある。
「正直、スカイドラゴンの天空竜騎士団が来ていただけると思っていませんでした。せいぜいが、騎竜騎士団とばかり、、」
騎竜騎士団とは地上に馬のように走る騎竜という竜種を騎乗した騎士団のことだ。馬の2倍の大きさで、鉄の様に硬い皮膚を持つが、スカイドラゴンと比較したら、圧倒的に弱い。
「騎竜騎士団であったら、間に合わなかったかもしれませんよ?それに、私があなたと一緒に戦場で戦ってみたかったのですよ」
と、いたずらっぽさを含めた笑みでこちらを見てきた。その笑顔はオレの心臓に震わせ、オレの中に深くに締まっておいた感情を呼び覚ましてしまいそうになった。
「ローラ様、俺は…!」
俺は勢いよく言葉を発したが、その先を詰まらせる。
ローラ様が静かに首を傾げる。
「どうされましたか?そんなに急いで、何かあったのですか?」
「俺は…俺はずっと、あなたを守りたいと思ってきました。あなたを尊敬し、あなたのためならどんな犠牲も厭わないと誓ってきました。それは、俺の誇りであり、全てでした…!」
言葉を重ねるたびに、自分の胸の内が噴き出すようだった。
「でも…それだけではない。俺は…俺は…」
熱くなった顔を冷ますために手で押さえたが、感情は止められない。
「俺は、あなたがただの主君である以上の存在に思えてならないのです!」
ローラ様の目が一瞬大きく見開かれたが、すぐに穏やかな表情に戻る。その冷静さが、今の俺には痛いほど胸に刺さった。
★☆ 優しい諭し
「ロード…」
ローラ様はそっと息をつき、俺の目をしっかりと見つめた。その瞳には動揺も嫌悪もなく、ただ優しさと理解が宿っている。
「あなたの言葉、とても嬉しいです。幼馴染として、そして主君として、あなたがここまで私を想ってくれることがどれほど誇らしいことか…私は言葉では表せません」
「なら…!」
俺は思わず前のめりになったが、彼女がそっと手を上げて制した。
「ですが、ロード。私たちの関係はそれ以上ではいけません。あなたがそれを分かっているからこそ、ここまでずっと私を支えてくれたのでしょう?」
その言葉に、俺は何も返せなかった。彼女の穏やかな口調が、まるで冷たい水を浴びせるように俺を正気に戻していく。
「あなたは私にとって、誰よりも信頼できる存在です。あなたの情熱も忠誠も、すべてが私にとって必要不可欠なものです。でも…それ以上の感情を抱けば、あなたも私も道を見失ってしまうかもしれない。それは、お互いにとって不幸です」
俺は拳を握りしめ、視線を落とした。何もかも、彼女の言う通りだった。
★☆ 無様な懇願
「…申し訳ありません」
俺は深く頭を下げた。言葉が胸から溢れて止まらない。
「こんなことを言ってしまうなんて、俺は本当に愚か者です。どうか、どうか今夜のことは忘れてください!」
声が震え、まるで子供のように取り乱している自分が情けなかった。誇りに思うべき主君にこんな姿を見せるなんて、俺は何をやっているんだ。
「忘れる必要なんてありませんよ」
ローラ様の声が、俺の混乱を静かに包み込む。「あなたは自分の気持ちを正直に伝えてくれました。それはとても勇気のいることです。だからこそ、私はあなたをこれからも信頼し続けます」
「ローラ様…」
「さあ、顔を上げてください、ロード。これからも私は、あなたとともに戦います。それが私たちの絆の形なのですから」
その言葉に、俺は震えながらも顔を上げた。ローラ様の微笑みは揺るぎなく、そしてどこまでも優しかった。
★☆ 冷静さを取り戻して
俺はようやく冷静さを取り戻し、改めて深く頭を下げた。
「ありがとうございます…俺はこれからも、あなたのために全力を尽くします」
「ええ。私はそれを信じています」
ローラ様は微笑みながらそう答え、夜空を見上げた。
その横顔を見て、俺は心の中で決意を新たにした。彼女の隣に立つことが叶わなくても、俺は彼女を守り続ける。それが俺の使命であり、誇りなのだと。
そして、この夜のことは、俺だけの胸にしまうことにした。
「さよなら、オレの初恋。。」
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