第2話 帰り道
三人で並んで歩く帰り道。
霧谷さんは右側、桐谷さんは左側を歩いている。こうして二人と一緒に帰るのも悪くはない……のだが。
「……玲くん、こっち歩いて。」
「ダメ、玲くんはこっち。」
少しでも気を抜けばすぐに引っ張られる。霧谷さんは俺の手をぎゅっと握り、桐谷さんは肩に軽く腕を回している。
──いや、これもう完全に人質みたいじゃん。
「あのさ……。」
「なに?」
「玲くん、なんか言った?」
「いや……やっぱりなんでもない。」
下手に言葉を挟むと、二人がまた火花を散らしそうなので黙ることにした。
「ねぇ玲くん。」
「ん?」
霧谷さんが、上目遣いでじっと俺を見つめる。
「私のこと、昔みたいに“詩織”って呼んでくれない?」
「え、いや……それはさすがに。」
「なんで?」
「なんか恥ずかしいし。」
「じゃあ私は?」
今度は桐谷さんが割り込んできた。
「私も名前で呼んでよ。玲くん、昔は普通に“優奈”って呼んでたよね?」
「それも中学の時の話だし……。」
「じゃあ、また中学の頃に戻ればいいんだよ。」
桐谷さんが俺の背中を軽くポンッと叩く。
「ね、優奈って呼んで。」
「うん、詩織でもいいよ?」
──そんな簡単に言われても困るんだけど。
「あのさ……なんで急にそんなこと言い出すの?」
すると、二人は顔を見合わせて、ふっと笑った。
「玲くんが鈍感だから。」
「玲くんは昔からそうだからね。」
まるで示し合わせたように同じことを言う二人に、なんとなく胸の奥がざわつく。
もしかして……そんな感じのことなのか?
「ねぇ、玲くん。」
「しのっち。」
二人が同時に俺を呼ぶ。
「今変なこと考えてたでしょ。」
「しのっち、顔に出てるよ。バレバレだよ。」
「変なことなんて何も考えてないよ。まあ、ね。」
「まあ別に玲くんならいいのだけれど。」
「しのっちなら別にいいけどね。」
2人は顔を赤くしつつにっこり微笑んでいた。その表情はどこか柔らかいが、ほんの少しの怖さを醸し出していた。
――さてこれからどうなるのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます