第7話 帰り道

 翌日の朝。やはり、鳴海華蓮の周りは騒がしい。相変わらず人気だ。


「……はあ、華蓮ちゃん可愛いなあ」


 隣のオカルトマニア・藤崎敬吾もすっかり鳴海華蓮の虜になったらしく、その様子を見つめている。昨日までは『鳴海氏』と言っていたのに今では『華蓮ちゃん』だ。


「お前どうしたんだよ、転校してきたときは全然関心無かったくせに」


「だって、昨日話したらUFOに興味あるんだぜ。あんなに美人でUFOに興味あるなんて子、もう出会えないかも知れない。あんな子いないよ」


 藤崎は昨日話して鳴海華蓮に惚れてしまったようだ。でも、鳴海華蓮がUFOに興味があるのは当たり前だよな。自分の家なんだから。


 それにしても藤崎はあのUFOの中で何をされたのだろうか。おそらく、俺と同じような話をして、そして記憶を消されたんだろう。せっかく、あこがれのUFOの中に入れたのにかわいそうに。しかも、記憶が無いとはいえ、その犯人である鳴海華蓮を好きになるとは。


「なんとかまた華蓮ちゃんと話したいなあ」


「無理だろ。おれたちのようなやつを相手にするレベルじゃ無いぜ」


「わからないだろうが。それに俺たちには力強い味方も居る」


「誰だよ」


「皆川氏だよ。お前と幼馴染みなんだろ。華蓮ちゃんと親しいみたいだし、なんとかまた一緒に――」


「バカ言うな、無理に決まってる」


「でも、一緒に帰ろうって昨日言ってただろうが」


「それは俺と綾乃だ。鳴海華蓮は違う」


「そこをなんとか俺も一緒に――」


「そんなこと頼めるか、まったく……」


 第一、俺は鳴海華蓮と離れていたいのだ。だから、一緒に帰るなんて、そんなことは絶対嫌だった。


◇◇◇


 だが、放課後に俺の席に現れたのは皆川綾乃だけでは無かった。


「航介、途中まで華蓮も一緒に帰っていいかな」


「はあ?」


「おー! いいね! 俺も一緒に帰るよ」


 藤崎が喜んで話に入ってくる。


「そっか、じゃあ4人で帰ろう」


「だな」


 いつの間にか俺が承諾したことになってしまっていた。仕方なくついていく。校舎を出て前を歩くのは鳴海華蓮と藤崎敬吾、その後ろに俺・星野航介とその幼馴染み・皆川綾乃だ。


「なんかこういうの久しぶりだね、一緒に帰るの」


 綾乃が俺に言う。


「でも、昨日も帰っただろ」


「昨日は歓迎会って形だったしさ。なかなか高校では航介と話せなかったし」


「それは……そうだな……」


 中学の頃は家が近くだし一緒に帰ることも良くあった。だけど、高校になって俺が一人暮らしを始めたから一緒に帰るなんてこともなくなったのだ。もともと教室ではあまり話してなかったし、綾乃と話す機会はほとんど無くなってしまっていた。


「これからはもっと話したいなあ、なんて……いいかな?」


「まあ、話すぐらいなら……」


「やった! ありがと。またメッセージも送るね」


「ああ」


 そんな話をしていると、鳴海華蓮が話しかけてきた。


「星野君と綾乃ってそんな仲いいんだ」


「え? そうかな」

「いや、違うけど」


 二人の言い分が微妙に食い違う。違うと言ったのは俺だ。


「星野君は否定するんだ」


「そりゃあな。綾乃と俺なんて釣り合ってないし、迷惑は掛けたくないからな」


「迷惑なんて……」


 高校に入って皆川綾乃は一段と美人になった。清楚で明るい幼馴染みに対して俺は冴えない陰キャのまま。何も変わっていない。みんなの人気者である綾乃が俺と仲がいいなんて思われたら迷惑だろう。


「ふうん、そういう感じなんだ」


「なんだよ……」


 鳴海華蓮は何か見透かしているような目だから恐い。


「別に……まあ、いいけど。藤崎君、UFOの話しようか」


「え? ああ、そうだな。最近、面白い話があったぞ。メキシコで大量のUFOが目撃されて……」


 調子に乗って藤崎がマニアックな話を始めた。でも、鳴海華蓮は本当のUFOのことを知っているし、大丈夫だろうか……


「……だから、UFOは米軍が作っているやつもあるって話なんだ」


「米軍が? フフ、ウケる」


 鳴海華蓮が珍しく笑った。


「ウ、ウケる? そうか、そんなに面白いか」


「うん。それで、米軍が隠している異星人ってのはどんなやつなの?」


「そうだな。典型的にはこういうやつだ。グレイっていうやつで……」


 藤崎はそう言ってスマホの画面を鳴海華蓮に見せている。


「うわあ、気持ち悪い」


「だよな。こういうのが宇宙人の一般的な姿らしい」


「一般的ねえ……宇宙人って気持ち悪いんだ」


「まあ、そうだな」


「ふうん……ねえ、星野君。星野君も宇宙人って気持ち悪いって思ってるの?」


 突然、鳴海華蓮は振り返り、俺に聞いた。


「え? そ、そうだな……」


 こいつ絶対気がついてないか。俺の記憶が残っていることに。その目を見て答えようとしたが、嘘をついて「気持ち悪い」ということは本人を目の前にたら出来るわけも無かった。


「……俺はそうでもないと思うぞ」


「ふうん、そっか……」


「えー! 宇宙人って何か気持ち悪いやつでしょ」


 綾乃が騒ぎ出す。


「それが気持ち悪くないって、航介どうかしたんじゃない? オカルトにハマりすぎて宇宙人が好きになったとか?」


「バ、バカ言え……何変なこと言ってるんだよ」


「なんで焦ってるのよ」


「ち、ちが、違う!」


「アハハハ!」


 俺の様子を見て鳴海華蓮が笑い出す。こいつ分かってて笑ってる感じするな。


「星野君って面白いね」


 鳴海華蓮が俺の目を見て言った。


「う……」


「じゃあ、わたしはこっちだから」


「うん! またね!」

「鳴海さん、また明日」


「じゃあね」


 鳴海華蓮は別の道に去って行った。


 しばらく三人でバスセンターに歩く。


「……それにしても、鳴海氏ってあっち方向なのか?」


 藤崎が綾乃に聞いた。


「うん、いつもそうだよ」


「あっちって、熊本城だよな。右に行っても街中だし、でも、バスセンターに行かないって事はバスや電車じゃ無いって事だろ」


「うーん、そういえばそうね。バス停のショートカットでもしてるんじゃ無いの?」


「そうなのかな」


 確かに。あの道からはどっちに行っても住宅街に通じるような道は無い。あいつ、たぶんUFOに乗るんだろうけど詰めが甘いな。不審に思われてるぞ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る