第5話 宇宙でバレエを踊るためのレッスン生になった。辞めていく人を見送り。私は一人、月に立つ。

宇宙体験後、お母さんとお父さんを説得した私は、宇宙バレエに誘われてレッスンに参加した他の人達と会い、同じ目標を掲げてレッスンを重ねた。


レッスン生は、一人、二人、と去っていった。

「発表の機会がないと、時間だけが無為に過ぎていくようで辛い。」

「つぶしが効かないものにこれ以上時間はかけられない。」

「地球のバレエと見比べてしまい、自分のバレエを人目にさらすのが怖い。」

頑張って、応援している、今までありがとうと頭を下げて去っていく人達を見送って。


私が最後の一人になる日がきた。

辞める理由を正直に話してくれたことについて、私以外では最後まで残ったけど辞めていく人に聞いてみた。

「皆、あなただけは、やり遂げると思っていた。」

その人が微笑むから、私も笑顔になった。

「私の場合は、私の成長を私自身がもう待てない。

体が思うように動く間は踊っていたいと考えたら、宇宙は遠い。」

「辞める決断を尊重して、いってらっしゃいと言うね。」

「あなたの公演が地球で観られる日が来てもこなくても、私はあなたが宇宙で踊る挑戦を応援する。」

その人を見送り、私は一人になった。


月面で踊るから、踊りだしのポジションについた状態からスタート。

重力を計算した振り付けだから、地球で踊るバレエと私が今から踊るバレエは、きっと同じバレエに見えない。

私が踊るバレエを観たい人、宇宙でバレエを見せたい人、バレリーナとして踊る姿を観てほしい私。

三つ揃ったから、私が月面でバレエを踊る日がきた。


私の初公演が始まろうとしている。

月面に立つ私にだけ聞こえる音楽。

着ているものは、チュチュではなく、宇宙服。

頭からつま先まで、すっぽりと覆われた宇宙服。

宇宙服で踊るバレエで魅せるバレリーナが、私。

バレエを習いたての頃の気持ちで、つま先から指先まで意識する。


私のマネージャーが板についたシルクハット星人は、やってくれると思っていましたと私を激励してくれる。

「初公演は必ず成功させましょう。」


お父さんとお母さんは、私が地球を発つ前に会いに来てくれた。

「うちの娘が宇宙でバレエに挑戦するなら、宇宙でバレエが出来なくなっても、食いっぱぐれがないように、人として尊厳を守り続けられるようにしてください、とシルクハット星人に要求して、シルクハット星から念書をもらうことに成功した。

安心して初公演を楽しんできなさい。」


地球人のお父さんとお母さんは、私が宇宙でバレエを披露しても観覧する機会がない。

お父さんとお母さんには、私から働きかけないと、私がしていることが見えなかったんだ。

見えないからこそ、見えないところで、娘が苦労しないように、念書をとったりしてくれていたんだ。


お父さんお母さん、応援ありがとう。


私が踊りに使う場所だけをあけて、月面には観覧席が設えられた。

初めて宇宙で見るバレエにわくわくと期待を膨らませた宇宙人で満席の観覧席。

公演前には、観覧席に座る宇宙人からエールを送られている。

「宇宙にバレリーナを呼んでバレエを踊ってもらうのを見る前は、地球のバレエを覗き見するしかなかった。

目の前でバレリーナがバレエを踊るところを見られるのが嬉しい。」

私の公演を楽しみにしてくれる人の前で踊るバレエが、この人達のバレエになる。


地球のバレエじゃない私のバレエを見て、覚えて帰ってもらおう。

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