ジェンダーレスってヤツ?

「親友、ねェ……」


 濱家渚は、目を細めた。その怪訝そうな表情の意味は分からない。

 それでも、僕は言う。自分の言葉で。


「僕は正直、オマエの強さを羨ましいと思っていた。敵の攻撃を〝反射〟して、どんなヤツもねじ伏せる圧倒的な強さを。でも、それが重荷だって言うなら、もうひとりで抱え込むなよ。僕にできることなんて知れているけど、それでもなにかしてみせる」


 夕陽が、少女と化した濱家の金髪を染める。なんとも美しい光景だ。


「ああ、そうかよ……」


 されど、濱家の表情は晴れない。

 なので、ここはギャグに走ってみる。僕は濱家に近づき、彼女からスマホを抜き取り、自撮りし合った。


「あ? なにしてンだよ?」

「せっかく可愛い女の子になったんだから、記念撮影しただけだよ」僕は自分の連絡先に写真を送る。「携帯は壊れちゃったけど、今はインターネットの時代。あとでアイコンにしておくよ」

「キモイな」

「なら、消しておく?」

「いや、おれたちは親友だろ? アイコンにしたって問題ねェさ」


 いつもの調子で嬉しそうに笑う濱家は、本当に少女のそれだった。

 僕はふと思う。

 不良の極みみたいなヤツなのに、案外似合うものだな、と。


「さて、コイツらどうするよ」

「僕に訊く? 濱家がやったんだから、自分でなんとかしなよ」

「面倒くせーな。コイツら、改造エアガンか本物か知らねェけど、銃持ってるし」


 濱家は首をかしげる。


「ま、しゃーなし。そもそもおれァなにもしてないし、していないことにだってできる」

「それがカテゴリー6だもんね」

「ああ。実力で治外法権だよ。知らんフリして帰るかぁ」

「そうだね」


 夕焼けが僕らを包む頃、ふたりは歩き出す。


「なあ、濱家」

「なんだよ」

「あしたから学校来いよ。自分で学校行くつもりだって言っていたし、そういうのは守らなきゃ駄目だよ」

「学級委員長か、おめェは」

「僕はただ、濱家に学校へ来てもらいたいだけだよ」

「それは良いけどよぉ、女子用の制服が必要じゃねーの?」

「あ、確かに」


 ブカブカの男子用の制服を着ている僕は、今このときをもって、新たな学生服が必要であることを知った。


「ま、あれだ。ジェンダーレスってヤツだよ。上はパーカーで、下はベルトをきつく締めたスラックスで良いでしょ」

「見た目が女でも、中身まで女になるなってことか」

「それこそ自由意志だと思うけどね。ほら、僕ら自分で言うのもなんだけど、美人じゃん」

「まぁな」

「んじゃ、あしたから学校来てね」

「この姿で?」

「良いじゃない。怖い不良の印象が溶けてさ」

「転校生かなにかだと勘違いされるんじゃねェの?」

「それは僕もいっしょだ。けど、この街には嫌味ったらしいほどに監視カメラがあるでしょ? 先生たちも今頃それ見て、頭かかえているはずだよ」

「だと良いけどな」


 濱家は渋々といった感じだが、僕の言うことに耳を傾けてくれているようだった。


「じゃ、あした会おう」

「ああ、愉快なタイラー」


 濱家と僕は別れ、それぞれの帰路につくのだった。

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