殺人した私を、独りぼっちの君が助けてくれる話。

@fuyutoharu

生活の始まり

プロローグ

「はぁっ、はぁっ」


 息が、息がただひたすらに辛い。喘ぎ声の様な…そんな可愛い声では無い。途切れ途切れの地獄から這い上がってくる悪魔の様な声が、自分の耳を延々と回る。


「なんでっ、なんっっで!」


 何で、親を殺したのだろうか。断片的に思い出す記憶の中に、親が死ぬ直前の顔が垣間見える。それは悪魔と言い表せる程恐ろしく、醜い。

 ふと思う。今の自分とどちらの方が醜いのだろうか、と。

 仮に今の自分を「悪魔の様」と言うのなら、アレは本物の「悪魔」だっただろう。


「ゲホッ…ぐぅ、ゲホッ、はぁっ…はぁっ。」


 体力の限界だ。体感が間違ってないなら既に市を数個は飛び越えている。運動部であってもそれはしんどい事だ。


「…はっ?雨?最悪、こんな時にこんな夜中に!」


 訂正すると、今は夜中では無く、まだ未成年が補導されない時間だ。

 最も、殺人を犯した者が補導がどうこうでは無く捕まる可能性は高い…いや、確定でバレたら捕まる。


「うわ…マジか、透けてんじゃん。」


 雨で濡れたスカート、加えて制服が透け始めている。黒い自分の下着を見ながら、ふと「私ってそこまで胸大きくないなぁ。」何て呑気な事を呟く。

 だとしてもこの状態であれば、このまま本当に夜中へ突入すれば変態のおじさんに捕まるのは殆ど確定だ。

 良くて家に連れ込まれヤられる、最悪不良集団にレイプされてもおかしくは無い。


 顔には多少自信がある。


「うっわー…。このまま強姦されるか変態に家に連れ込まれる、か。または単純に捕まるかの地獄3択かよ。」


 最悪だ。と膝に手をつく。ズシッと重たい物が乗せられた気分だ。そこで気付く、私はもう限界なのだと。

 もう動けない、体力の回復までに1時間はかかるだろうがそれも水分補給が出来れば、の話。

 ポケットには電源を切ったスマホ…すらも無かった。念の為池に捨てたのだ。


「くそ、他には…無いのか?!」


 あった…が財布、それもいくらだろう。1日ピンクじゃない方のホテルに泊まるので尽きてしまう位しか無い。


「終わった…もう、最悪だ。私の人生」


 顔に手を被せ、少しでも溢れ出る涙を通行人に見られないようにする。雨でどうせ見えないだろうし、警察署なり犯されて泣くなり…この後襲い掛かるであろう地獄が見えるのに、今の微かな名誉を守っても意味も無い。


 終わり。とその言葉だけが頭をぐるぐる回る。いっそ警察に捕まるくらいならレイプされた方が、性奴隷にでもなった方がマシなのでは無いか。


 だってそうだろう。


「あっれー?こんなとこでJKが濡れ透け状態じゃあ無いか?エッロー。」

「想像した通りかよ…。」

「あ?なんて?」


 想像した通りの不良集団(ぱっと見は高校生くらい)。そんな奴ら、来なくても良いのに。


「…。ふぅーん、君ぃもしかして家出して来た?」

「ッ…。どうして?」


 図星だ。多分だけど、動揺してしまった。

 雨で気付かれて無いけど、ちょっと…漏らしてしまった。その恥ずかしさと恐怖が襲い掛かり、脚があり得ないくらい震えている。


「へへ、当たりみたいだな。」

「だったら何?私を皆で襲ってレイプするとでも?」

「おっ、察しが良いじゃーん。ほら、ヤるから、服脱いでこっち来な。」

「ッ…。…いや、だ。」


 下を向き、恐怖から目を逸らした。やっぱり嫌だったんだ。初めてを奪われるのは、仮にそれがJKと言う決して強く無い立場だとしても。


「あ?なんて?なんだって?」


 他にいたコイツの仲間が私を囲もうとして来る。

 多分、このまま囲まれたらどうしようも無くなり、確実に犯される。


「嫌だ!こんなのやだ!」


 と言うか、この盤面をある程度想像していたのは、父親に犯されそうになった経験か。

 それに感謝する事は無くても、それのおかげで警戒心はかなり強くなった。


 それでも、襲い掛かるのは恐怖と酷い未来だ。そんな中で私が取れる唯一の選択…それは、


「あっ、おい!逃げるな!」


 走る、ただそれだけだった。


「おい!そいつ、捕まえろ。」


 一瞬だけ、不良グループの1人の時計が見えた。10時50分くらい、かなりの夜ではあったんだ。走り過ぎて、時間なんて見てなかった。


「おい!待て!」


 走る。スカートが浮いて、パンツが見えたとしても。完全に囲まれる前に逃げれたから、何とか耐えたけど、どうにかして逃げ切らないと次は無い。


「はぁっ、はぁっ…。もう、走れ、無い。」


 あれからずっと走った。上手くまいたとは思う。けど限界だ。補導される時間だろうしこのままだと…いや、無理だ。

 もう、動けないのだから。


「あの、大丈夫ですか?」


 足が耐え切れず倒れた。しかし、声が掛かり、その声の主が自分を支えていた。

 黒髪の男の子だ。身長は…自分より少しだけ高い。声は私くらい高く、男らしい男らしさは無い。


「へ…?」

「えっと…本当に大丈夫です、か?」

「あっ…。」

 

 少し考える。このまま家に連れ込まれて、ヤられるかもしれな…


「大丈夫、じゃない。」

「え、マジか。家来ます?何も無いし誰もいないけど。やましい事はしないと違うんで」


 先に動いたのは口だったらしい。もうどうなっても良い。このままだとどうせ人生終わるんだから。この男に付いて行こう、そう思ったのだった。


「お願い、します。」

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