第5話 デビュー配信(別視点)


○南雲視点


さて、ウチの新人のデビュー配信まで後3分。


すでに待機画面が映し出されている状態となっている。


時間も21時と普段であれば配信を行っている時間帯ではあるが、この業界では同じ箱のデビュー配信や記念配信は基本配信を被せないようにしましょうというのが暗黙の了解になっているので、アタシも例に漏れず配信を行わずデビュー配信を見ることにした。


他所の箱では女性だけの箱があったりするのだが、ウチの箱は特にアイドル売りをしているわけではないので女性も男性を在籍している。


コメント欄にはすでにいくつものコメントが流れており、やはり半年経っていないのに新人がデビューすることについて多くコメントされているようだ。


【楽しみ!】

【前の新人がデビューしてまだ2ヶ月なのに追加でデビューっていうのはどういう意図があるんだろうね?】

【最近伸びの凄い『ぶいちゅあ』に負けじと数を投入する作戦だろうか?】

【事前のシルエットを見る限り天使モチーフかな?】

【面白い人が増えるならなんでもええのよ。】


男性ライバーがデビューするとなった場合お気持ちコメントをする人が何人か出てくるものだが、あまりそういったコメントはなさそうだ。


さて、新人はコメントの期待に応えてくれるような子だろうか?


アタシのデビュー配信の時は初っぱなからミュートで自己紹介をしてしまい、テンパった挙げ句マイクに頭をぶつけるということをやってしまったことで吹っ切れて素の口調でデビューするということになってしまった。


まあ、今となってはそれもいい思い出だろう。


さて、そんな回想を行っているうちにデビュー配信が始まるようだ。


お?始めはオリジナルソングからか?

最近は歌ってみたをメインに売り出そうとしているライバーの場合は、始めからオリジナルソングの動画を流すことがあるらしいのでウチの箱でもそういう売りをする子なんだろう。


ただ、これは動画ではなく生歌のような気がする。新人がデビュー配信で歌うなんて緊張してヤバい思うが、全然そんなことを感じさせない歌声だ。


アタシは楽器とかに詳しいわけではないが、曲のメインであるギターも凄いテクニックのように感じられる。


そんなことを考えながら配信を見ていると曲が終わり、後輩の姿が画面に表示される。


なるほど、高身長金髪天使ですか。いや~いい趣味をしている。顔もバカイケメンだ。


服は燕尾服だろうか?こんな執事を召し抱えられるような人生がよかった。


まだ声を乗せておらず、見た目が公開されただけだがコメント欄は既に大盛り上がりだ。


【このイケメンがさっきの曲を歌ってたと思うとアツすぎる!】

【クッソイケメンやんけ!】

【すこ】

【あんな歌唄えるなら歌手デビューもいけるやろ!】


「どうも初めまして。僕の名前は『セラヴィス·アークバルト』。見ての通り天使をやらせてもらっている。仕事は執事をしているが、君たちは主人ではなく所謂同僚のような立ち位置だと思ってもらえると嬉しい。その為、君たちに話し掛けるときはタメ口になると思うがそういうものと受け入れて欲しい。」


バカみたいなイケメンがバカみたいなイケボでそんなことを言ってのけた。


これ、デビュー配信か?落ち着きすぎてないか?


【声クッソかっこええやん。】

【イエス!マム!】

【同僚ね~。そういうのもいいんじゃない?】

【イケメンにお嬢様と呼ばれたい人生だった。】


「ついでに言うと、先程流した曲だが作詞作曲は全て僕が行い、ギター·ベース·ドラム·キーボード·ボーカルの全てを僕一人で行っている。流石にボーカル部分以外は事前に録音したものだけどね。もしかしたらwhotubeで見たことがあるかもしれないけれど『全部俺』というやつだよ。」


なん...だと...


凄い後輩がデビューしたものだ。

それぞれのどれか一つでも出来れば十分特技だと言えるだろうに、それを全部やってのけるとは...


【ワケわからんこと言うな】

【マ?クッソ天才やんけ!】

【ほへ~。なんかわからんが凄いことはわかった】

【俺の考えた最強のイケメンって感じ】


「さて、僕については曲·歌が出来ること、名前や天使であることは伝えたと思うからこれから君たちリスナーの名前と呼び方とかを決めようか。」


【犬とお呼びください!】


「犬願望の人もいるようだけど僕は人を犬と呼んで喜ぶような趣味はないよ。」


既に危ないリスナーを囲いそうな気配がしているが大丈夫だろうか?


【今のまま『君たち』って呼ばれるのすこ】

【天使の同僚ってことは俺らも天使なのでは?】

【リスナーの天使...『リスエル』というのはどうだろう?】


「よし。君たちはこれから『リスエル』だ。基本的には今まで通り『君たち』と呼ぶが外で僕のリスナーを名乗るときは『リスエル』で頼むよ。」


『リスエル』か...

ちょっとダサいような気もする。


「まだ時間もあるし何か質問したいこととかあるかい?答えられる内容であれば出来るだけ答えるよ?」


【前回の新人デビューから2ヶ月しか経ってないのに今デビューしたのはなんで?】


「実は僕は先輩らと違ってオーディションを受けたわけではないんだ。元々『メモプロ』の社長とは知り合いで、前々からデビューしてみないかと言われていて、元々やっていた執事の仕事が落ち着いたからデビューできないか社長に聞いてみた感じだね。」


【え?リアルでも執事の仕事してる感じ?】

【へ~。灯里ちゃんのリアルの知り合いなんだ。】


「僕の場合は同期がいるわけじゃないんだけど、せっかく同じ箱に多くの先輩がいるわけだし。色々コラボもしてみたいね。」


【兎耳山:それって私ともコラボしてくれるってこと?】

【灯里ちゃん!?】

【社長も見てます】


「兎耳山さんかい?もちろんコラボしようじゃないか。ただ、コラボするとなっても兎耳山さんお得意のおしガマ企画はやらないよ?」


【兎耳山:もうおしガマなんてやってないよ!?ってかおしガマ企画見られてたとか最悪なんだけど!】

【草】

【嫌事件だったね...】


アタシも社長のおしガマ企画のことは知っている。おしっこを我慢してバトルをして勝てるまで我慢し続けるという地獄のような企画だ。


今のwhotubeだとbanされかねない。


「さて、君たちと会話していると既にいい時間になってしまっているね。名残惜しいけど今日の配信はこれくらいにしておこうか。

『僕自身が楽しく、君たちも楽しく』をモットーに活動していく予定なのでこれからよろしく頼むよ。」


そう言ってセラヴィスは配信を閉じた。



「これがアタシの初めての後輩ってマジか...全く後輩感なかったんだが...」

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