第3話:代償の影
案内人の示したビジョンが頭から離れないまま、彰人はベッドに横たわっていた。暗闇の中、天井を見つめながら、美幸の曇った表情や、別の男と歩く姿が何度も脳裏に浮かぶ。
「俺の選択が、間違ってたのか……?」
代償――案内人の言葉が重く響く。だが、それが何を意味するのか、彰人にはまだ分からなかった。
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翌朝、彰人は重たい足取りで会社へ向かった。仕事に集中しようとするが、思考は美幸との会話に引き戻されるばかりだ。ふとした瞬間、デスクの上に置いたスマホが振動した。
「今日、少し話せる?」
美幸からのメッセージだった。彰人はすぐに返信する気になれなかった。自分の選択が本当に正しかったのか確信が持てないまま、美幸と向き合うのが怖かったのだ。
そのとき、視界の端にまたしても「レール」が現れた。それは2本に分岐している。
一本目のレール:メッセージに「分かった」と返信し、彼女と話す未来。
二本目のレール:返信せずに、そのまま彼女を避け続ける未来。
彰人はレールを見つめながら、手にしたスマホをゆっくりと置いた。
「また選べってことかよ……」
レールを選ぶたび、何かを失うのではないか――そんな不安が頭をよぎる。
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その夜、彰人は再び案内人に会った。
「選ぶのが怖いか?」
「……ああ。俺が選ぶたびに何かが壊れていく気がするんだ。」
案内人は冷ややかな目で彰人を見つめた。
「怖れるな。お前が壊れるのは、その選択が"本心"から出たものではないからだ。」
「本心って……俺はちゃんと考えて選んでるつもりだ!」
「ならばなぜ迷う? 選ぶたびに後悔し、選択を疑うのはなぜだ?」
彰人は言葉に詰まった。確かに、彼は選択のたびに心の中で葛藤を抱えていた。案内人の言葉は彼の胸を抉るように響いた。
「代償は、迷いの中で選び取った結果だ。お前が迷う限り、代償は消えない。」
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翌日、彰人はついに美幸に返信を送った。
「分かった。話そう。」
その日の夕方、2人はカフェで向き合って座った。美幸は少し疲れた顔をしていたが、どこか決意を秘めたような瞳をしていた。
「この前の続きなんだけど……やっぱり私たち、少し距離を置いた方がいいのかもしれない。」
その言葉に、彰人の心は大きく揺れた。
「距離を……置く?」
「うん。お互い、いろんなことがうまくいってないよね。私も、自分のことで精一杯で、彰人のことをちゃんと支えられていない気がして……」
美幸の言葉を聞きながら、彰人の視界にはまたしても2本のレールが浮かんでいた。
一本目のレール:彼女の提案を受け入れる未来。
二本目のレール:反対し、関係を続けようとする未来。
彰人は迷った。そして、ふと案内人の言葉が蘇る。
「迷いの中で選んだ結果が代償を生む。」
「俺は……」
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どちらを選んでも代償は避けられないのかもしれない。それでも、彰人は心の中にわずかな覚悟を決めた。
「美幸……俺も少し考えたい。だから、距離を置くっていうのも……悪くないかもしれない。」
美幸は少し驚いた表情を浮かべたが、やがて微笑んだ。
「ありがとう。彰人がそう言ってくれて、少しホッとした。」
その瞬間、レールがまた一つ崩れ去った。
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帰り道、案内人が現れた。
「今度は迷いが少なかったな。」
「……それでも、これで良かったのか分からない。」
案内人は微笑んだが、どこか寂しげだった。
「選択に"正解"はない。ただ、お前がその選択を信じ続けることが、未来を作る。」
案内人はそう言い残し、再び消えた。彰人は静かな夜道を歩きながら、遠い未来に思いを馳せた。
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