第3話 悪役令嬢?ローラ姫
翌日、大公家の屋敷
俺はローラ様に直接会いに行くことを決めた。アニーの言葉を信じるのはまだ難しいが、何もせずに断罪の日を迎えるわけにはいかない。
ローラ様はいつもと変わらず、優雅に微笑んでいた。青いドレスに身を包み、その佇まいは気高く美しい。俺は彼女の前で膝をつき、言葉を選びながら切り出した。
「ローラ様、少しお時間をいただけますか?」
「ロード、何かあったのかしら?」
その声は穏やかだったが、俺の真剣な表情に気づいたのか、目の奥にわずかな緊張が走った。
「少々、大切な話があります。これからのことに関わる重要な問題です」
ローラ様を守るために何ができるのか。この瞬間から、俺の試練が始まった。
「…重要な問題ですか?」
ローラ様はその美しい眉をわずかにひそめ、俺の顔をじっと見つめた。その目には、自分に何か重大な責務が課されるのではないかという予感が宿っているようだった。俺は思わず息を飲む。彼女の気高さと、そこに隠された繊細さに触れた気がしたからだ。
「はい、ローラ様。大公家の未来、そしてご自身の将来に関わる話です」
「それほどの話なら…場所を変えましょう。ここでは落ち着いて話せないわ」
彼女はそう言うと、控えていたメイドたちに退室を命じた。そして、俺を自室の奥にある静かな応接間へと案内した。そこは深い青を基調とした落ち着いた空間で、彼女の気品にふさわしい雰囲気を持っていた。
「では、聞かせてちょうだい。ロード、あなたが私に伝えたいことを」
ローラ様は真っ直ぐな視線を向けてきた。その目には、どんな話でも受け入れる覚悟が見えた。俺は彼女の覚悟に応えるように、言葉を慎重に選びながら話し始めた。
「ローラ様、率直に申し上げます。近々、王太子殿下との婚約が破棄される可能性があります。そして…その結果、ローラ様が断罪される事態が起きるかもしれません」
俺の言葉に、ローラ様の瞳が一瞬だけ大きく見開かれた。だが、すぐにその表情は落ち着きを取り戻し、口元に微かな笑みを浮かべた。
「ふふ、ロード。そんなこと、ありえませんわ。婚約は王家と大公家の間で結ばれた重要な取り決めです。私がどんな理由で断罪されるというの?」
「それは…」
俺は言葉を濁した。『乙女ゲームの設定だから』などと言ってしまったら、彼女が真剣に受け取るはずがない。だが、アニーの話を聞いた後では、この未来が現実のものになる可能性を無視するわけにはいかなかった。
「ローラ様、どうかお聞きください。この婚約が破棄されれば、ローラ様だけでなく、大公家全体が窮地に立たされる恐れがあります。ですが、その前に、別の道を模索することができれば…」
「別の道?」
ローラ様の瞳に、ほんのわずかな動揺が浮かぶ。
「はい。たとえば、婚約そのものをローラ様の意思で辞退するという選択肢です」
「辞退…?」
ローラ様は口元を引き締め、椅子の背もたれにそっと寄りかかった。その姿には重々しい決意とともに、どこか諦めにも似た感情がにじんでいた。
「ロード。私は大公家の娘として、この立場を受け入れるしかありません。あなたも知っているでしょう?私が他の兄弟たちと違って、『あの魔法』を使えないことを」
ローラ様の言う「魔法」とは、特能魔法と言われ、特定の家系のみ使用できる魔法である。大公家にも代々伝わる特能魔法がありそれは他の魔法使いが扱えない、強力で特殊な力であり、大公家がその力をもとに地位を保ってきた理由の一つでもあった。だが、ローラ様はその魔法を使う素質を持たず、生まれつき大公家の「力」の外に置かれる存在だった。
「ローラ様…」
「私には、大公家の役に立つ方法が限られているのです。だからこそ、政略結婚は私にとって義務です。この婚約を受け入れることで、少しでも家のために尽くしたい。それが私の役目だと分かっています」
彼女の声は穏やかだったが、その奥には深い悲しみがあった。ローラ様自身が自分を犠牲にして大公家を守ろうとしているのだ。その覚悟が俺の胸を締め付けた。
「ですが、それではローラ様ご自身の幸せが…」
「私の幸せ?そんなもの、考えたこともありませんわ」
ローラ様は苦笑いを浮かべた。その笑顔には、諦めと孤独が滲んでいた。
「それが大公家に生まれた者の宿命ですもの」
俺は拳を強く握った。彼女がどれだけ家のために自分を犠牲にしようとしているのかが痛いほど分かったからだ。だが、それでいいのか?ローラ様はかなり有能な方だ。もし、特能魔法が使用できたら、間違いなく当主となっていただろう。人格も素晴らしく、子供のころから、つらいときとか励ましてくれたりしてくれた。彼女のような素晴らしい人は自身が幸せになる道を探すべきではないのか?
「…ローラ様。俺は、あなたがそんな運命を受け入れる必要はないと思っています」
「ロード?」
「この婚約が破棄される危険がある以上、俺はあなたが断罪されるような未来を絶対に許しません。そして、あなたが幸せになる方法を、俺なりに見つけてみせます」
俺の言葉に、ローラ様は驚いたように目を見開いた。だが、それも一瞬のこと。すぐに彼女は再び微笑み、その瞳にはわずかに涙が光っていた。
「ロード、ありがとう。でも、あなたがそんなことを気にする必要は…」
「いいえ、あります。あなたをお守りするのが、俺の役目ですから」
そう言い切った俺の心には、一つの決意が宿っていた。ローラ様を救う。断罪という未来を覆し、彼女が自由な人生を歩むための道を切り開く。それができるのは、この世界で異邦人としての視点を持つ俺だけだと信じていた。
ローラは部屋で一人だけいて天井を眺めている。それから小さくため息をついた。
「ごめんなさい、、ロード。貴方にも本当のことは言えないの。。」
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