第2章 ナライアンタ王国
第4話 転移って、テレポーテーションなんだ!!
馬車が舗装された道を、ガタガタと進む。
馬車って舗装されてる道でも結構揺れるんだなぁ
なんて私はどこか遠い目をする。
「改めて、私の名前はコルナーだ。エクラ殿
道中の短い間ではあるがよろしく頼む」
「あ、はい。よろしくお願いします…
コルナーさん」
甲冑の男の人…もといコルナーさんは、礼儀正しく私に自己紹介をしてくれた。
そしてブローチからも声が発せられる。
「そして天才刻印師のシオラです。
よろしくお願いしますねエクラさん」
「ひっ、あっよ、よろしくお願い…します」
「…ねぇコルナー。私、エクラさんに怯えられて
いません?案じなくとも、取って食べたり
なんかいたしません。あれは場を和ませるための
ジョークです」
「だとしたら相当タチが悪いんですけど!
本当に人を食べる種族かなんかだと…
…うぅう……笑えないジョークは
ジョークって言わないんです!!
もうっ!」
どうやら本当にカニバる事態にはならないらしい。
その事実に取り敢えず胸を撫で下ろした。
「それでコルナーさん。今はどこに向かってるんで
すか?」
馬車で揺られる旅の最中、私はこの馬車の行き先を訊ねた。
コルナーさんは結構無口な人だから、私から話しかけないと会話が生まれない。
「この馬車はナライアンタ王国へ向かっている。
…正確にはナライアンタ王国へ繋がる場所だ。
そしてナライアンタを超えてオルエへ向かう」
「ナライアンタ…」
そういえばこの世界に来た時に初めて会った人が
そんな国を口にしていた気がする。
あの時の言い方的にカシレナの隣国なのかな。
そしてまた新しい国の名前…オルエという国もあるらしい。
「……して、私からも一つ。質問をしても?」
コルナーさんが軽く右手を挙手する。
「エクラ殿は…いったい如何様な理由で、杖屋の
物品の破壊を?…いや、答えなくともおおかた理
由に検討はつくのだが…」
…言われてるぞベンディーさん、いやもうあの人は
呼び捨て。言われてるぞベンディー、むすっ。
「エクラさん程の魔力を持ってる人が店に訪れて
杖屋が取る行動なんて一つじゃないですか。
コルナー、あれは完全にあの方の自業自得です」
え、そこまで分かってて私は出荷されたのか。
これからの私の行方がやっぱり不安になってきた。
「そうだな。……エクラ殿は杖を求めてカシリナま
で訪れたのか?だとしたらかなりの長旅で苦労
しただろう。道中に護衛を付けている様子
もない」
「…あの、私実は」
私は彼らにこれまでの経緯を話した。
異世界から来た事。魔法についても、この世界についても全くの無知であること。
そして元の世界に帰る方法を探している事。
全てを話し終えた後、コルナーさんもシオラさんも
完全に沈黙してしまっていた。
どうやら相当面食らっているらしい。
私だって話しててよく分からないし。
「異世界から来たって…多次元会が喜びそうな案件
ですね」
「たじげんかい?」
「多次元会はエクラさんの言うような異世界につい
て熱心に調べている物好きの集まりですよ。
半ばカルトみたいな宗教団体です。
というかエクラさん。もしかして入信者だったり
します?あまりに聖典の内容に酷似しているもの
で…」
「私無信仰です!そしてそんなちんちくりんな団体
知らないです!」
「…しかし多次元会の意向はどうあれ、その話し
は眉唾であるな。魔法の無い世界から迷いこんだ
というには、エクラ殿はあまりにもこの世界の
者にしか見えない」
コルナーさんが淡々と疑問を語る。
「それもありますし。正直それが魔法の仕業という
のもかなり無理がある話しだと思います」
続けてシオラさんがそう述べた。
「えぇ!?で、でもベンディーさんが魔法の
仕業だって…」
「魔法というのは杖を振れば出るものでは
ありません。杖には刻印という魔法の設計図を
刻まなければならないのです」
「魔法の…設計図?」
「そうです。火を起こす魔法1つにしても
山火事を起こすほどのモノや、逆にランタンに
火を灯すほどの小さな魔法だってあります。
その全てには別々の刻印。設計図が必要なので
す」
「な、なるほどぉ」
これは理屈的に分かりやすい気がする。
ライターを作るのと火炎放射器を作るのとでは
その構造に大きな違いがある。
つまり、異世界から人を呼ぶには杖に
異世界から人を呼び寄せるための理屈を刻まなければならないと言う事だ。
それが出来ないというこ
「異世界から人を呼び寄せる刻印なんて、この天才
刻印師である私以外に彫れるハズがありません。
おそらく人の仕業ではないでしょう」
あれ?なんか今凄いことを言わなかったこの人?
シオラさんは彫れるの?じゃあ私帰れるじゃん。
「…そろそろか。
シオラ殿にエクラ殿。止まり木に着いたぞ」
私たちの会話をコルナーさんが遮る。
馬車から顔を出して前を見渡すと小さな喫煙所のような箱の施設がポツンと建っていた。
ここがナライアンタ?そんな訳ないよね…?
それに止まり木って何だろう。
「エクラ殿。これを」
そう言ってコルナーさんは何かを私に手渡す。それは光の反射で七色に輝く鳥の羽だった。
「綺麗…」
私は思わずそうこぼしてしまった。
「そうか、エクラ殿は転移をするのは初めてか」
転移。つまりワープ?
この世界はワープも出来るのか。そんな技術が
あれば異世界にワープとかも出来そうなものだけれど。
「この羽は転移鳥という生き物の羽だ。
これに魔力を込めれば空間を縮めて飛ぶことが
出来る。止まり木は、その行き先を固定するため
の施設だ。ここはナライアンタに直通している」
「なるほど…ここに入ってこの羽を使うんですね」
「あぁ、エクラ殿から先に飛んでくれ。
後に続いて私も飛ぼう」
「わ、分かりました」
そう言われて箱の中に入る。
施設の中は外からのイメージ通りの簡素さだった。
そんなに広くないし、無人。あるのはベンチだけと
終電後の駅を彷彿とさせる。…終電後の駅なんて
見たこともないけど、たぶんこんな感じなんだ
と思う。
私は小さく深呼吸をした。
私は当たり前だけどワープなんてしたことがない。
高鳴る気持ちは期待半分不安半分だった。
「すぅ………はぁ……」
ぐっと
意を決して私は羽に力を込めた。
「そろそろ私も飛ぶとするか」
箱の外で待っていた私。コルナーは施設のドアへと
手を掛ける。
「……エクラ殿?」
箱の中には涙で顔がぐちゃぐちゃになり
呼吸が荒くなっているエクラ殿が
へたり込んでいた。
「っ!エクラ殿、大丈夫か!」
少し遡って
私は空を、飛んでいた。
眼前には大きなお城。そしてその何倍の面積をほこる城下町。ここがきっとナライアンタ王国なんだろう。
ただ、ちょっと高すぎる、私が。
「え、えええぇえええええええ!!!!!?!
あぁおちっ、落ちてええるううぅ!?!?
いやぁああぁっ!!??」
私は雲と同じ高さのところに飛んで、そして
垂直に落下していた。
ゴオオオオオォォと風を受ける音と共に
私は死を覚悟する。
初めて空間を飛んだ。けど、これだけは分かる
これはっ!どう考えてもっ!失敗してるっ!!
「いやっ!いやああぁああ!!!!!」
どんどんとナライアンタが近づく。この国に着いたと同時に、私は、死ぬ。それも多分ぐちゃぐちゃになって。
死ぬ……私死んじゃうんだ。
全てを諦めて目を瞑っていたとき
私は手に握られていた羽を思い出した。
私の手汗のせいで元々あった美しさも全て失われてシナシナになっている。
そうだ、この羽に魔力を込めれば元の場所に戻れるかもしれない。
「おっ…おねっ、お願いっとんで!!!」
私は自分の持つ全ての力を手先へと集中させて
箱の中にいた時と同じように、魔力を込めた。
そして気がついたら、私は、元の。止まり木へと
戻ってきていた。
「た…………たすかっ……た……?」
私はその場にへたり込んでしまう。
緊張の糸が解けて、足に力が入らない。
四肢に熱さが戻ってくるのを感じる。
私は、助かったんだ。
そのときドアが開く音がした。
「……エクラ殿?」
コルナーさんの声が聞こえた。
私の後に続いて転移するために入ってきたのだろう。
私の姿を見てひどく動揺しているのが声で伝わってくる。
私はコルナーさんの方へ顔を向けて
「こっゴルっゴルナ"ーざんっ!な"っなんですか
これ"ぇ!!」
この世界へ訪れて二度目の、ギャン泣きをした。
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