第13話 作戦会議

★☆ 作戦会議


その夜、作戦会議が開かれた。竜騎士団と大公家の常備軍を合わせ、ついに戦力は3万人に達した。ビルディン大公家から派遣された将軍、ロドリゲス将軍は名将として名高い人物であり、その冷静な判断力は会議を円滑に進めた。


オレが提示した作戦はこうだ。

スタンビートとは大量のモンスターが発生することだ。発生源に大量もモンスターが発生するのである。本当に発生するのだ。ポッと出てくるのだ。


スタンビートの発生源を叩くのではなく、グランドシティ周辺に強固な陣地を築き、敵を迎え撃つ。スタンビートで発生する魔物は必ず人口の多い場所を目指して進行する。これを利用して待ち伏せを行うのだ。


「発生源を叩くほうが効率的では?」

ロドリゲス将軍が疑問を投げかけたが、オレは首を振った。


「スタンビートの発生は広範囲にわたります。発生源を攻撃しようとしても、予期せぬ場所からモンスターが出現する可能性があります。それでは被害が大きすぎる。陣地を固めて迎撃するほうが安全です」


スタンビートは魔物が大量発生する現象であるが、一瞬で発生するわけでない。仮に1000体のモンスターが発生するとしても

2~30体ずつ発生し、最終的に1000体になることが多いのである。それならば、少数である間に責めればいいのだ。オレの特能魔法なら、それが可能だ。


しかし、スタンビートの専門家であるオレは知っている。

スタンビートが発生するのは広範囲であり、そこに陣取っても、どこから発生するかわからないのだ。ある瞬間に自分の背後にモンスターが発生することがある。ジャイアントボアのようなEランクモンスターなら、それでもいいが、Cランクのブラックオーガでは危険すぎる。それに今回はEランク程度の兵士が多い。被害が大きくなることが予想される。

「皆様は戦争のプロですが、私はスタンビート対策のプロです!通常ではスタンビートは10年に1回しか発生しませんが、このグランドシティでは1週間に1度の頻度で発生しています。私は若輩者ですが、スタンビートに関しては誰よりも経験が私にあります!」


オレは今回の戦いで死傷者を0人で勝利するつもりだった。そして、これまでの経験からそれが可能であると判断している。発生源を叩く方法では犠牲者0人は無理だ。


「さらに、A級冒険者の魔炎のブレイム兄妹がいます。彼らに後方から攻めてもらいます。危険な役割ですが、彼らならばやり遂げるでしょう」


オレの説明にローラ様が口を開く。

「ロードの意見に賛同します。彼の経験と判断を信じましょう」


ローラ様の賛同を得たことで、会議はスムーズに進み、方針が決定された。






★☆ 決戦の準備と幼馴染の信頼

会議後、オレはローラ様が滞在する部屋を訪れた。


「ローラ様、本日は賛同していただきありがとうございました」

オレは丁寧に頭を下げた。この戦いの作戦において、彼女の支持が得られたことは、何よりも大きな支えだった。


ローラ様は部屋の中の椅子に腰を下ろしながら、オレを優しく見つめた。その視線には、いつもの威厳とともに、どこか懐かしさが混じっているように感じた。


「いいえ、ロード。あなたの考えが正しいと思ったから支持したのです。それに、幼馴染の

あなたがこうして前線で指揮を執る姿を見ると…少し誇らしい気持ちになりますね」


「誇らしい、ですか?」

思わず顔を上げたオレの表情を見て、ローラ様は微笑んだ。


「ええ。あなたは私が小さい頃から知っている、誰よりも頼れる友人です。そして今では、私が最も信頼できる指揮官でもあります。あなたが下した判断に従うことに、何の迷いもありません」


その言葉に、胸の奥が温かくなるのを感じた。ローラ様は幼い頃からオレにとって憧れであり、目標だった。彼女の気高さ、知性、そして時折見せる優しさ――それらすべてが、オレを突き動かす原動力だった。




★☆ 政略結婚という過去


ローラ様はふと椅子から立ち上がり、窓辺に歩み寄った。夜空を見上げる彼女の横顔は、どこか寂しげだった。


「昔のことを覚えていますか、ロード?」

突然の問いかけに、オレは一瞬戸惑ったが、すぐに何を指しているのか悟った。


「…政略結婚の話ですね」


「ええ。私とあなたが婚約するかもしれない、と言われていた頃のことです」

ローラ様の声は穏やかだったが、そこには小さな揺らぎがあった。


幼い頃、オレとローラ様は政略結婚の候補として名前が挙がったことがあった。大公家の令嬢と、分家筋ながらも特能魔法を持つグランド家の若き当主。その結びつきは、どの貴族にとっても理にかなっているように思えた。


だが、それは実現しなかった。

「…私たちには、それぞれ別の役割があると、父が言っていました。あなたはグランド家を守る責務を負い、私は大公家のために尽くすべきだと」


「その判断は正しいと思います。オレはローラ様の隣に立つには、まだまだ未熟ですから」

オレが答えると、ローラ様はくすりと笑った。


「そんなことを言うのは、あなたくらいですよ。今のあなたを見れば、誰も未熟だなんて思わないでしょうに」




★☆ 信頼と未来


「でも、ローラ様――」

オレは真剣な声で言葉を続けた。「たとえ婚約は叶わなくても、オレはずっとあなたを守り続けます。それがオレの誇りです」


ローラ様は目を見開き、しばらく黙っていた。しかし、やがて柔らかな微笑みを浮かべた。

「ありがとう、ロード。その言葉だけで十分です。あなたがそばにいてくれる限り、私はどんな困難も乗り越えられます」


オレとローラ様は沈黙した。

「ローラ様、そういう意味では・・」

「やめさない!ロード!それ以上は口にしてはなりません!」


オレたちはしばらく沈黙の中で立ち尽くした。窓の外に輝く星々が、二人の間に広がる静けさを包み込むように輝いていた。


「さて、明日の決戦、全力で戦いましょう。そして、この領地を守り抜きましょう」

ローラ様は背筋を伸ばし、力強い声でそう言った。その姿に、オレは再び彼女の偉大さを感じた。


「はい。必ず勝利を掴みましょう、ローラ様」


オレたちはお互いに視線を交わしながら、同じ目標に向かって歩んでいく覚悟を再確認した。幼馴染として、主従として、そして何よりも信頼できる仲間として。

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