第9話 上級メイド アイリス
★☆ 上級メイドの紹介
主人公が執務室で膨大な書類に目を通していると、ノックの音が響いた。
「どうぞ。」
主人公が顔を上げると、セバスがいつもの穏やかな笑顔で入室してきた。その背後には一人の女性がついてきている。
「ご主人様、本日は新しい上級メイドをご紹介に参りました。」
主人公の目が女性に向けられる。黒髪がしなやかに光り、その整った顔立ちはまるで彫刻のように美しい。しかし、何よりも目を引いたのは彼女の冷静な瞳だ。感情を簡単には表に出さず、芯の強さを感じさせる。
「彼女の名前はアイリス・フォールン。秘書業務、護衛任務のいずれも一流の実力を持つ上級メイドでございます。」
アイリスは一歩前に進み、流れるように優雅なお辞儀をする。
「初めまして、ロード子爵様。これよりお仕えすることになりましたアイリス・フォールンです。どうぞよろしくお願い申し上げます。」
その端正な声に主人公は一瞬聞き惚れ、少し遅れて言葉を返した。
「こちらこそ、よろしく頼む。」
★☆ アイリスの印象
主人公は少し落ち着いて彼女を観察した。
(護衛もできるメイドと言われると、もっと屈強な女性を想像していたが……彼女はまるで貴族の淑女のようだな。)
黒髪が美しく、冷静沈着な佇まい。その一方で、全身から醸し出される気品と自信には目を見張るものがある。
「彼女は秘書としての能力はもちろん、護衛としても高い技術を有しております。剣術と防御魔法の習得はもとより、暗殺者に匹敵する隠密行動も可能です。」
セバスの説明を聞きながら、主人公は改めてアイリスを見つめた。
「なるほど。だが、セバス、そんな優秀な人材をどうやって確保したんだ?」
セバスは微笑みを深める。
「当然、子爵様の領地運営の評判の賜物でございます。また、彼女には特別な事情もございます。」
★☆ 側室候補の話
「特別な事情?」主人公は眉をひそめた。
セバスは一瞬間を置いてから、続けた。
「彼女は上級メイドとしてお仕えしますが、同時に側室候補としての意味合いもございます。」
「……何?」
主人公の言葉には明らかな戸惑いが混じっていたが、セバスは平然と答える。
「子爵様の特能魔法を後世に継承することは、この領地、そして王国にとって極めて重要です。彼女の能力と立場はその目的にも適しております。」
主人公はアイリスを見るが、彼女の表情は微動だにしない。
「彼女はその件について既に承知しております。もちろん、最優先は子爵様の補佐でございますが、いずれそのような関係になることも含め、覚悟を決めております。」
★☆ 主人公の反応
主人公は苦笑し、深くため息をついた。
「セバス……毎度のことだが、お前の計画には驚かされる。」
セバスは静かに頭を下げる。
「恐縮です。ただ、これも子爵様のご多忙を少しでも軽減し、未来への備えを整えるためでございます。」
主人公は再びアイリスに目を向けた。
「アイリス、本当にその覚悟があるのか?」
アイリスは少しも表情を崩さず、静かに答えた。
「はい、子爵様。私は主にお仕えするためにここにおります。それがどのような形であろうとも。」
その冷静な返答に主人公は一瞬言葉を失う。だが、次の瞬間には苦笑を浮かべ、頷いた。
「ならば、まずはお前の能力を見せてくれ。それから先のことはゆっくり考えるとしよう。」
アイリスは再び頭を下げた。
「かしこまりました。」
主人公は内心、彼女のクールな態度と圧倒的な魅力に、どこか引き込まれる自分を感じていた。セバスの策に嵌ったのかもしれない、と密かに思いながらも、彼女の真価を見極めようと決意するのだった。
★☆ アイリスの能力試験
執務室に設けられた特設の試験場で、主人公はセバスと共にアイリスの能力を見極める場を設けていた。
「さて、アイリス。まずはその戦闘能力を見せてもらおう。」
主人公がそう告げると、アイリスは静かに頷いた。
「かしこまりました。」
目の前に並ぶのはグランド家の精鋭騎士たち5人。全員が実戦経験豊富な実力者であり、その一人一人が普通の兵士では太刀打ちできないほどの実力者だ。
「本当に彼女一人で相手にさせるのですか?」
騎士の一人が冗談交じりに言うと、セバスが微笑みながら返す。
「全力で相手をしていただいて構わないですぞ。それが彼女の力を測る唯一の方法だからな。」
★☆ 圧倒的な戦闘力
試験の合図と共に、騎士たちが一斉にアイリスに襲い掛かった。だが、その瞬間――アイリスの動きはまるで風のようだった。
鋭く閃く剣は、攻撃してきた騎士たちの武器を正確に弾き飛ばし、反撃は全て急所を外す寸止め。まるで舞を踊るかのような優雅さで、彼女は次々と相手を無力化していった。
「なんだ、あの動きは……!」
騎士の一人が驚愕の声を上げる。
さらに驚くべきは、彼女が剣術だけでなく魔法も駆使していることだ。攻撃魔法で相手の動きを封じ、防御魔法で自身の安全を完璧に確保している。
「これはまるで……一流の魔法剣士だな。」
主人公は思わずつぶやいた。
最終的に5人の騎士全員が倒され、息を切らせながら立ち上がることができないでいる中、アイリスは微塵の乱れもないまま主人公に向き直った。
「ご覧いただけましたでしょうか?」
「……十分だ。これ以上は必要ない。」
★☆ 隠密行動の試験
次は隠密行動の試験だ。
セバスが用意したのは、広い屋敷のどこかに隠れた彼自身を見つけ出すというものだった。
「この屋敷は広いが、隠れられる場所も多い。セバスを見つけられれば合格だ。」
アイリスは黙って頷き、屋敷の中を静かに歩き始めた。その足音はほとんど聞こえず、まるで影そのもののように建物内を移動していく。
「ん?」主人公は驚いた。
彼女はどうやっているのか、完全に視界から消えるような動きで部屋を出たり入ったりしている。
その後、わずか15分でアイリスはセバスの隠れ場所を突き止めた。セバスが隠れていた場所は、通常なら発見が不可能と言われる隠し部屋だった。
「素晴らしい。君の隠密能力は完璧と言っていい。」
セバスも驚きを隠せない様子で頷いた。
★☆ 秘書としての能力
最後は書類整理と情報分析の試験だ。
主人公が意図的に混乱させた帳簿や報告書の山を机に置き、課題を与える。
「これを整理し、重要な点をまとめた上で、次の政策提案を組み立ててほしい。」
「承知いたしました。」
アイリスはすぐさま作業を開始し、効率的かつ正確に書類を分類していった。記述のミスや計算間違いを即座に見抜き、政策案を短時間で組み上げる手腕は見事なものだった。
「……これが完成した提案です。」
彼女が差し出した書類を目に通した主人公は、思わず笑みを漏らした。
「完璧だ。こんなに短時間でここまでやるとは。」
★☆ 試験終了
全ての試験が終わり、主人公は彼女に向き直った。
「君の能力は申し分ない。だが……」
主人公の言葉にアイリスが首をかしげる。
「何か問題がございますでしょうか?」
「君があまりにも完璧すぎて、逆にこちらが緊張する。」
その言葉に、アイリスが珍しく小さく微笑んだ。
「緊張などなさらずとも大丈夫です。私の役目はあくまで子爵様を支え、その負担を軽減することですから。」
その言葉に、主人公は再び彼女の存在の大きさを実感しつつも、内心で密かに頭を抱えた。
(完璧すぎるがゆえに、どこか扱いが難しいな……。)
とはいえ、これほど有能な存在を傍に置けることは領地運営にとって大きな助けになることは間違いなかった。
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