第3話 宇宙でバレエ? 宇宙人が勧誘してきます。宇宙人だから中に人は入っていないようです。
お母さんは、私がどんなに感情を出しても、私の感情に寄り添ってくれない。
「なりたいものになれる世の中ではないのよ。なりたいものになったからといって、幸せだとも限らないわ。
生活に困らないような仕事をしながら、趣味を楽しみなさい。」
お母さんは、話を終わらせようとしている。
ここで話を終わらせたら、私はバレリーナになる未来を諦める以外なくなる。
発表会には出られなかった。
でも、バレリーナになることは諦めたくない。
どう説得しよう?
そのとき。
「お話中すみません。地球でバレリーナになりたいのになれないというお悩みを解決してさしあげられますよ。」
見学席に、見たこともない一メートルくらいの高さの大きなシルクハットがあった。
「中に人がいて、喋っているの?」
「中に人なんかいませんよ。ゆるキャラを侮辱しましたね、謝ってください。」
「謝らないけど。シルクハットはゆるキャラじゃないでしょ?」
「シルクハットでは、仕事できるオーラが隠せませんねー。」
シルクハットが、うそぶいている。
「どこから来たの? さっきまでなかったのに。」
「宇宙から来ました。」
シルクハットは、自信満々。
「消防署の方から来ました、と言って、何かを売りつける詐欺があったわね。ここは、関係者以外立ち入り禁止。」
お母さんは、出ていくようにと出口を指し示した。
「シルクハットの言うことを素直に受け取れないと、頭でっかちになりますよー。」
とシルクハット。
「頭でっかち勝負なら、私の座高よりも高さのあるシルクハットの圧勝でしょうよ。」
お母さんは、強い。
ぐぬぬするシルクハット。
「地球がだめなら宇宙で、というのはどういう意味?」
「お嬢様は地球ではなく、宇宙でバレリーナになるのが向いています。」
「宇宙ってどこのこと? 月面で踊るの?」
面白いかも。
「地球から月に行くには、宇宙飛行士並みの訓練と、宇宙に行くためのお金がかかるわよ。
宇宙で踊ろうにも、地球人は宇宙服を着ないと、宇宙で呼吸できないわ。」
お母さんは、冷静に返している。
「お母様、月の重力は地球の六分の一です。」
「うちの娘に、月の重力が関係あると?」
「お嬢様のバレエは、月で踊ったら見栄えがしますよ。」
私は、目を見開いていた。
「宇宙で、宇宙服を着て踊ったところで、それはバレエと言える?」
お母さんは、シルクハットに否定的。
でも、私は気になる。私のバレエは下手じゃないということ?
「宇宙でバレエを踊るのは、楽しい?」
「宇宙は広いですからね。楽しい気持ちを爆散させながら踊る姿を芸術に昇華させましょう?」
「レッスン詐欺だったのね?」
手でしっしっとシルクハットを追い払おうとするお母さん。
「詐欺じゃないですよー。」
シルクハットは、ご説明しますねー、とシルクハットの中からパンフレットを出してきた。
「シルクハットの中の人が見えなかった。」
「失礼な。シルクハットに中の人なんていません。」
シルクハットからズイッと吐き出されるパンフレット。
お母さんは受け取らない。
「パンフレットを見たくらいで宇宙にワープしませんよー。」
「今宇宙に行ったら、私達は死ぬわよ。」
「だから、パンフレットはただの紙ですって。紙を持ったくらいじゃ宇宙へ行きません。」
『宇宙芸術振興委員会』と印刷された名刺がホッチキスどめされたパンフレット。
私がパンフレットを受け取ろうとすると。
「知らない人からものをもらってはいけません。」
と、お母さんは私の手をはたき落とした。
「じゃあ、口頭で説明しますよー。」
「説明は不要です。」
「お母さん、私は聞きたい。」
「知らない人に話しかけられても、無視です。」
「お母さん、中の人はいない、とシルクハットが自分で話していた。
喋っているのは、ただのシルクハット!」
「シルクハットは、喋りません。」
「いえいえ、私は、シルクハット星人。シルクハット星から来ておりますので、お喋りするシルクハットです。」
「シルクハット星なんてあったの?」
「私達は、自分達をシルクハット星人とは言い表しません。
ただ、シルクハット星から来たシルクハット星人と紹介する方が、地球では理解を得やすいので、地球ではシルクハット星人と名乗っています。」
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