1話 正体
その日は寝過ごしたせいで買い物に行くのが少し遅くなった。時間は…大体10時40分前後、俺は急いで買い出しを終わらせようとした。
「やべ、これ間に合うかのか…。」
スマホを見ると時刻は10時58分。多分無いだろうが万に一つにも警察に遭遇でもすれば確定補導行きのチケットGETだ。
「最悪だ。とにかく警察にエンカウントしない事を願おう。」
捕まるのは非常に不味い。理由は言えないが。
最悪、大家さんに頼めば何とでもなるだろうが、迷惑をかけたくない。
それに俺は大人が嫌いだ。大家さんと行きつけの店(ラーメン屋)の店主以外は嫌いだ。特に男。
「ふぅ、何とかアパートは目の前だ。危ねぇ危ねぇ。」
そう安心してふと前を見る。さっき雨が降っていたからか、だとしてもずぶ濡れの女の子…JKだろうか。
そんでそのJKが1人で立ってるのは、不自然だ。
通りすがるふりをして顔を覗き込む。瀕死…と言うか普通に気絶しかけている。
「マジかよ。」と心の中で思いつつ、ほんの数秒だけ待機する。
予想は的中、女の子は倒れそうになった。
「あの、大丈夫ですか?」
本音でやましい考えは一切無しに、俺はそのJKを支えたのだった。
やましい事は無いと言ったが、顔を見ると本当に可愛かった。ミディアムくらいの黒髪、ほんの少し茶髪も混じっている。整った顔立ちで、美しいよりも可愛いよりだ。本音襲いたくなる様なその容姿に対する感情を抑えつつ、ふと目を見た。
可愛い目だ。黒く、輝いても見える。ノーメイク+雨の中でこれなのなら流石に美人も過ぎる…否、可愛いも過ぎるって話だが。まず、そこでは無い。
コイツ、人を殺った事があるな。
それも大分最近だ。もしかしたら今日であるかもしれない。臭いで感じだったのでは無く(良い匂いはした)、目で俺は見抜く事が出来た。
自分と同じ目をしている気がする。本当に全く自分と同じ目をしていると言うのなら、彼女もまた、自分を守る為に人を殺したのかもしれない。
決め付けは良くないだろうが、俺はどうしてかそれが確信に近い者だと知っている。前もそうだった様に。
「ほい、タオル」
「あっ、ありがと。」
ポイッと投げたがナイスなキャッチだ。少し…と言うかかなり静かだが、当たり前か。知らん男の家に上がり込んでいるのだから。
「えっと…。」
俺も言葉を失った。この様な状態でまず何をすべきか、そもそもこんな事経験した事が無い。
「そうだ!お風呂、入ります?」
「え。」
「あ。」
「えっと…。」
「シャワー!シャワーです!勿論覗いたりしませんから。」
「あ…。その、色々とありがとう御座います。」
彼女は頭を下げた、胸元が見えそうになったが、何とかギリギリのラインで見えなかった。悔しくは無い、勿論…。
ただ黒いスポブラと判明したのは許しておいて欲しい。まぁ黙ってるが。
「いえいえ。それより、敬語じゃなくて良いですよ。俺、あんま気にしないんで」
「えっと…そ、そう…?じゃあ…うん。タメで行くね」
「はい。そっちの方が話やすいです。」
「…何で君は敬語」
「一応」
仮にこの子が見たまんまのJKなら少なくとも俺より1つ以上年齢差がある事になる。だったら、念の為だ。
「じゃあ、その…。シャワー、お借りします。いや、借ります。」
2度目、ほんの少しだけ声が大きかった気がする。別にタメを強制したい訳では無い。
「さて…。」
浴室のドアが閉まる音と、同時に水が流れる音を確認して独り呟く。
「いつ、彼女に聞くか、だ。」
彼女の目を見て、彼女が殺人を犯した者だと言うのは見抜いた。それが唯一、俺の特技であるかも知れない。特技と言って良いのかは知らないが。
「うーん。」
取り合いず、動作だけ考えるが何も思い付かない。これが犯罪のピースの1つである事は恐らくだ。しかし彼女を匿うのは別に良い。
彼女を匿うのならその上で彼女との間に状況の認識が出来て無いと駄目なので無いか。
「シャワー上がったよ。」
「…。え?はや?!」
「そりゃあ濡れてるだけだったし」
思ったよりも早い帰還で驚いてしまった。どうしよう、打ち明けるか。
…先延ばすのは面倒いか。
「とりまー…水でも飲む?」
「うん。欲しい、水。」
「座っててよ、何も無いけど」
そう言って彼女を座らせた。何も無いテーブルだが、数秒稼ぐ事は可能だ。と言っても逃げたりしないだろうが。
「お待ちどおさん」
「ありがとさん」
何の会話だ、と脳内でツッコミながら…座った彼女を見下ろす形でポケットに手を入れ威圧するかの様な体勢になる。
「お前、人殺した事あるだろ。」
「ッ…。え?」
突然の告発に彼女も頭が真っ白と言った目をしている。当たり前だが、そうも簡単にバレるとは思っていなかったんだろう。
万に1つ違う可能性も考慮していたが反応的に完全に図星。誰を何で何人殺ったのかまでは知らないが、彼女が人を殺めた事は確実で…。
「や、やだなぁ…。そんな訳無いじゃん?」
「お手本ってレベルの童謡だな。」
威圧するつもりは無かった。それでも彼女がただの通り魔サイコパスだったこちらが優勢と思わせて置かないと、普通に危ない。
「…何で分かるの?」
「さぁな。俺の特技なのかもな。」
「これ、警察に言う?」
「それはお前次第だ。」
彼女は蹲る。そして少し考え、顔を上げた。どんな目をしているのか、最早分からない。
「信じて、貰えないかも知れないけど。私、悪意は無かったの。このままだと、ヤバいって思って…それで両親を」
「…なるほど。」
嘘を付いてるか否かなど、俺は分からない。ここで警察に通報するのは簡単だが…それが正解でないと、どうしてか思う。
それは俺の事情を一切抜いた考えでも、ここで警察を呼び彼女を差し出すのは間違えなのだと思った。
「それで、それでも…そんな危ねぇ事情を抱えた奴を家に置いておくのは…。」
もう少しだけ探りたい。少しでも話を引き伸ばして、彼女が何なのかを知りたい。
「家に置く…?言っても無いのに…いや、お願い、します。家にいさせて!行く宛が無いの。」
「…しまった。」
今日だけ置くって意味だったのだが、長期滞在をまるで考えてたかのように思われてしまった。
「1つ聞くがお前は素手で殺ったのか?」
「…ううん。包丁で、目を潰してから…それで…。」
かなり考えると怖い事をしていたが、彼女自信は俺よりも多分力は無い事を知り安心した。先程の自分を守る為って話が本当なら、寝床を襲われる心配も無いだろう。
「お願い…家にいさせて、通報しないで…。ねぇ、お願い。」
彼女は涙目で…いや、涙を流しながら図々しくも悲痛な願いをぶつけて来た。
「正直、この状況を利用してお前をどうとでも出来る気がする、が。」
それは意地悪の範疇で本当は何もしない。けれど、ここまで言えば彼女の素が出てくる筈だ。
「…お願い、止めて。本当に許して。」
彼女は泣き出した。先程よりも酷い泣き方で。
そこで急にはっとなり、何故だか明るい顔でこっちを見た。
「そうだっ。」
よいしょっといつの間に拭った涙の消えた顔で立ち上がり、俺のベッドの方へ向かった。
「…あ?」
何をするのかと首を傾げる。
「ねぇ。」
彼女は服を脱ぎ始め、先程見たスポブラと同じ色の黒いパンツが現れた。
脱ぎ捨てられた、まだ少し濡れてそうなスカートとシャツと制服が重なっている。
紺色の制服だったのか。濡れていたし興味も…いや、違う。そこじゃない。
「お願い。」
彼女は上目遣いでこっちを見てくる。
「セックスさせてあげるから黙っててよ。」
そう言ったのだった。
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