第7話 ナナ姫登場

★☆ ナナ姫の登場


グランドウォール城の広い中庭に、柔らかな風が吹き抜けていた。その中庭の真ん中で、優雅に微笑む少女がひとり。


ナナ姫――俺の「妹」であり、本家の姫君だ。


金色の長い髪が日の光を受けて輝き、青い瞳が水面のように透き通っている。高貴な血筋を示す整った顔立ちと、品のある仕草は一目で彼女が特別な存在であることを示していた。


「ロード兄様!」

ナナ姫が俺を見つけると、嬉しそうに手を振りながら駆け寄ってきた。その瞳には、純粋な喜びが宿っている。


「ナナ、元気そうだな」

俺は微笑みながら答える。だが、彼女のこの笑顔を見るたび、どこか心がざわつく。彼女の俺に向ける好意が、単なる「兄妹愛」ではないことを感じているからだ。




★☆ ナナ姫の思い


「兄様、また忙しそうですね。領地を離れてしまうなんて、私、寂しいです」

ナナ姫は少し膨れっ面になりながら、俺の顔を覗き込む。


「仕方がない。学園に入学しなければならないからな。だが、それも領地のためだ」


「領地のため…領民のため…。兄様はいつもそうおっしゃいますけど、私にとって兄様が遠くに行ってしまうことは寂しいことなんです」

彼女は俯きながらそう呟いた。その声はどこか儚げで、胸に刺さるものがあった。


「ナナ、俺はどこへ行っても、お前のことを大事に思っている。それは変わらない」

俺は彼女を安心させるようにそう言った。だが、その言葉に彼女がどう反応するか、わかりきっていた。


「大事に思う…兄様はいつもそう言ってくださいますね。でも、それは『妹』として、ですよね?」

ナナ姫の声がわずかに震えていた。彼女は俺の目を真っ直ぐに見つめてくる。その瞳には、抑えきれない感情が滲んでいた。


「ナナ…」

俺は言葉を詰まらせた。




★☆ 側室の話


気まずい沈黙を破ったのは、ナナ姫自身だった。

「それで、兄様。セバスからお聞きしました。私を…『側室』に迎えるおつもりだとか」


彼女の声は静かだったが、その瞳には強い意志が宿っていた。

俺は心の中で小さく舌打ちする。どうやらセバスの口が少々軽かったらしい。


「その通りだ。お前を側室として迎えたい。だが、それは俺個人の感情ではなく、領地のためだ。特能魔法の継承を考えれば、お前以上の相手はいない」


「…わかっています。兄様が私を選んでくださる理由は、そういうことだって。でも…それでも、私にとっては幸せなことなんです」


ナナ姫は微笑みながらそう言った。その笑顔は美しくも、どこか切なさを感じさせた。


「私はずっと、兄様を慕ってきました。それがたとえ『妹』という立場からでも、いつか兄様の隣に立てる日が来ると信じていました。だから、その夢が叶うなら…たとえ側室でも、私は嬉しいんです」


彼女の言葉は俺の胸に突き刺さる。ナナ姫の気持ちに応えるべきなのか、それとも領地のために彼女を巻き込むことを避けるべきなのか、俺自身も答えを見つけられない。




★☆ 別れの約束


「ナナ、俺は学園に行く。だが、その間も領地のことを頼みたい。俺がいなくても、お前ならきっとやり遂げられる」


「はい。兄様のために、私、頑張ります」

ナナ姫はそう言って微笑む。その笑顔には、俺への信頼と彼女なりの覚悟が込められていた。


だが、その目の奥には、俺が気づきたくない感情が隠れているように思えた。


「いつか、兄様が私を正妻に迎えてくださる日が来ますように――」

彼女の小さな声は、風に流されるように消えていった。




ナナ姫との関係は、領地の未来と俺自身の運命を左右する重要な要素となるだろう。だが、彼女の純粋な気持ちに応えることが正しいのか、それとも――。


俺は心の中に渦巻く迷いを抱えたまま、その場を後にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る