第4話 デートプラン対決!
ゴールデンウィーク直前の放課後。
教室にはもう数えるほどしか生徒が残っていない。窓から差し込む夕陽が、机の上に長い影を落としていた。
その静かな空間で、俺は今まさに二人の少女に挟まれ、逃げ場を失っていた。
「玲くん、私のプラン、楽しみにしててね。」
「しのっち、私のプランが一番楽しいよ!」
霧谷詩織と桐谷優奈。
身長差35センチの二人が俺を中心に、どちらも一歩も譲らない構えだ。
とはいえ、その笑顔の裏には見えない火花がバチバチと飛び交っている。
「で、デートプラン対決って……本当にやるの?」
「やるよ。」
「やるに決まってるでしょ。」
二人が即答する。
その声が妙にシンクロしていたせいで、俺は思わず苦笑いした。
──ですよね。
逃げる選択肢は、どうやら初めから存在しなかったらしい。
机の上に置かれた紙には、すでにデートプランらしきものがびっしりと書き込まれている。
「じゃあ、私からね!」
勢いよく紙を掲げる桐谷さん。
放課後のオレンジ色の光がポニーテールを柔らかく照らし、その姿が一瞬だけ映画のワンシーンのように見えた。
「じゃーん!アクティブデートプラン!」
『桐谷優奈のアクティブデートプラン』
1. 朝から一緒にジョギング!
• 河川敷を軽く走って気分爽快!
2. 午後はバスケデート!
• 私が教えてあげる!玲くんにシュート決めさせるからね!
3. 夕方はオシャレなカフェでクールダウン。
• 甘いスイーツも一緒に。
「……ものすごく体力勝負だね。」
俺は苦笑しながら紙を見つめた。
いかにも桐谷さんらしいプランだ。汗をかくことに抵抗がない彼女らしく、予定のほとんどが体を動かすもので占められていた。
「玲くん、運動不足なんだからちょうどいいよ。」
「いや、俺そこまで動きたいとは……。」
「私が一緒なら、楽しいよ?」
桐谷さんが俺の目をじっと見つめてくる。
背が高いせいか、少しだけ俺を見下ろす形になっていて、その視線が妙にドキドキする。
──いやいや、何をドキドキしてるんだ俺。
「ふふ、玲くん照れてる?」
「な、なんでもない!」
ごまかそうとすると、桐谷さんが嬉しそうに微笑む。
まるで、からかい甲斐があると言わんばかりの表情だった。
「じゃあ、次は私の番。」
霧谷さんがスッと紙を差し出した。
その仕草はまるで猫のようにしなやかで、静かながらも存在感がある。
紙の端には、可愛らしい猫のイラストがちょこんと描かれていた。
なんというか、霧谷さんらしい細やかなセンスが表れている気がする。
『霧谷詩織の癒しデートプラン』
1. 午前は動物カフェでまったり。
• 猫や犬と遊んでリラックス!
2. お昼は商店街でお揃いの雑貨探し。
• おそろいのストラップとか、どうかな?
3. 午後は映画鑑賞。
• 静かな恋愛映画を観て、感動を共有したいな。
4. 夕方は公園でギター演奏。
• 私が弾くから、玲くんは隣で聴いててね。
「……すごく落ち着いたプランだね。」
「えっ、嬉しい。」
霧谷さんが俺の袖を軽く引く。
ふわりと香るシャンプーの匂いが、鼻をくすぐった。
「玲くんが隣にいてくれたら、それだけでいいの。」
──か、かわいい。
本音を言うなら、走り回るよりもこちらのプランのほうが自分には合っている気がする。
「どっちがいい?」
「しのっち、選んで。」
二人が俺をじっと見つめてくる。
「えっと……その……。」
「悩んでるね?」
「悩んでるね?」
まるでハモるように声が重なった。
──これ、俺の心臓に悪すぎるんだけど!?
「じゃあさ。」
桐谷さんが口角を上げる。
「どっちのプランもやればいいんじゃない?」
「え?」
「ゴールデンウィークは5日間あるし、2日くらい使ってもいいでしょ。」
霧谷さんがこくりと頷いた。
「それ、いいね!」
──いや、俺の意見はどこへ!?
「じゃあ一日目は私で、二日目は霧谷さんね。」
「うん、決まり。」
完全に決定事項の空気だった。
俺のゴールデンウィークが二人の手の中で決まろうとしている。
「ねえ、玲くん。私と一緒にいるの、そんなに嫌?」
霧谷さんが不安そうに俺を見つめた。
その瞳が潤んで見えて、俺は思わず言葉を詰まらせる。
「嫌じゃないよ。むしろ……。」
「むしろ?」
「楽しそうだなって。」
その一言で二人の表情がぱっと明るくなった。
──こうして、俺のゴールデンウィークは甘くも騒がしいものになるのだった。
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