第6話 歓迎会

「藤崎君はUFO見つけられなかったんだ。じゃあ、星野君は?」


 そう言って鳴海華蓮が俺を見てきた。今度は俺の記憶を試そうというのか。


「お、俺は……」


「こいつは俺より先に寝て、後で起きたから当然見てないよ」


 藤崎が代わりに答えた。


「そうなんだ。でも、UFOって普通は見えないように偽装してるんじゃ無いの?」


 鳴海華蓮が言う。こいつ、俺たちの会話を知っていてそう言ってるのか。


「お! 鳴海さんも詳しいね。確かにそう思う。地球の技術よりも高性能のUFOはきっと究極のステルス性を持ってると思うんだよなあ」


 藤崎が話し出す。あのとき、UFOが出現したときと同じ会話だ。


「たとえばどんな?」


「そうだなあ。例えば外壁に本来見えるべき景色の映像を投影するとか」


「なるほどねえ、それなら見えないようになるわね」


「だろ? そういうのならありそうなんだよな。見てみたいなあ」


 藤崎は既に見ているのだがまったく記憶に無いらしい。


「華蓮もUFOとか興味あったんだ」


 綾乃が言った。


「UFOというか、技術的なことにね。そういうのは好きなんだ」


「へぇー、理系だね」


「まあそうね。綾乃は文系?」


「うん。数学苦手だし」


「そっか。じゃあ、綾乃に文系っぽい質問しようかな。宇宙人はUFOのことをなんて呼んでると思う?」


「え?」


 あのとき、鳴海華蓮が自分から教えてくれたやつだ。


「お、いいねえ。確かにそうだ。地球人は未確認飛行物体のことをUFOと呼んでるけど、宇宙人からしたら未確認でも何でも無いもんなあ」


 藤崎が言う。こいつもほんとは聞いたと思うけどな。でも、記憶を消去されているから当然覚えていない。


「そうだなあ、宇宙船とかじゃ無いの?」


 綾乃が普通に答えた。


「なるほどね。じゃあ、星野君はどう思う?」


 自然な流れで鳴海華蓮が聞いてきた。俺は知っている。鳴海華蓮が「船」と呼んでいることを。だが、これを答えると記憶があるとバレてしまう。ごまかすしかない。


「機体に名前があるんじゃ無いのか。アポロとかスプートニクとか」


「あー、そうか。普通そうだよね」


 綾乃は俺の答えに納得した。


「ふうん、そう答えるんだ」


 鳴海華蓮は俺を見て言った。何か見透かされているような気がする。


「華蓮はどう思うの?」


「私は『船』って呼んでると思う」


 俺はその答えを聞いて思わず咳き込んでしまった。


「おい、大丈夫か?」


「だ、大丈夫だ……」


 思わず鳴海華蓮を見る。やはり、俺を見つめていた。これはまずい。


「でも、鳴海氏がUFOに興味あるの嬉しいなあ」


 藤崎が言った。


「別に興味あるわけじゃ無いよ。普通かな」


「でも、皆川氏みたいに馬鹿にしてこないから嬉しいよ」


「馬鹿にしてないし!」


「してたくせに」


「ちょっと興味あるぐらいならいいけど、藤崎君はのめり込みすぎだから。航介を巻き込まないでよね」


「星野もこういうの好きだから一緒にいろいろやってるだけだ。なあ?」


「え、ああ、そうだな。だけど、もうそろそろいいかなって思ってる」


「え、ほんとかよ!」


 俺の言葉に藤崎が驚く。俺はUFOが恐くなっていた。


「よかった。航介、だったら暇になるだろうし私と一緒に帰ろうよ」


「うーん、たまにはな」


「うん!」


 綾乃は嬉しそうだった。だが、鳴海華蓮は不審そうに俺を見つめている。まずい。記憶が消去されているか疑っているのかも知れない。

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