第11話 屋上

 火曜日。昨日、俺は鳴海華蓮が屋上で誰かと電話していたのを聞いてしまっていた。だから、今日も早く来て、また鳴海華蓮が屋上で電話していないか、確かめたいと思った。


 というわけで朝早く来て、屋上のドアを開けずに気配を伺う。だが、今日は何も話し声は聞こえない。誰も居ないのか、そう思い扉を開けた。すると、そこには澄み渡る青空と熊本の街並みが広がる。そしてそれを眺める鳴海華蓮が居た。


「あ……」


 その声に気がついて鳴海華蓮が振り返った。


「あら? 星野君、どうしてここに?」


 鳴海華蓮が俺を見る。


「い、いや……少し早く来すぎたから」


「そうなんだ……ちょうどよかったわ。聞きたいこともあったし」


 まずい、記憶の確認ってやつか。なんとか、シラを切らないと。


「な、なんだよ……」


「そんなに緊張しないでよ。まず、確認だけどあの日のこと覚えてるよね?」


 いきなり核心を突いてきた。


「え? ナンノコトカナ?」


「とぼけなくてもいいわよ。あなた、私の正体知ってるでしょ」


「正体? 知らないなあ」


「そんなこと言うならまた『船』に行く?」


 その言葉に俺は固まってしまう。


「アハハ、いいのいいの、知ってても。誰にも話してないんでしょ?」


「は、話してない!」


「だったらいいわ」


 別に良かったのか。なんだ、今まで必死に隠していたのは何だったんだよ。


「じゃあ、もう一つ教えて。私のことどう思う?」


「え?」


 これはどう答えればいいんだ……


「綾乃とは付き合う気は無いんでしょ? 私とはどうなの?」


「はあ?」


 まさかそういう感じのことか。確かに美人だけど、俺が宇宙人とのハーフの鳴海華蓮と付き合う、なんて考えたことも無かった。


「ふふ、その顔で答えはもう出てるわね」


「うん……悪いけど、俺は付き合うつもりとかは無いよ。考えたことも無かった」


「うんうん、分かるよ。大丈夫だから。気にしないで。じゃあね」


 鳴海華蓮は屋上を出て行った。これはいったいどういうことだったんだ……


◇◇◇


 放課後、今日も綾乃と鳴海華蓮が席に来た。


「じゃあ、一緒に帰ろうか」


「そうだな。今日はカラオケ行こう」


「いいね! 行こう!」


 藤崎が率先して立ち上がる。綾乃と藤崎が先に行くものだから、俺と鳴海華蓮が後ろから追いかける形になった。


 俺は朝のこともあり、鳴海華蓮と何も話すことが出来ない。逆に鳴海華蓮が話しかけてきた。


「星野君、朝のこと気にしてる?」


「ああ、少しな……」


「そっか。まあいいけどね。やっぱりそっか」


 鳴海華蓮はうつむき加減になり、唇をかみしめるような表情を浮かべた。いつもの堂々とした様子とは違う、悲しげな表情を見て俺は思った。なぜ、俺は鳴海華蓮と付き合うつもりが無いと答えたか。その理由は宇宙人とのハーフだからだ。俺は記憶を消されていないからそれを覚えている。そして、鳴海華蓮もそれを知っているのだ。


 だから、鳴海華蓮は寂しそうにしたんだろう。もしその正体を知らずに鳴海華蓮から付き合う気があるか、なんて言われたらどうだろう。俺は舞い上がって「当然ある」と答えていただろうな。


 だが、鳴海華蓮の正体を知ってしまった俺は壁がある態度を取っている。もし逆に俺がそういう態度を取られたらどう思うだろうか。すごくつらいだろうな……


「鳴海さん、ごめん。俺の方こそ、気にしないでって言わないといけなかった」


「星野君……」


「今日はカラオケ、楽しもうよ」


「うん……」


 鳴海華蓮は少し明るい笑顔になった。


◇◇◇


「♪私は宇宙の塵となる~~」


 よく分からない歌を藤崎が歌っている。カラオケボックスでは綾乃、俺、鳴海華蓮、藤崎の順で座った。


 俺と綾乃、藤崎は曲を入れたが鳴海華蓮は曲を入れていない。


「華蓮も入れて!」


「うん……」


 だが、鳴海華蓮はなかなか曲を入れようとしなかった。

 俺は鳴海華蓮に小声で聞いてみる。


「もしかして歌を知らないのか?」


「あんまりね」


 やはり宇宙人とのハーフだから地球文化に詳しくないのか。

 そう思ったとき、鳴海華蓮が俺をきつい目で見返してきた。


「な、なんだよ……」


「何か失礼なこと考えてそうだったから。言ったでしょ、私、地球生まれ、地球育ちよ」


「そう言えばそうだったな」


 じゃあなんで歌を知らないんだ……


「えっと、洋楽でもいい?」


「もちろん!」


 なんだ、洋楽しか知らないってことか。そういえばアメリカから転校してきたと言ってたんだった。

 鳴海華蓮が歌い出した曲は知らないが歌手は知っていた。有名な歌手だ。鳴海華蓮はすごく歌が上手かった。英語の発音も完璧だ。


「うわー、すごい!」

「すげー!」


 綾乃と藤崎が拍手する。


「さすが、アメリカの高校に行ってただけあるねえ」


「そりゃあね。アメリカ育ちだし」


 地球育ちとは言ったが、日本育ちとは言ってなかったな。


 それからの鳴海華蓮は洋楽を楽しそうに歌っていた。


 カラオケが終わり、帰り際に藤崎が言った。


「あの……みんなに頼みがあるんだけど」


「え、何?」


「せっかく仲良くなったからさ。連絡先交換しないか。ついでにグループも作りたい」


「いいね! 交換しようか。華蓮もいいよね!」


「問題ないわよ」


 そういえば連絡先交換してなかったな。俺が知らないのは鳴海華蓮のだけだけど。

 俺たちは連絡先を交換した。


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