第6話 桐谷さんとのデート②

バスケットコートで軽く運動したあと、俺たちは近くのカフェに立ち寄ることになった。

商店街の一角にある、こじんまりとしたカフェ。

店内は木目調のテーブルとレンガの壁が温かい雰囲気を醸し出している。


「ここ、私のお気に入りのカフェなんだ。」

「へぇ……優奈がこういう落ち着いたところに来るの、ちょっと意外かも。」


なんとなく、アウトドアとかスポーツ系のお店が似合いそうなのに。


「たまにはこういう静かなところも好きなんだよ?」

「そうなんだ。」


俺たちは窓際の席に座り、メニューを眺める。


「玲くんは何にする?」

「うーん、アイスコーヒーかな。」

「私はこれ!」


優奈が指さしたのは、期間限定のチョコレートパフェ。


「……え、パフェ?」

「うん。何か?」

「いや……優奈って意外と甘党なんだなって。」

「え、知らなかったの? 私、めちゃくちゃ甘党だよ。」


意外な事実を知った気分だった。

桐谷さんって、どちらかというとさっぱりしたものが好きそうなイメージだったけど……。


「運動した後の甘いものって最高なんだよね。」

「そうなんだ。」


パフェが運ばれてくると、優奈は満面の笑みを浮かべた。


「きたきた〜!」

「すごいボリュームだな。」

「でしょ? 一緒に食べよ?」


そう言って、スプーンを差し出してくる。


「いや、俺のはコーヒーでいいし……。」

「えー、せっかくだから一口だけでも!」


俺が断る間もなく、桐谷さんはスプーンにたっぷりチョコをすくって差し出した。


「はい、あーん。」

「……いやいや、それは流石に。」

「ほら、恥ずかしがらないの!玲くん、さっきのバスケで頑張ったからご褒美!」


ご褒美って……。

桐谷さんが楽しそうに笑いながらスプーンを近づけてくる。

恥ずかしいけど、そのまま断るのも雰囲気が悪くなりそうで……。


「……いただきます。」


恐る恐る口を開けると、桐谷さんがスプーンをすっと差し入れた。


──甘い。


濃厚なチョコレートの味が口の中に広がって、一瞬で思考がストップする。


「美味しい……。」

「でしょ?」


桐谷さんがニッコリ笑って、今度は自分で一口食べる。

スプーンを口に運ぶたびに、幸せそうな顔をするのがなんか可愛い。


「優奈って、食べるときすごく嬉しそうだよね。」

「だって、美味しいもの食べると幸せじゃん?」


まるで子供みたいだな……なんて思ったけど、それを言うと怒られそうだから黙っておいた。


「玲くんも、もっと甘いもの食べればいいのに。」

「いや、俺はそこまで……。」

「玲くんが食べてるところ見てると、もっとあげたくなるんだけど。」


そう言いながら、またスプーンを差し出してくる。


「ほら、もう一口!」

「いや、いいって。」

「いいからいいから!」


──また断る隙がない。


俺が観念してもう一度口を開けると、桐谷さんが嬉しそうにスプーンを運んできた。


「ね、美味しいでしょ?」

「うん、美味しいけど……これ、全部食べたら優奈の分がなくなるんじゃ……。」

「大丈夫。これくらいならまた頼めばいいし。」


頼む気満々なのが、桐谷さんらしい。


「それに……玲くんと一緒に食べたほうが、もっと美味しく感じるよ?」


そう言って小さく笑う。

その言葉に、不意に胸がドキッとした。


「……なんか、優奈って意外と甘え上手だよね。」

「んー? 玲くん相手だからかな。」


「えっ?」


「普段はこんなことしないよ。玲くんだから、特別。」


サラッと言って、パフェをまた一口食べる桐谷さん。


……なんか、今日はずっと心臓が落ち着かない。


「ねぇ、玲くん。」


桐谷さんがスプーンをくるくる回しながら、俺をじっと見つめてくる。


「次はさ、二人でおそろいのもの買いに行こ?」

「おそろい……?」

「うん、デートっぽくていいでしょ?」


その言葉に思わず視線をそらす。


「……わかったよ。」


「やった!」


桐谷さんは満面の笑みを浮かべた。

そんな顔を見せられたら、断る理由なんてどこにもなかった。

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大きい桐谷さんと小さい霧谷さんに狙われる話。 佐藤 扇風機 @kyuusenki

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