第8話 告白

 水曜日。転校生・鳴海華蓮がやってきてもうすぐ一週間が経とうとしている。さすがに人気は落ち着いて、いつものクラスの雰囲気が戻ってきていた。鳴海華蓮は皆川綾乃のグループに入った感じだ。つまり、トップカーストの集団だな。


「なんかあいつむかつく」


 急にそう言ったのは隣の藤崎だ。


「どうした? 誰のことだ?」


「サッカー部の高橋だよ。いつも華蓮ちゃんの横に居ないか。肩とか触ってるし……」


 確かに高橋は今も鳴海華蓮のすぐ近くに居る。あからさまにボディータッチもしている。男子が女子にやるのはセクハラだろ。確かに高橋は人気ある男子だけど。


「おい、皆川氏に言って注意してもらえ」


「なんでだよ、そんなこと俺が言えるか。自分でやれよ」


「む、無理だよ……」


 結局、こいつもトップカーストには弱い。


◇◇◇


 放課後、今日も俺の席に皆川綾乃が来た。


「ごめん、航介。今日はちょっと用事があって――」


「そうか、じゃあ、先に帰るな」


「ちょ、ちょっと! 用事と言っても教室で待つだけだから、その間、数学教えてよ」


「数学? 俺も大して得意じゃ無いぞ」


「私よりは得意でしょ。お願い!」


 手を合わせて綾乃が頼んでくる。それにしてもこういうのも久しぶりだ。以前は一緒に勉強したこともよくあったけど高校に入ってからは無かった。幼馴染みの頼みだし、久々にやるか。


「わかったよ」


「やった!」


「それにしても……」


 藤崎が口を挟んできた。


「今日は鳴海氏は居ないのか?」


「うん、ちょっとね」


 今日は皆川の隣に鳴海華蓮は居なかった。教室にもその姿は無い。


「なんだ……じゃあ、俺帰るわ」


 そう言って藤崎は先に帰っていった。鳴海華蓮が居なければ俺たちと一緒に帰る意味は無いようだ。


 人が少なくなった教室で、俺は綾乃に数学を教える。だが、あまり時間が経たないうちに鳴海華蓮が教室に戻ってきた。


「あ、華蓮! 終わったの?」


「うん、帰ろうか」


「そだね。じゃあ、航介、帰ろう」


「おう……って、鳴海さんを待ってたのか?」


「そうだよ。言ってなかったっけ?」


「聞いてないし」


「ごめんごめん。実は華蓮、告白されてたんだ」


 小声で綾乃が言った。


「……マジで?」


「うん。相手は内緒ね」


「別に隠さなくていいわよ。高橋君よ」


 鳴海華蓮が言った。やっぱりそうか。それにしても手が早いな。


「それで? 付き合うのか?」


「そんなわけないでしょ。よく知らないし。タイプじゃ無いし」


 鳴海さんは辛辣な口調で言った。


「アハハ、華蓮、前から言ってたもんね。ウザイって」


「そうよ、ああいうタイプは苦手。遺伝子プールが腐るわ」


「え? 遺伝子なに?」


「ああ、ごめん、なんでもない」


「さすが理系。言うこともなんか科学的だなあ」


「そんなんじゃないから。行こうか」


「うん!」


 ということで、俺と綾乃、それに鳴海華蓮で帰る。綾乃を俺と鳴海華蓮が挟んで歩くが、綾乃は鳴海華蓮と話してばかりだ。


 辛辣な高橋評を鳴海華蓮が繰り返し、綾乃はそれを聞いて笑っていた。やっぱり、鳴海華蓮、恐い。俺も裏であんな感じで言われているのだろう。


「じゃあ逆に華蓮ってどういうタイプが好きなの?」


 綾乃が聞いた。


「そうね……相手の立場に立って物事を考えられる人かな」


「ああ、いいね、そういう人」


「うん。たとえどんなに荒唐無稽なことを聞いても自分のこととして考えられる人」


 そう言って俺を見てきた。俺? じゃないよな。そういうことを話した記憶も無いし。


「ふうん、よくわかんないけど誰かそういう人居るの?」


「うーん、居るような居ないようなって感じ」


「へぇー、華蓮にも気になる人が居たんだ」


「そこまで行ってないから。そうなればいいなあとは思ってるけど」


「そっかあ。お互い、頑張ろうね!」


「そうね」


 お互いって、やっぱり綾乃にも好きな人が居るって事か。まあ、そりゃそうか。綾乃は以前は彼氏ができたという噂があったが、今は別れているようだ。

また新たに好きになった人が現れたんだろう。


 そんなことを話していると分かれ道が近づいてきた。


「あ、そういえば、華蓮ってどこかのバス停で乗ってるの?」


 綾乃が聞く。


「ううん、違うけど。なんで?」


「昨日、藤崎君がね、こっちに華蓮が行くのを見てどこ行くんだろうって不思議がってたから」


「ああ、そういうこと。私、親に迎えに来てもらってるから」


「なるほど、車か」


 車とは言ってないけどな。UFOが来てるって事だろう。あのステルス性能なら見られないだろうが、かなり巨大だった。降りる場所には広いスペースが必要だ。おそらく、二の丸広場にでも降りているのだろう。ということは城彩苑から階段で上に上って、さらに坂道か。結構きついルートだ。


「何? 星野君、何か言いたそうね」


 急に鳴海華蓮が俺に言ってきた。


「え? いや、ナンデモナイヨ」


「なんか片言だけど」


「べ、別に……ただ、坂道登るの大変だなって……あっ!」


 余計なことを言ってしまった。


「ふふ、確かにそうね。じゃあ、また!」


「じゃあね!」


 鳴海華蓮は帰っていった。


「……坂道? どういうこと?」


 綾乃が聞いてくる。


「あー、俺の勘違いだ」


「でも、華蓮はそうねって言ってたよ」


「話を合わせてくれたんだろ」


「そうなんだ」


 やばいな。鳴海華蓮の誘導質問に乗せられて、いろいろバレてしまっている気がする。俺に記憶が残っているのがバレたら、どうなるのだろう。やっぱり、またUFOに乗せられてしまい、記憶を再消去させられるんだろうか。


◇◇◇


 家に帰った俺はこの記憶をいつ消されてもいいように記録に残すことにした。電子的な媒体は危ない。見られたり消されたりする可能性がある。ここは紙だろうな。


 俺は使っていない紙の手帳にこれまでのことを書き始めた。


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