第9話 UFO観測会

「UFO観測会?」


 その日の朝、藤崎が俺に言ってきた。またオカルトの虫が騒ぎ出したようだ。


「金峰山に行くのか?」


「いや、あそこはダメだ。空振りだったし、また行ってもしょうが無いだろう」


「そうだよな。だったらどこだよ」


江津湖えづこだ」


 学校からは少し距離がある湖だ。


「江津湖? なにかUFOの目撃報告があるのか?」


「夕方辺りに光るものを見たというのが最近あるようなんだ。だから明日、行く」


「明日かよ」


「そうだ。ただ、今回は夜になったら切り上げる。キャンプじゃ無いからお前も来いよ」


「そうか、だったら、まあ……」


 俺はこの間の金峰山でUFO観測会へのトラウマがあったが、明るいうちならUFOにさらわれることもないだろう。


「その代わり……頼む!」


 藤崎が急に俺に頭を下げた。


「な、なんだよ」


「華蓮ちゃんを誘いたい。皆川氏に頼んでくれないか」


「はあ?」


 こいつ、それが目的か。


「いや、来てくれないだろ」


「ちょっとだけでもいいから」


「まったく……」


「なになに? どうしたの?」


 俺があきれているとそこに綾乃が来てしまった。


「なんか私の名前が聞こえたから。私に頼みごと?」


「いや、なんでもない」


 俺はごまかした。


「えー! 絶対何かあったでしょ。藤崎君、何? 直接言ってよ」


「そ、それは……」


 藤崎も直接言うのは恥ずかしいようだ。


「えー、なに、言えないこと? まさかエッチなことじゃないでしょうね」


「そんなこと、教室で話すか!」


「それもそうか。だったら別にいいでしょ」


「あの……明日のUFO観測会に来てくれないかなって」


 藤崎が言った。


「え? UFO観測会? 私が?」


「い、いや……」


「あー、華蓮ね……」


「うん……」


「私は経由するだけってのは何かムカつくけど、華蓮に聞いてみるよ」


「お前はUFOなんて興味ないだろ」


 ふてくされた綾乃に俺が言う。


「まあ、そうだけどさ。私スルーして華蓮だけかって思うとちょっとね……」


「でも、興味ないんだから仕方ないだろ」


「そうだけど……でも、華蓮が行くなら私も行くよ」


「はあ?」


「だって、華蓮一人をこんな男子二人に任せられないでしょ」


「それはそうだろうけど……」


「それに私が行くって言えば、華蓮も行きやすいんじゃない?」


「確かに! 皆川様! 頼みます!」


 藤崎が皆川に土下座して頼んでいる。


「うん、わかったよ! パフェ1つで手を打とう」


「パ、パフェ?」


「うん、それぐらいいでしょ?」


「……わかったよ、それでお願いします!」


「まかせて!」


 綾乃、急に笑顔になったな。


◇◇◇


 金曜日の放課後。俺たちのところに皆川綾乃と鳴海華蓮が来た。


「鳴海氏、来てくれてありがとう」


 藤崎が言う。


「私はいいけど。UFO大好きだし」


「おー! 大好きか! 俺もUFO大好きだ!」


「だから行きましょ」


「よし、行こう!」


 俺たち四人は路面電車に乗って江津湖に向かった。


「で、観測会ってどうやるの?」


 少し歩いて江津湖に到着すると綾乃が藤崎に聞いた。


「双眼鏡を人数分持ってきた。これで探そう」


「でも、まだ明るいよ」


 綾乃が言う。


「明るくてもUFOは出るんだ。そうだよね、鳴海氏」


「え? そうね。どちらかというと明るいときの方が出やすいかも」


「そうなの?」


 綾乃が聞く。


「うん。別に宇宙人は夜行性じゃ無いし」


「そうなんだ。華蓮って宇宙人にも詳しいんだね」


「少しね」


 何が少しだ。まったく……


「じゃあ、探そうか」


 俺たちは双眼鏡で江津湖の向こう側を見る。だが、当然ながらUFOらしきものは見つからない。


「あ、鳥! 見て! あっちに大きい鳥いた!」


 綾乃は鳥に夢中になったようだ。


「あれはアオサギだな」


 藤崎が言う。


「藤崎君、鳥にも詳しいの?」


「詳しいって言うほどじゃないがUFOの観察してたら鳥の名前も自然と覚えた感じだな」


「そうなんだ。じゃあ、あの小さいのは?」


「コチドリだな」


「水に浮かんでるあいつは?」


「カモだ」


「へー、じゃああれは……」


 鳥を追って綾乃と藤崎は少し離れていった。そうなると俺と鳴海華蓮だけがその場に残される。二人になるのはちょっと恐い。そう思ったら鳴海華蓮が接近して話しかけてきた。


「星野君、UFO見つかった?」


「いや……」


「星野君はUFO詳しいの?」


「詳しくは無いよ」


「乗ったりしてないの?」


 俺は綾乃の顔を見る。すこし笑っている。明らかに分かっている顔だ。


「乗ったりは……無いな」


 もちろん、そう言うしかない。


「そうなんだ。てっきり一度は乗ってるって思ったけど」


「無いよ……なんでそんなこと言うんだよ」


「ふうん……まあ、それはいいや」


 いいんだ。


「この機会に聞いちゃおうかな。星野君は綾乃のことどう思ってるの?」


「綾乃?」


 なんでそんなこと聞くのだろう。一瞬そう思ったが、UFOのことを除けば、鳴海華蓮は綾乃の親友だ。最近、綾乃と仲良くしている俺がどう思っているのか、気になっても当然か。


「別に何とも」


「へぇー、でも仲いいみたいだけど?」


「幼馴染みだし」


「最近まであまり話してなかったって聞いたけど」


「そうだよ。でも、また昔のように幼馴染みとして話すようになっただけ」


「それで……恋愛感情はあるの?」


「無いよ。綾乃に迷惑だし」


「じゃあ迷惑じゃなかったら、あるわけ?」


「はあ? そんなこと考えたことも無いよ。綾乃は小さい頃から一緒だし、ただの幼馴染みだから」


「ふうん……じゃあ、私の勘違いか」


「勘違い?」


「うん。てっきり、両想いに見えたから」


「それは無い。お互いに無いよ」


「そう、ならいいけど……」


 ならいい、とはどういう意味だろうか。


「おーい、すごく綺麗な鳥いたよ!」


 そのとき、綾乃が俺たちを呼んだ。俺たちは2人の場所に行き、その鳥の方を見る。確かに綺麗だ。コバルトブルーの背中に橙色の胸、派手な色の鳥だな。


「あれはカワセミね」


 鳴海華蓮は言った。


「さすが華蓮! カワセミ知ってるんだ」


 綾乃が言う。


「それぐらい知ってるわよ」


「私、知らなかったよ。藤崎君に教えてもらった」


「いや、それぐらい常識だって。ねえ、鳴海氏」


「そうね。カワセミぐらい知ってて欲しいわ」


 なんか常識みたいな流れになっているが、俺も知らなかったな。こんな綺麗な鳥が居たんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る