【3】 就労のピラミッドと支援者のサポート
【牧口】 それでは、お訊(き)きします。双極性障害の⼈が、「障がい者雇⽤」や「就労継続⽀援A型事業所」で働くにあたって、ぶつかる壁みたいなものはありますか?
【林】 そうですねぇ、⼀番の壁は「安定して週20時間以上、または⽉17⽇以上働けないといけない」ということですね。これは「雇⽤保険」加⼊の条件からくるものです。
(復刻版 著者注:令和7年1月1日現在、「障がい者雇用」においては、「週20時間ルール」は絶対ではなくなってきており、週10時間以上で働くことのできる職場も出てきている。)
「週20時間ルール」の⽅は、例えば、1週間合計で20時間にさえなれば、間に休んでも構わない、などの柔軟な対応を、取ってもらえるのなら、まだいいのですけど、たいていの会社は、毎⽇均等に、1⽇4~5時間ずつ働くことを求めるんですよね。特に「A型事業所」はこの傾向が強いですね。
また、⽉17⽇以上というのも、8割以上の出勤ということになりますので、双極性障害の⼈にとっては現実的ではございません。
【牧口】 なるほど。双極性障害は、不安定なのが当たり前の障がいですから、均等でコンスタントな勤務を要求されても、困るわけなんですね。
【林】 そうですね。均等でコンスタントな勤務に適応しろというのであれば、それは病気を⾃分の⼒で治せ、と⾔われているに等しいのです。
【牧口】 なるほど。でも、実際のところ、その「週20時間・⽉17⽇ルール」って、今は厳然(げんぜん)として存在しているわけですよね。ある意味、どうやっても崩しようのない壁ですよね。
ということは、現状では、⽀援する側としても、「週20時間・⽉17⽇ルール」に適応できるような、⽀援のしかたをしていると思うんです。それについては、どうお考えですか?
【林】 ⽀援者が、僕らを⽀援する際に、必ず引き合いに出してくるのが、いわゆる「就労のピラミッド」というやつです。正式には「就労準備性ピラミッド」と⾔います。誰が考えたのかわかりませんが、ご覧の通り、⼀番最底辺に、「健康管理」という名のもとに、「体調の安定」が前提とされています。
おそらく、予後が⽐較的安定する障がい、あるいは⾝体障がいを想定して、作られたものではないかと思っているのですが。
【牧口】 なるほど。
「障がいによる症状は、回復すれば安定するもの」
あるいは、
「⾃⼰管理次第で安定するもの」
という思い込みのもとに、作られたピラミッドなんですね。安定していないうちは、回復していない、あるいは⾃⼰管理ができていないのだから、
「そもそも就労を目指すに値しない」
と⾔われているようにも受け取れるものですね。
【林】 そうなんです。実際、僕についていた⽀援者は、それに近いことを⾔っていました。そして、⽀援の内容も、まず安定、まず安定、そればかりでしてね。それが⾃分の⼒でできるのなら、わざわざ⽀援をお願いしないよ、という感じでして。
【牧口】 なるほど。
【林】 はい。それで、僕は、ピラミッドの最底辺の「健康管理」の部分以外の部分、つまりそこから上の、「⽣活管理」の部分や「能⼒的」な部分などですが、それらは全て満たしているんです。
その時点で、ピラミッドがこの順番で積み上げられていくべきもの、という発想が、あまりにもおかしいことがわかります。しかも、⼀番下の「健康管理」の部分は、僕は、障がいゆえに満たせないだけですのに。
【牧口】 なるほど。ということは、このピラミッドは、現状の「障がい者雇⽤」の仕組みに合わせて、雇う側の都合の良いように組まれたと⾔えますか?
【林】 もしくは、このピラミッドのほうが先に打ち⽴てられて、それを信じた⼈たちが、それに合わせて「週20時間ルール・⽉17⽇ルール」というものを作ってしまったのかもしれません。
しかし、いずれにしても、これは明らかに「選⺠思想」、つまり「特定の⺠だけを選んで救う思想」です。
もちろん、僕らの⽅にも、ある程度の努⼒が必要なのは確かですし、企業側にも求める理想の⼈材というものがあるでしょう。
ですから、ある程度は、選⺠になるのはしかたがありません。でも、結果的に、可能性のある者の芽まで摘んでしまうことになっているのです。
【牧口】 なるほど。その「選⺠思想」により、能⼒があるにも関わらず、そもそも選ばれる対象とならない⼈が、たくさん出てきているわけですね。双極性障害の⼈をはじめとして。
【林】 はい。ですので、僕は「週20時間・⽉17⽇ルール」の撤廃(てっぱい)と、企業側のもっと柔軟な対応を強く求めます。そして、双極性障害をはじめとする、ピラミッドで除外されてしまう種類の障がいに対して、企業側がもっともっと理解を深めてくれることを願います。
【牧口】 わかりました。ありがとうございます。
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