〝反転〟と〝反射〟?
「はあ?」
僕は間の抜けた声を漏らす。なにを言っているのだろう、この不良は。
そんな僕の元に、次々とメッセージが送られてくる。
『なんか事故ってさ』
『おれは既存の物理法則を〝反射〟できるから』
『街路樹を吹き飛ばしたわけよ』
『そうしたら、反射失敗みたいでさ』
『画像見たべ? この姿になっちまった』
まさしく意味不明。僕はなにかの冗談だろうと、
『大変だね』
と適当な返事をする。
『大変じゃ済まねーよ! とりま、迎え来てくんね? アプリでおれの居場所分かるべ?』
時間はまだ昼休み。教員たちは昼飯でも食べていて、おそらく堂々と校門から出ていってもバレない。
「……、宮崎。先生からなんか聞かれたら、腹下して早退したって言っておいて」
「え、なんかあったの?」
「詳しい話はあとでする。だからアイツは放っておけないんだ」
僕はブレザーを羽織って、そそくさと下へ降りていく。
*
そこまで離れている場所ではないし、バイクが大破している様子もない。あるのは、金髪をなびかせながらベンチにもたれタバコをくわえる、不良少年だった少女だった。
「よー」
「……、なにがあったのさ」
「良く分からん。事故ったと思ったら、女になってた」ぶっきらぼうな態度である。「ま、推測するに反射の設定をミスったってところかね。普段は反射に設定してあるんだけど、おれの本質は〝反転〟だ。殴られたらその痛みを相手にくれてやる的な。それが性別にも適応されたのかもな」
濱家の声は高かった。顔立ちは整っていて、小顔だ。元から顔立ちは良いヤツだったが、それをうまく女子のそれに落とし込んでいる気がする。
「で、これからどうするよ」
「僕に訊く? それ」
「しゃーねェだろ。性別を反転させた所為で、こっちも混乱しているのだよ。タイラーくん」
「取り乱しているようには見えないけどね」
「心の中では泣き叫んでるわ。タイラー、助けて……!! ってさ」濱家は芝居がかった調子で言った。「それに、あしたからどんな面して学校行けば良いんだよ」
「学校なんて、滅多に来ないくせに」
「事故って少し目が覚めたんだよ。不良なんてやるモンじゃねェなぁって」
「ああ、そう……」
「軽蔑の目つきで見るなよ~。おれは本気で言ってるんだぞ?」
タバコを地面に押し付け、携帯灰皿にしまうと、濱家は立ち上がる。
そうすると、
彼が履いていたデニムがズルリと落ちていった。
「あ、いけね」
僕は思わず、目をそらして隠す。男用のパンツを履いているだろうが、それでも同年代の女子の生足なんて見たら、反応するところが反応してしまう。
「なに目ェそらしてるんだよ、タイラー~。まさか照れてるのか~?」
「逆に君は照れないの……?」
「それは神こそ知る話だな。さて、ベルト貸してくんね?」
「う、うん」
僕はベルトを抜き、濱家にわたす。
「ありがとう。あー、随分細身になっちまったぜ。身長も縮んじまったし。これじゃオマエより背丈低いんじゃねェの?」
「そうだね。僕もそんなに高いほうじゃないけど」
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