第4話 鳴海華蓮

 突然、金峰山の駐車場に鳴海華蓮が現れた。


「あいつ、どうやってここに来たんだ」


 藤崎が言う。確かにそうだ。俺たちはタクシーでここに来たが、あいつは突然現れた。まるで空中から出現したかのように。


 鳴海華蓮は次第に俺たちの方に近づいてきた。


「まずいぞ」


「うん、だけどどうしようもない」


 俺たちはただ呆然として鳴海華蓮を見つめる。


「ここに居たんだ」


 鳴海華蓮は俺たちにまっすぐ近づき言った。


「えっと……鳴海さん、なぜここに?」


 俺は聞いた。


「なぜって、君たちがUFOを監視するって言ってたでしょ。だから」


「だからってなんで鳴海さんが……」


「鳴海氏もUFOマニアなのか?」


 藤崎が嬉しそうに聞いた。


「まあ、そうかもね。何しろ家だし」


「家?」


「うん。そこにあるでしょ?」


 そう言って振り返る。すると、そこには先ほどの星空は消えていた。暗い壁のようなものが浮いて見える。


「こ、これは……」


「あなたたちがUFOと呼んでいるものね。私たちは単に『船』と呼んでるけど」


「船……」


「私の家がある乗り物のことね。あなたたちを是非招待したいと思って」


「君はいったい……」


 俺はあまりの非現実的展開にどうしていいか分からない。だが、藤崎は――


「招待? UFOに入れるのか?」


 鳴海華蓮の提案に脳天気に食いついた。


「そうよ。どうする?」


「もちろん行く! な、星野」


 俺は恐かったが、藤崎を一人で行かせるわけにはいかなかった。


「……わかった。行こう」


「よかった。本人に入る意思が無いと面倒になるからね。じゃあ、こちらへどうぞ」


 俺たちは鳴海の誘いに従い近づいていく。


「ここに立って」


 言われたとおりに立った。次の瞬間、俺は気を失っていた。



◇◇◇



 目が覚めたときには周りが白い壁に囲まれた部屋に居た。俺はベッドに寝ている。特に何かで縛られているわけでは無いのに手足が動かせない。かろうじて首が動かせる程度だ。


「ここは……」


「目が覚めたようね」


 横に立って俺に話しかけてきたのは鳴海華蓮だった。


「ここはあなたが来たかった場所。UFOの中よ」


「……藤崎は?」


「別の部屋に居るわ。あなたたちとは個別に話したかったし」


「……君はいったい何者なんだ?」


「私? 私は宇宙人」


「マジか……」


 鳴海華蓮は宇宙人だったのか……


「と言いたいところだけど、生まれも育ちも地球なのよね」


「そうなのか?」


「うん。母親が宇宙人なだけ。言ったでしょ、ハーフだって」


 確かにハーフと言っていたが、まさか宇宙人とのハーフとは……


「母親はスウェーデン人じゃなかったのか」


「スウェーデン人みたいなものよ。そっくりだもの」


「宇宙人なのに?」


「そう。私たちはなぜか地球人と遺伝子的にもほとんど同じなの。遠い星なのに地球と同じ生物が存在する。それがなぜなのかはまだわかっていない。それを解き明かすのも私たちの使命の一つね」


「使命……」


「うん。宇宙人たちがこの星に来た理由よ。もう一つの使命は地球と友好関係を結ぶこと。その一貫として私が居るの」


「宇宙人とのハーフが?」


「そうよ。この星には既に私のような宇宙人とのハーフが結構居るわよ。といっても一万人にも満たないけど」


「い、一万人!?」


「そうよ。もう宇宙人との混血は結構進んでいる。そうなれば地球人は私たちを恐れることも無くなるでしょ?」


「……お前達は、俺たちをどうしたいんだ」


 俺は恐くなって言った。


「別に侵略とかじゃ無いって。ほんとに仲良くしたいだけ。でも、あなたたちはそうは思わないでしょ。だから、まずは地球の中で影響力を持ちたいと思っているわけ」


「影響力……」


「政治、経済もそうだけど、私たちのようなハーフが普通に地球人と触れあうことで私たちが敵で無いことを知ってもらいたいの」


「そういうことか……」


 彼らは友好的なようだ。だったら問題ないだろう。いつも教室で孤独な様子の鳴海華蓮の姿が浮かんだ。自分が特別だから、地球人では無いから、馴染めないで居たんだろう。そういう子はほっとけなくなる。


「だったら俺も協力したい。だからまずは体を動けるようにしてくれ」


「協力? それはダメかな。だって、まだ早いから」


「早い?」


「そう。今はまだ準備段階よ。このことはトップシークレット。もっと時間を掛けて、影響力を持ってから行わないといけないわ」


「そうか。だったらなぜこんなことを俺に話してくれたんだ?」


「そうね……理由は二つあるかな」


「二つ?」


「うん。一つは私が話したくても話すことが禁じられているから。せっかく学校に行きはじめて少しずつみんなと仲良くなったのに一番大事なことを話せないなんて、ストレスたまるでしょ? だから話したかったのよ」


 それはわからないでもないな。だから孤独な様子だったのか。でも、そんな綾乃たちにも言えないようなことを俺に話してくれたんだな。


「俺に話してくれて嬉しいよ。絶対秘密にするから」


「そう…・・」


「ああ。だからバレないように君に協力していきたい。絶対君を守る」


「ま、守る……ちょっと嬉しいかも」


 そう言って鳴海華蓮は照れた表情をした。


「ああ。だから俺を利用していいぞ。協力できることは何でも言ってくれ」


「そう言ってくれるのは嬉しいんだけどねえ」


「だけど、なんなんだ? そういえば理由は二つあると言ったな」


「うん。あなたにこんなことを話す二つ目の理由。それは……ここでのあなたの記憶は消去してしまうからよ」


「え……」



◇◇◇



 気がついたら俺はテントの中に居た。眠っていたようだ。目を覚まし体を起こす。


「おお、起きたか」


 藤崎が居た。朝食の準備をしている。もう周りは明るくなり出していた。


「……藤崎、昨日は大丈夫だったのか?」


「昨日? 何が?」


「だからUFOだよ」


「UFOか、結局現れなかったなあ。まあ、でもそんなもんだろ」


「え、現れただろ。そして中に入っただろ」


「はあ? 何言ってるんだ。夢でも見たのか?」


 藤崎は覚えていないらしい……


 そういうことか。記憶を消去されたんだ。あれは夢なんかじゃ無い。全てがリアルだった。俺は慌ててテントの外に出た。鳴海華蓮が歩いていた辺りを見てみる。間違いない。俺たちのものでは無い靴の足跡があった。


 でも、藤崎は記憶がなくなっているのに、なぜ俺は覚えているんだ。鳴海華蓮が船と呼ぶ宇宙船に入ったこと。そして、そこで宇宙人とのハーフだと明かされた、既にハーフは一万人近く居ること、宇宙人は侵略では無く友好を望んでいること、など全て覚えている。


 だが、記憶を消すと言われてからのことは確かに記憶が無い。

 ということは……俺の記憶消去が不完全だった、ということだ。

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