第13話 二の丸広場

 ということで、俺と藤崎、それに綾乃と鳴海華蓮の四人で二の丸広場に行くことになった。


「消えた女子校生? UFOの痕跡? なにそれ、面白そう!」


 意外にも食いついたのは綾乃だ。鳴海華蓮は苦い顔をしていたが、結局一緒に行くことになった。


 二の丸広場は熊本城にある芝生の広場だ。休日には大規模なイベントが行われたりすることもあるが、基本的には広い芝生広場。平日夕方だと人も少ない。確かにこれだけ広い場所があればUFOも降りられるな。


「記事によると、広場の端、熊本城とは逆側の方で女子高生が消えた、とされているな」


 俺たちは端の方に行く。藤崎は芝生にUFOの痕跡が無いかを調べだした。それに綾乃もついていく。俺は小さな声で鳴海華蓮に聞いた。


「……このあたりで乗ってるのか?」


「まあ、そうね」


「見られないように注意しろよ」


「してるはずなんだけどね。はぁ……面倒だけど対処するか」


「どうするんだ?」


「トイレで透明化素材をかぶってきてから乗るようにする」


「一般人脅かすなよ」


「わかってるわよ」


 鳴海華蓮は拗ねたように言った。


「それにしても透明化素材か……」


 そんなものがあるんだな。


「地球で言う有機ELみたいなやつとカメラを組み合わせただけの単純なやつよ。見る?」


「見れるのか?」


「ハンカチサイズならあるから」


 そうやって手を鞄に入れ、なにやら取り出した。と思ったが手が無い。いや、見えないだけか。


「お、お前……すぐしまえ」


「ふふ、面白いでしょ」


 さすがに技術はすごいものがあるな。


「あー、あった! あった!」


 突然、藤崎が大声を出した。俺たちはそこに行ってみる。すると、そこには芝生が逆立っている部分が長い線のように続いていた。


「これだな。UFOの噴射跡だ」


「これが?」

「何か小さいな」


 綾乃と俺が言う。


「いや、これだって。UFOの技術からしたらこれぐらいの跡しかつかないんだよ」


「雑誌で見たUFOの痕跡写真だともっと焦げたりしてなかったか?」


「いやいや、最近のUFOは優秀だからな」


 最近のUFOって……UFOも技術の発展でそういう進化を遂げるんだろうか。

 そう思い、思わず鳴海華蓮を見てしまう。鳴海華蓮は苦虫をかみつぶした表情だ。


「……鳴海さん、これはUFOの痕跡だと思う?」


 答えるわけは無いと知りながらも俺はつい聞いてしまった。


「そんなわけないでしょ」


「え? どうして鳴海氏はそう思うんだ?」


 藤崎が聞いた。


「あのね、UFOって地球外のすごい技術のはずでしょ。それなのに噴射とか原始的な技術で飛ぶと思う?」


「じゃあ、どうやって……ああ、反重力か」


 藤崎が言う。UFO研究家の間では重力を制御できる反重力のような技術が使われているというのが定説だ。


「もちろん、そんな感じのものでしょうね。だとしたら、噴射跡なんてあるわけ無いわ。そんな原始的な技術使うわけ無い」


 そういうことか。自分たちのUFOがそんな技術を使っていると思われるのが嫌だったんだ。変なプライドがあるな。


「なるほど……だったら痕跡なんて残るのか?」


「残らないでしょうね」


「……確かに鳴海氏の言うとおりだ」


 藤崎は納得してしまった。


「え-! 今日ここに来た意味は?」


 綾乃が言う。


「意味なかったな。アハハ」


 藤崎が笑ってごまかした。


「だったら、せっかくだし城彩苑で美味しいもの食べて帰ろうよ!」


「そうだな」


 綾乃の提案で俺たちは城彩苑の方に歩き出した。その途中、俺は鳴海華蓮に小声で聞いてみる。


「あれは本当に違ったのか?」


「……あれは本物。痕跡よ」


「マジか……」


「うん。普通は地面から浮いてるんだけど、ちょっと着いちゃったときがあって、その時の跡ね」


「そうなのか」


「うん。だからごまかすしか無かった。でも、噴射なんて使ってないのは本当よ」


「だよな。焦げた跡とかは偽物か」


「もちろん」


 やはりそうか。しかし、貴重なものだったな。


◇◇◇


 俺たちは城彩苑のカフェに入った。そこで綾乃がパフェ、俺と藤崎はアイスを頼む。そんな中で鳴海華蓮は頼んだのは「ぜんざい」だ。


「ぜんざいなんて渋いねえ、華蓮は」


 綾乃が言う。


「そう? せっかく日本に居るんだし、日本の味を味あわないと」


「確かにそうだけど。ぜんざいとかいつでも食べられるからなあ」


「それがぜいたくってやつよ。自然に手に入るものはあって当然、と感じちゃうけど、そうでない者にとってはうらやましいのよ」


「そうかあ、そうかもね」


「私にはこういう高校生活も貴重だわ。あなたたちには普通だろうけど」


 そう鳴海華蓮は言った。


「まあ、そうだね。私もこうやって幼馴染みの航介と一緒に帰るって、以前は普通だったけど、一時期出来なかったら。すごくわかるよ。今が貴重だって」


 綾乃が言う。


「そ、そう……」


「うん。なんかお互いに避けちゃって疎遠になってたよね」


「そうだな」


「今はそれを取り戻したいよ」


 綾乃がそんなことを考えているなんて思わなかったな。


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