27.鍵盤奏でる呪言

 ピロンと皆人のスマホから音が鳴る。


「ん? なんだ?」


 皆人はスマホに目を向けると一つのメッセージが届いていた。

 それは強からのグループの招待だった。

 メンバーは今現在判明している七不思議の面子に強と皆人を合わせて六名、断る理由も無いので承認に指をスライドさせる。


 皆人がグループに入ると凄い早さでメッセージが次々流れた。


『俺の箱庭へようこそ!』

『皆様よろしくお願いしますわ』

『みんなよろしくー』

『皆よろしくね』


 早速グループの主はフルシカトされていた。


「ってかあいつはいつ連絡先交換したんだよ」


 良い意味で手が早い男だ。良い意味で。

 皆人は無難に『よろしく』と返事をし、強の『昼休み食堂集合』を確認するとあとのしょうもない会話にはスルーしてスマホを閉じた。

 最後に見たムックの可愛い微生物みたいなキャラのOKスタンプを目に焼き付け、ここでもぶれない彼に感心するのだった。


「どうした普済?」

「ん~~? リーダーからの号令だ」


 秋山からしたら何の事か分からない、皆人は意味深にそれだけ告げるとちょうど待っていたかのようにHRの鐘の音が鳴り響いた。


 授業はつつがなく進み、その間の休み時間には秋山以外にもクラスの面々からの質問が多々あった。

 直接面識が無くてもあれだけ派手に大立ち回りする強は同じ空間にいれば少なくとも一回は目に入るらしい。

 皆人が彼の友人というのは皆からの共通認識であった。大変遺憾である。


 昼休みの鐘が鳴ると同時に皆人は逃げ出すように教室を飛び出した。

 あれもこれも全て奴のせいである。

 皆人の平和は少しづつ蝕まれていく。

 と、脳内で文句をたらたら垂れるが冷静に考えれば自分から協力してるので文句は脳内だけに留めておく。

 洗脳されているとも思えなくないが今は流れに身を任せる事にした皆人。

 それよりも今は急がなければならない理由がある。

 今日、皆人は弁当を忘れてしまった。

 早起きして作ってくれた母に心の中で謝罪しつつ購買へと向かう。

 今は学食よりパンの気分なのだ。

 こうなったら皆人は譲らない。

 目まぐるしい戦場に自ら投じる覚悟だ。


「皆人さん、ごきげんよう」

「ごきげんようローズ」


 向かう道中、少しづつ獲物を狙う猛者達が増えてくる。

 その途中でローズが並走するように合流した。彼女もムックに貢ぐ為に絶対失敗する訳にはいかない。

 ルールなぞ無い無法地帯、列などない早い者勝ち、パンを取りレジに並ぶまでが戦争。


「着いた!」


 だが、目的地はもう人で埋もれている。

 決して初動をミスった訳ではない、これが金敷高校の購買なのだ。


「潜り込みますわよ!」

「おう!」


 人を押し退け中へ中へ入り込んでいく。

 最前列に皆人は腕だけ出すと感覚を頼りにパンを幾つか掴む。だがまだ安心はできない。

 ここから横取り専門、通称『ハンター』に狙われる可能性があるので皆人は胸に抱えるとレジの列に駆け込んだ。


 レジに並びさえすればそこはもう安全地帯である。それが唯一のルール、皆の共通認識。

 皆人は息を整えると戦友の無事を祈りながら未だ荒れ狂う民衆に目を向けた。


「こん畜生ですわ!」


 ローズは苦戦していた。上手いこと潜り込めず体が弾き出される。

 だが一度二度の失敗で折れる彼女ではない。

 彼女は懐から札束を取り出すと、


「金ならある! いくらでも出す! 道を開けなさい!」


 そう叫びながら体を捩じ込んでいった。


「……どっかで聞いたことあるセリフだな」


 皆人は支払いを済まし、彼女を待つ。

 一分も経たない内にローズはパンを抱え、


「結局世の中金ですわ」


 最悪な捨てセリフと共に帰還するのであった。


「やっと来たな」


 もう定位置と化してる端奥、ムック達と初めて会った場所を確保していた強はお先にと日替わり定食に手を付けていた。

 強の隣に空の食器が積まれている。それに隠れてムックが新しい定食をかき込んでいた。


「随分早いな」

「今日クラスに居づらくてな。飛び出してきた」

「お前もか」


 皆人と違って強の場合は自業自得だ。

 皆人は強の前に座り、ローズはムックの横に腰掛ける。

 これから来る献上品の処理をしなければならない。

『無口喰臥ファンクラブ会長』は忙しいのだ。


「お待たせ」

「おまたー」


 桐人と桜も合流し、桐人は皆人の横に桜は強の横に座った。

 それに対して強は眉をひそめる。


「何でわざわざこっちに座るんだよ」

「良いじゃないダーリン」

「だだだ、ダーリン!?」


 すっとんきょうな声を上がり、弁当箱が宙を舞う。

 杏子の手から転げ落ちた弁当は床にぶつかる前に灯が拾い上げた。


「セーフ、気をつけて杏子……杏子? ……死んでる」

「生きてるよ」

「あ、ご、ごめんなさい、なんか幻聴が聞こえて気が遠く……」

「生き返った……私達もお昼一緒に良い?」

「もちろんですわ! さぁこちらへ」

「桜、もうダーリンは止めとけ」

「そうね。からかいすぎたわ」


 ローズに気が逸れている中で皆人が桜へ持ち掛ける。

 いろいろとトラブルが起きそうなので予め釘を刺し、彼女もそれを了承した。


 この後特にトラブルといったトラブルは無く、貢ぎ物の進行もスムーズに進む。

 ムック以外の昼食が終わると強は待ってましたと言わんばかりに巻物を机に広げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る