15.眠る男
「灯にはきつく言っておきますわ」
「いや、小野さんが悪いわけじゃないんだけど」
どっちかと言うとこの状況を引き出したのは強である。
そして笑いを堪えていたのはローズも同じだがそこは言及しないことにする。
とりあえず皆人は強の頭を脇で極めると力一杯締め上げた。
「痛い痛い痛い!」
断末魔の叫びは完全にスルーしながら夢見がちな彼へ向き直る。
「はっきり言って俺とローズは信じてないからな」
「そう……じゃあ君等しか知らない情報を提示したらどうかな?」
「何だって?」
不適に笑う彼はそう言ってローズを指差すと、
「ローズ君は今もピンクの熊のぬいぐるみを抱いて寝ている」
「なっ!?」
一瞬で茹で蛸が出来上がる。ローズは顔を扇子で覆うとムックの後ろに隠れてしまった。
「……本当なのか?」
「……いや~~ソンナコトアリマセンワヨ」
「名前はリリー」
「止めて下さいまし! それ以上は泣きますわよ! 大声で泣きますわよ!!」
察するまでもなく、これは皆人達も知らない本当の話だろう。
彼女にこの場で大泣きされても困るので彼にはこの辺で止めてもらう。
「そして皆人君、君は無口喰臥ファンクラブ名誉会長らしいね」
皆人はローズの方を見る。ローズは首を横に振って否定している。
この件に関しては二人の間だけで決まった事、ローズが喋らなければ漏れることはない。たった今強にその事がバレた訳だがそれは置いておく。
そしてローズは信用に値する。彼女が漏らす筈がない。
更に彼は皆人に追い討ちをかける。
「最近出たアイドルのグラビア雑誌を二重底にした机の……」
「よし、君の夢を信じようじゃないか!」
話が完結する前に皆人はぶった切る。
それ以上語られる訳にはいかない。
「完全に予知夢だ。はい。この話はおしまい」
これ以上傷口を抉られる訳にはいかない。皆人にとってそれはもう十分な説得力があった。
「その雑誌、葵ちゃんのやつだろ?」
いつの間にか強はヘッドロックから抜け出していた。
「そ、そうだが……何で知ってる?」
「たまたま表紙見て皆人が好きそうだなって」
「ああ、そうだよ! 好みだったんだよぉぉおお!!」
少し前にテレビで見かけた駆け出しのアイドルである。本屋に寄った帰りに見つけ他の雑誌で誤魔化す様に購入したのだ。
物理的ダメージを与えた強より遥かに皆人とローズは致命傷を受けもはや瀕死だった。
「なぁ、俺は? 俺しか知らない情報は!?」
早々に撃沈された二人は当分立ち上がれそうにない。
それなのに強は嬉々として彼に詰め寄っていく。
恐れる心が無いのか、皆人は恐怖に駆られると同時にこの幼なじみの好奇心が少し羨ましかった。
幼いと言えばそれまでだが……。
「強君はそんなもの無くても僕の話を信じてくれる……でしょ?」
「……なるほどな、俺の事良く分かってんじゃねえか!」
神とやらのアドバイスは的確であった。
本当にこんなことは起こり得るのか、偶然だか、何かしらの力が働いたかは分からない。
だがこの状況を生み出した目の前の男を強は見過ごす事はできないだろう。
「俺が次言いたい事が分かるか?」
強の言葉に彼は笑う。
「僕はね……興味が無い事って全くと言っていいほど何もやる気が起きないんだ。それこそ追い詰められるまでね。夏休みの宿題ってさ、最後の方まで手付かずで休みの終わりに追われるように必死にやるでしょ?」
「いや、俺は初日に全部終わらせてあとは遊ぶぞ!」
「わたくしもですわ」
わざわざ揚げ足を取ることもないだろうに、お陰で彼は出鼻を挫かれ話が頓挫してしまった。
因みに皆人は毎日コツコツやるタイプである。
「と、とにかくあの夢を見たからだけじゃない、君等が面白いと思ったからさ……おっと、話が逸れたね。強君、君への解答はこうだ。七不思議【
少しばかりの静寂。
強への解答としては間違っては無いのだが重要な部分が何かおかしい。
「……何か間違えた?」
異質な雰囲気に堪えきれず桐人は心配そうな表情を浮かべていた。
綺麗な流れから一転、神とやらも詰めが甘かったらしい。
皆人が巻物を広げると、桐人は苦い顔をしていた。
「【眠る男】って……ださっ! えっ? ださっ!【眠れる獅子】じゃないの!?」
「……誰が言ったんだ?」
「神だよぉぉおおお!」
予知夢とやらも完璧じゃなかったようだ。
最後の最後で足を踏み外し転がり落ちるさまは何と言うか不憫過ぎて言葉もないが皆人とローズからしたら先程の辱しめを仕返したみたいで少し胸がすっとした。
「眠れる……ククク……【眠る男】惰性桐人、よろしくな」
「……よろしく」
罰が悪そうな顔で桐人は握手に応じた。
気分屋で気難しそうな彼だがそんなのこの面子からしてみれば些細な事だ。
【食堂の黒渦】
【放課後の哄笑】
【眠る男】
こうして三つの七不思議が暴かれた。
だが今日はまだ終わりには向かわない。
今日最後の七不思議の一つ【亀甲乙女】こいつの手強さを、今現在誰も知る由がなかった。
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