僕まで美少女に?

 濱家の身長は150センチ中盤くらいまで縮んでいた。闇落ちしたかのごとく金髪になり、これでは彼、いや彼女を濱家渚だと証明する手段がない。


「で、タイラーよ。おれァこれからどうすりゃ良い?」

「知らないよ。〝反転〟でこうなったなら、元に戻せば良いじゃない」

「それができりゃオマエに相談してないって。おれの超能力は未完成品も良いところなんだよ」

 濱家は腕を組んで考え込む。「そうだ。オマエも女子にならねェか?」

「はぁ?」

「ほら、赤信号みんなで渡れば怖くない、だろ? こう見えても心細いんだよ。タイラーくんに助けてほしいくらいには」

「いやいや、助けて欲しいのは百歩譲って分かるけど、なんで僕まで女の子にならなきゃいけないのさ」

「だって、オマエ前言ってたじゃん。オタクくんに優しいギャルになりたいー!! って」


 なぜこの男は妙に記憶力が良いのだろうか。確かにそんなことを言った覚えはあるが、それにしたって、このタイミングで思い出すこともないだろうに。


「冗談に決まっているだろうに」

「冗談でもなんでも良いさ。何度も言うけど、心細いんだよ。おれの能力はまだ完成してない以上、いつ男に戻れるか分かったモンじゃない。このまま一生女のまま過ごす羽目になるかもしれねェし。だからさ、頼むよ。タイラー。おれといっしょに女子になってくれ。オマエがなってくれるなら、おれもすこしばかり落ち着けそうだ」


 先ほどから力の抜けた口調と態度だが、同時に濱家は焦っている。それは、腕を組んだりポケットに手を突っ込んだりする不安定な動作からも明らかだ。

 だが、ここから先は片道切符かもしれない。仮に濱家の力で少女になったとして、その後男性に戻れるかは未知数だからだ。いつも自信有りげな濱家が断言しないあたり、余計にそう感じてしまう。

 それでも、


「……、戻れるように最善を尽くしてよ? 失うものも多いんだからさ」


 押しに弱いのが、僕という人間だ。濱家を恐れているとか、そういう話ではない。無駄なところでヒトが良い……というか、自我が弱い。


「さすが!!」


 濱家は手を叩き、僕を指差す。

 その頃には、僕の身体から湯気みたいな現象が現れていた。


 *


「まあ、百歩譲って女の子になったのは良いんだけど、親になんて説明しよう」

「全部おれの所為にしておけ。なに、息子が娘になって二倍お得だと思うはずさ。オマエの親は」


 黒髪セミロングヘア、身長160センチ弱、結構な美人さんになった僕は、夕焼けの街を濱家とともに歩いていた。


「濱家、良くウチ来ていたから、僕の親の性格分かっているのか」

「おれは捨て子だからな~。オマエみてーに両親がいる家庭が羨ましいよ」

「つか、鬼電来ている。ちょっと待って」


『宮崎美樹』


 僕は溜め息混じりに、女友だちへの電話に出る。


「もしもし」

『誰? もしかして、彼女さん?』

「いや、僕。勝又だよ」

『そんなわけないでしょ。私の知ってる勝又は声変わりしてるし』

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