最強故、孤独なの?
「な、なんで僕らの正体が──」
「知らねェけど、ぶちのめすのには充分だ」
濱家はそう言い、犬歯が見えるくらい邪気あふれる笑みを浮かべる。彼は続けた。
「よう、どうせひとりじゃないんだろ? 早く全戦力出せよ。じゃねェと──」
地面がえぐれ、砂ホコリが舞い散る中、
濱家の姿が消えた。僕の目では全く追えない。いや、追おうとすること自体が愚かしい。
そして、
濱家は、発砲してきた先輩の首を掴む。つかみ、地面に頭から彼をはたき落とした。
なにが起きたか分かっていないのは、僕も、おそらく先輩もいっしょだろう。
「遺言も残せないぞ?」
鈍い音とともに、濱家はレザージャケットについた土埃をはらう。
「……、化け物だ」
感想なんて、それしか出てこなかった。男から女になったことなんて、この濱家渚には全く関係ない話なのだろう。これが、この街の頂点に君臨する超能力者である。
「……ッ!!」
一本道になっている裏道に隠れていた先輩たちは、一斉に現れて拳銃を取り出す。しかし、それがまるで意味をなさないのは、先ほどの虐殺で立証済みのはずだ。
では、彼らの狙いとは?
「クソッ!! 動くな!! このガキの頭ァ吹き飛ばされたくないなら!!」
僕は呆然としていたこともあり、背後から敵が迫ってきていることに気がつけなかった。銃口を頭に向けられ、もはや手を上げるしかない。
「あァ……?」
しかし、それすらも織り込み済みと言わんばかりに、
濱家は近くに落ちていた石ころを拾い、僕の首を掴む先輩の頭にそれを投げた。
「ぐあッ!?」
「無抵抗な親友に手ェ出そうとは、良い度胸してるじゃねェか」
額と鼻から血を噴出し、その先輩が倒れ込む頃、濱家は〝かかってこいよ〟と言わんばかりに手を動かす。
「クソッ! 一気に行くぞッ!!」
「おう!!」
結果なんて、見る間でもない。濱家に放たれた銃弾はすべて〝反射〟され、彼らは無力化されたのだった。
「この手の馬鹿は、死ななきゃ治らねェ」
先ほどまで楽しそうだった濱家は、途端に落ち着き払い、
「行こうぜ、タイラー」
どこか寂しそうな目つきを見せた。
「な、なあ。濱家」
「なんだ?」
「僕、今までオマエのことを馬鹿だと思っていたけど……」
「ああ、おれは馬鹿だぜ」
「でも、違った。濱家は強すぎるが故に孤独なんだ」
「あァ?」
「この街最強のひとり、って称号だけ聴けば、そうなりたがる連中も多いと思う。コイツらだって、君に挑んであわよくば下剋上しようとしていたわけで」
「……だろーな」
「だけど、君はもう最強でいることに疲れている。だからきっと、事故を装って自分の性別を入れ替えたんでしょ? そうすれば、もう絡んでくる馬鹿がいなくなると信じて」
濱家渚は、その濁りのない三白眼で遠くを見据え、
「…………そうかもな」
そう絞り出すのが精一杯のようだった。
「だったら、僕がその傷を背負ってやる。だから、もうそんな寂しそうな顔するなよ。僕たちは親友だろ?」
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