第5話 天才シオラちゃんの魔力講座

「なるほど……羽を使い転移した先はナライアンタ

 の遥か上空であった…と」


先ほどの恐怖体験からの生への感覚に未だ体が

追いついていない私の背中をさすりながら

コルナーさんはそう呟いた。


「確認なんですけど、空に転移するのは

 失敗なんです…よね?」


私が震える声でそう訊ねる。


「はい。おそらくエクラさんの魔力が多すぎ

 るせいで転移の座標が狂ってしまったのかと。

 …魔力が多すぎるという理由だけで転移に失敗す

 るという報告例はありませんが、エクラさんの

 魔力なら納得ではあります」


「…あの、シオラさん。私の魔力?が多いっていう

 のはベンディーさんも言っていたんですけど。

 そもそも魔力っていったいなんなんですか?」


私は、ずっと疑問に思っていたことを口にする。

皆当たり前のように、魔力、魔力といっているが

私はその魔力とやらで一度もまともに魔法を使えたことがなかった。


「そうですね。エクラさんにはまず魔力の大まかな

 説明からさせていただきますね。

 …それから、私の事はシオラで構いませんよ。

 エクラちゃん♡」


「エ、エクラちゃん……」


動揺している私をよそに

シオラがブローチごしから語りかけてくる。


「魔力というのは体の中に流れる、魔法を使うため

 のエネルギーの総称です。

 生物によってそのエネルギーの使われ方は様々な

 んですが…"ヒト"、つまり私たちはかなり特殊

 で、そのエネルギーを外部の出力装置に与えるこ

 とで力を得るような進化をしています。

 つまり杖ですね。ヒトは杖がないと魔法が使え

 ません」


シオラは言葉を続ける。私は少しずつ落ち着いてきた。

そういえば、ベンディーさんは確か手のひらから魔力を流すみたいなことを言っていたっけ。


「そして魔力の量についてなんですが

 いわゆる個人差、というやつですね。

 単純に、多い人もいれば少ない人もいます。

 血統だったり大気に存在する魔力の元であるマナ

 を吸収しやすい体質であったり…。

 エクラちゃんはその魔力の量が極めて多いんで

 す」


シオラは、最後の言葉にどこか興奮を隠しきれていない様子だった。

ベンディーと似たような狂気が漏れている。

ちょっと怖い。



「さて、17300という数値があります。

 コルナー、これって何の数値かご存知ですか?」


突然のコルナーさん!?

コルナーさんもあまりの唐突さに固まっている。


「…何故俺に聞く。そのままシオラ殿が説明すれば

 いいだろう」


「ずっと聞き手というのも退屈かと思いまして♡」


シオラはコルナーさんの胸元から、玩具をいじる子供のような無邪気さでダル絡みをし始めた。


シオラもシオラだけど、コルナーさんもなかなか

苦労人だなぁ…甲冑の奥でむすっとしている様子がヒシヒシと伝わってくる。


「…ヒトの体内の魔力量を数値化した時に

 身体が保つ限界と呼ばれている数値のことだろ

 う」


「そうです、座学はバッチリですね


 さてここからが本題です」


シオラは先ほどの様子から打って変わって真剣な面持ちで話し始める。まぁブローチだけだから表情はは分からないんだけども。

 


「エクラちゃんの魔力の量は私の甘い目算でもその

 数値を遥かに超越しているんです。これははっき

 り言って異常、という他ありません」


「それってつまり、どういうことなの?シオラ」


私は容量を得ない。昨日から今日まで、魔力が多い多いと言われ続けてきたがいよいよ異常とまで言われしまった。


そんな様子を察してか、シオラは静かに告げる。










「エクラさんは、ヒトではないのかもしれません」

 

 

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