第3話 事前確認
あの電話を掛けてから、退職に向け引き継ぎ資料の作成や客先への挨拶廻り等退職の為にやらないといけないことは全て終え、現在は残った有給の消化中である。
今はデビューに向けた事前確認ということで、東條さんのいるメモプロ本社の打合せスペースにいる。
「さて、正式に契約もしてもらったし、デビューまであと1ヶ月になったわけだけど、あなたのVtuberとしての姿や注意してほしいこととかを説明させてもらうわね。」
そう言って東條さんは手持ちのタブレットをフリックする。
「西園寺君のVtuberとしての名前は『セラヴィス·アークバルト』、この天使の羽を持った燕尾服を来たイケメンね。」
そう言って見せられた画像には金髪で身長は僕と同じ182cm、身体は細目だが細過ぎず天使の羽が背中から生えており、見た目は執事のような男性が写っていた。
「名前の由来はあるのかい?」
「もちろん!『Serve(仕える)』と『Seraphim(熾天使)』を掛けたセラヴィスと『Arcadia(理想郷)』と『Butler(執事)』を掛けたアークバルトよ。名前はセラヴィスで、名前にもファミリーネームにも天使と執事の要素を入れたの!」
東條さんは早口でそう言った。
「良いじゃないか。名前も見た目も気に入ったよ。」
「そりゃ、気に入ってもらわないと困るわよ。」
東條さんは笑いながら言った。
「そういや、Vtuberの場合は産み出してくれた人のことをママって呼ぶ文化があると聞いているのだけれど、僕のママは誰なんだい?」
「そうね。ママって呼ぶのはVtuber特有の文化な気がするわね。ママはあの『白執事』で有名な『棺ゆうな』先生よ。」
「やっぱりそうなんだね。お礼を言いたいのだけれど、どこかで会話する機会はあるのかな?」
「大丈夫よ。デビュー配信前には会話する場を設ける予定だから、その時にお礼を言ってちょうだい。」
「わかったよ。ありがとね。」
有名な漫画家さんに描いていただけるなんて嬉しいね。お礼だけでなく、これからの活動で恩返ししていかないと。
「次にお願い事項として、SNSに専用のアカウントを作成するから、デビュー配信の一週間前から少しずつ自己紹介とかしていって欲しいのよ。」
「わかったよ。Vtuber文化についてもある程度は勉強したつもりだから大丈夫さ。」
「あと気を付けて欲しいのは身バレやコンプライアンスね。そこら辺は西園寺君については問題ないと思うけど注意してね。」
「任せておいてくれて構わないよ。」
始めに聞いていた説明が終わって後は何をするのかと思って待っていると、東條さんは少し顔を曇らせながら言う。
「ごめんね。はっきり言ってウチの会社は『Multi Color』や『ユニライブ』ほど大手ではないし、『ぶいちゅあ』ほど勢いがあるわけじゃないの。でも、ウチの事務所に所属してもらってよかったって思ってもらえるよう頑張るから!」
東條さんは必死にそう伝えてくる。もしかしたら過去に事務所の優劣や大きさによる問題があったのかもしれない。
でも、僕にとってそんなことは全然関係ない。
「東條さんや事務所にとって過去にどんなことがあったのかは僕にはわからない。でも、東條さんに連絡したのは僕だ。僕の方から東條さんの大切な事務所に対して文句なんてないよ」
「ありがとう。そう言ってもらえると安心するわ。」
次は僕の方から確認する番だ。
「これからデビュー配信を行うわけだけど、デビュー配信ってどれくらいのものをやるもんなのかな?」
「基本的には御披露目がメインだから、まずは自分の姿を見せる。公式の設定内容や趣味等を説明する。後はコメントからの質問事項等を受け付ける感じかな。歌メインの人の場合は歌ってみたの動画とかを始めに流すようなこともあるけど、今は動画を作っているような余裕は無いしそれは難しいかな。」
「なるほど...歌とか音楽って動画である必要はあるかい?」
「いや、歌配信とかもあるからちゃんと許諾さえ取っていれば動画である必要はないわ。何かするつもりなの?」
「まあね。まだ構想を練っているところだけど今の話を聞いてちょっとやりたいことができてね。」
「わかったわ。でも事前に何をやるのかは教えてね。」
「決まり次第連絡するよ。」
さて、僕の方でもデビュー配信に向けて準備を進めますか。
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