能力者の街より-拝啓、皆様。元男同士でもラブコメは可能でしょうか?-

東山統星

プロローグ 始まりの終わり

不良くんが美少女に?

 濱家はまいけなぎさという不良少年がいる。15歳なのにタバコを吸い、万引きや食い逃げは当たり前。学校の周りをどこから盗んだのか分からないバイクで走り回っていたときは、さしもの僕も戦慄した。しかも飲酒していたようで、学校の上階で思い切り引いている僕のほうを見て叫んできやがった。


「よう! タイラー!! おめェも来いよ!!」


 酔いどれ声で、タイラーというあだ名の勝又かつまた太良たいらこと僕の名前を叫んできた。これでは共犯者だと思われてしまうので、とりあえず無視することにした。


「タイラー! 無視すンなって!! 寂しいぞ!」


 ゲラゲラ笑いながら、濱家はどこかへ走り去ってしまった。

 ちなみに、僕は不良でもなんでもない。どちらかといえば、オタク系だ。

 それにも関わらず、濱家はやたらと僕と関わりたがる。不良仲間だっているはすなのに。登校してきたと思ったら、必ず僕になにかを報告してくる。あの野郎を詰めたとか、あのコンビニは万引きしやすいとか。もう推薦で高校が決まっている僕からすれば、勘弁してほしいものだ。


 濱家は滅多に登校しない。高校はどうするつもりなのか? と訊いてみたら、中卒で適当に働くつもりとか抜かしていた。あっさり高校をやめて中卒になる先輩は少なからずいるが、最初から高校へ行くつもりがない者はいないに等しいので、先生たちも頭を悩ませているだろう。


「勝又、もうあんなヤツと関わるの、やめなよ」


 濱家の破天荒ぶりに頭を悩ませていると、同級生の女子に話しかけられた。宮崎みやざき美樹みきという子だ。黒髪のショートヘアにカチューシャ。身長は160センチに満たないくらい。顔立ちは普通。そんな子だ。


「……、放っておけないんだよ。僕がアイツを無視したら、そのままヤクザにでもなりそうだし」

「勝手にならせておけば良いじゃん。反社の卵だよ、あの馬鹿は」

「でも、僕がこの街に越してきたとき、真っ先に声をかけてくれたのがアイツだからさ」

「馬鹿故によそ者とか気にしないんだろーね」

「そうかもね。街が財政破綻を起こして、人間への超能力開発とか意味不明なことしているのには、さすがにびっくりしたよ」僕は机に座る。「濱家はああ見えてかなりの超能力者だしさ。カテゴリー、だっけ? 能力の強弱の序列づけ。1から6まであるけど、カテゴリー6に指定されている中学生って、アイツしかいないんだって」


 僕は、奇妙な街の学校に転校してしまった。

 10年ほど前、財政破綻を起こしたこの街は、起死回生の手段として、ある企業と手を組んで街に暮らす全市民へ超能力開発を始めたのだ。僕もその全容を詳しく知っているわけではないし、なんなら転校してきて初めて知った。徹底的な秘匿主義の元、この街ではきょうも能力者が溢れかえっている。


「でも、意外と面白い街だとも思う」

「そうかな? 最低な街だと思うけど」

「宮崎は最初からこの街で過ごしているから、そう思うんじゃない? 僕からしたら新鮮だよ。炎だったり電流だったりを操る学生たちは。漫画みたいでさ」


 そんな会話の最中、濱家からメッセージが来た。なぜかセルフィーが載せられていた。


『やべえ。美少女になっちまった』

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