第5話  領地の生命線――特能魔法

★☆ 領地の生命線――特能魔法


領地に到着すると、俺はすぐに家老のセバスチャンから出迎えを受け、執務室に向かった。この領地は俺がいなければ回らない。転生者としての記憶と知識を活かし、俺自身が日々領地運営を指揮しているからだ。


「セバスを呼べ」

椅子に腰掛けるなり、俺は命じた。すると、セバスチャンが慌てて部屋に入ってきた。


「ご主人様、何かご用でしょうか」


「今、俺の探査魔法が反応した」


俺は机に広げた地図を指さす。「ポイント356,490でジャイアントボアのスタンビートが発生する兆候だ。冒険者たちを集めて、3日以内に現場に派遣しろ」


セバスチャンは目を輝かせ、深々と頭を下げた。


「かしこまりました!いつもながら、ご主人様の探査魔法には驚かされます。この能力こそがグランド家の誇りです」


スタンビートとは魔物の異常発生だ。本来、単体でしか行動しない魔物もスタンビートが発生すると小規模で100体、多い場合は1000体で群れて人族の街を攻撃するのだ。


グランド家には、代々受け継がれる特殊能力がある。それは、超広範囲にわたる探査魔法だ。この魔法を使えば、魔物の発生や動きを事前に把握し、被害が出る前に対処できる。オレは特に特別で半径1,000kmにわたり探索できる。


今回のジャイアントボアは、牛サイズの巨大な猪であり、通常は単独行動をする。しかし、スタンビートと呼ばれる現象が発生すると、群れを成して村を襲うようになる。


事前にスタンビートの予兆を察知できる俺の能力は、冒険者たちにとってもありがたい存在だ。彼らは事前に装備や仲間を準備し、安全に報酬を得ることができるからだ。


「ジャイアントボアを討伐したら、討伐者にその素材を与える。相場では1頭あたりの100Gだ。冒険者たちには十分な仕事になるだろう」


俺はセバスに指示を出し終えると、地図を見つめながら考え込んだ。


「ローラ様を救うには、この領地の力を最大限に使うしかない」


俺はそう決意を新たにした。彼女の運命を変えるためには、グランドウォールの富と力を利用し、彼女にふさわしい未来を切り開く。それが俺の使命だ。



★☆ ジャイアントボア討伐隊の結成


領地グランドウォールの冒険者ギルドは、今日も賑わいを見せていた。テーブルを囲む冒険者たちが仕事の話や武勇伝を語り合う中、ギルドの掲示板に新たな依頼が張り出された。


「ジャイアントボア討伐?また、スタンビートが起きてるって話か」

最初に依頼を目に留めたのは、ベテラン冒険者のリーダー格であるリックだった。鍛え上げられた体に傷跡がいくつも走り、そのすべてが彼の長年の戦いの経験を物語っている。


「依頼主はグランド子爵様ご本人だぞ」

後ろから仲間の女剣士、ミラが声をかけてくる。長い赤髪をひとつに結び、鋭い目つきで依頼内容を読み込んでいた。


「報酬も悪くないな。参加自体は1人あたり、5Gと微妙であるが、ジャイアントボアを解体すると相場では1体100Gになる。スタンビートってことは、群れを叩ける分だけ稼げるってことだ」

リックがそう言うと、他の冒険者たちも興味を示し始める。


「でも、ジャイアントボアだぜ?あのデカい猪を群れで相手にするのは骨が折れるな」


「それに、スタンビート中だと個体数が尋常じゃないだろ。数十匹どころか、下手すりゃ百、数千匹単位で出てくるんじゃねえか?」


「だからこそ儲け時なんだろ!」

リックはニヤリと笑った。「命が惜しいなら見てるだけにしとけ。オレたちはガッツリ稼ぐぞ!」


---


★☆ 討伐隊の編成と準備


ギルドマスターの推薦もあり、討伐隊は迅速に編成された。総勢300名の冒険者たちが選ばれ、その多くが中堅からベテランの戦士、魔法使い、弓兵などバランス良く揃っていた。もちろん、リックとミラもその中に含まれている。

冒険者たちと、その収穫した素材を搬送する部隊が一緒になって進軍している。


「子爵様からの情報だと、発生ポイントは森の東端、ポイント356,490だってさ。魔法でピンポイントで教えてくれるんだから、準備は楽だよな」

リックは支給された地図を広げながら言った。


「助かるわよね。私たちが必死で探さなくてもいいんだもの。けど、その分、期待にも応えないと」

ミラは装備の点検をしながら答える。


討伐隊はそれぞれの役割に応じた準備を整えた。前衛の戦士たちは大型の盾と鋭い剣を手にし、後衛の魔法使いたちは炎や氷の魔法を準備する。弓兵たちは遠距離からの攻撃用に強力な矢を用意した。


「スタンビート中のジャイアントボアは凶暴化してる可能性が高い。周囲をよく警戒しろよ」

リックの指示に、冒険者たちはそれぞれ頷いた。


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★☆ ジャイアントボアとの遭遇


討伐隊が現場に到着したのは翌日の昼過ぎだった。広大な草原と森が広がる中、遠くから地響きのような音が聞こえてくる。


「…あれか」

リックが指さした方向に、巨大なジャイアントボアの群れが見えた。牛ほどの大きさの猪が何百匹も集まり、木々を押し倒しながら進んでいる。その動きには明確な意図があり、近くの村を目指しているようだった。


「数は…300匹以上か。子爵様の情報では1000ぐらいになるらしいな。まだまだ増えるな」

ミラが慎重に観察しながら呟く。


「いいか、作戦通り行くぞ!」

リックが声を張り上げる。「前衛は群れの進行方向を塞ぎ、後衛は魔法と弓で遠距離から叩く!全員、準備しろ!」


冒険者たちは即座に陣形を整えた。戦士たちが盾を構えて最前線に立ち、魔法使いと弓兵たちがその背後に配置された。


「行くぞ!全力で叩け!」

リックの号令とともに戦闘が始まった。


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★☆ 激闘の末


ジャイアントボアたちは、討伐隊の攻撃を受けて次々と倒れていった。だが、その凶暴性は並ではなく、鋭い牙と巨体を武器に前衛の戦士たちを押し返そうとする。


「くそっ、思った以上に手強いな!」

リックが叫びながら剣を振り下ろし、1匹のボアを斬り伏せた。


「でも、押し込めてるわよ!」

ミラは冷静に指摘しながら、隙を突いて別のボアの脚を斬りつけた。


後衛の魔法使いたちが次々と炎の魔法を放ち、ボアの群れにダメージを与える。やがて群れは力を失い始め、冒険者たちが優勢に立った。


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★☆ 討伐完了


数時間に及ぶ戦闘の末、ジャイアントボアの群れは完全に討伐された。冒険者たちは疲労しながらも安堵の表情を浮かべる。


「全員、生きて戻れたな」

リックは戦士たちを見回し、微笑んだ。「これで村も安全だ。上出来だぜ」


「これだけ稼げれば当分贅沢できそうね」

ミラも微笑みを返す。


彼らは討伐の証拠となるボアの牙や肉を回収し、搬送用の馬車に預けた。そして、グランドシティへと帰還した。その顔には満足感が漂っていた。


---



討伐隊が戻ると、ギルドは歓声に包まれた。冒険者たちが任務を成功させたことは領地中に知れ渡り、彼らの名声はさらに高まった。


そして、報告を受けた子爵――俺は、冒険者たちの活躍を聞いて一言、呟いた。

「ふん、やはり頼りになるな。これならば領地の未来も安泰だ。そして、この力を持ってしてローラ様の運命を変える…」


その目には新たな決意が宿っていた。


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