第2話 UFO監視計画
放課後も転校生・鳴海華蓮は大人気だ。歓迎会と称して男女何人かでどこかに遊びに行くらしい。
俺はと言えば藤崎に残れと言われ、教室に残っていた。だが、肝心の藤崎はどこかに行ってしまいここには居ない。仕方なく残っていると委員長の皆川綾乃が俺に近づいてきた。ショートボブの黒髪にいつも整えられた制服。委員長らしい清楚さがある女子だ。でも、堅苦しいやつじゃ無い。誰に対しても笑顔を見せる明るい性格でクラスの人気者だ。
「航介も行く?」
皆川綾乃は実は俺の幼馴染み。だから、お互い名前で呼んでいる。と言ってもそれは二人で話すとき限定だ。みんなの前では「星野君」「皆川さん」呼び。子どもの時にはよく遊んだ綾乃だけど、今は教室でたまに話す程度になっていた。
「行くってどこに?」
「だから華蓮の歓迎会」
「いや、俺は用事があるし……」
「用事って何よ」
「藤崎が何か話があるらしいんだ」
「また藤崎君? あいつ見た目はいいけどオカルトマニアだし、付き合わない方がいいと思うよ」
綾乃のやつ、藤崎のことを嫌っている感じだけど、見た目はいいって認めてるんだな。
「まあ、確かに変なやつだけどさ。悪いやつじゃ無いし」
「そうかもしれないけど……」
そこにその藤崎敬吾が帰ってきた。
「星野、待たせたな。ちょっと山岳部にいろいろ聞いてきたんだ」
それを見て綾乃は「じゃあ、またね」と言って去って行った。
「ん? 邪魔したか?」
「してねーよ」
「そうか。じゃあ、俺の計画を聞いてくれ」
「計画?」
「そうだ。ちょっと待ってくれ」
そう言って鞄の中を探しだす。そうこうしているうちに転校生を中心とした連中は綾乃を含めクラスから消えていた。教室に居るのはあっという間に俺たちだけになる。
「あったあった、これだ」
人が消えた教室で藤崎敬吾が開いたノートに書かれていたのは手書きの地図だ。
「なんだ、これ」
「あの動画を元にUFOの場所を割りだした地図だ」
こいつ授業中に何か描いていると思ったらそんなものを描いていたのか。
「そんなことできるのかよ」
「ああ。良く見ろ。この動画の端に建物が映ってるだろ?」
「どこだよ」
「これだ」
暗くてよく見えなかったが確かに映っている。
「そして、これも小さいけど熊本城の天守閣だ」
「そう言われればそう見えないことも無いけど」
「建物はストリートビューで探してこの位置にあることが分かった。となると、天守閣との方向からこの辺りでこっち方面を撮ってる」
そう言って手書きの地図に線を引く。
「この方向に何があるかわかるか?」
「……金峰山だな」
「そう。つまり、UFOは金峰山周辺に出現している」
ほんとかよ。
「へぇー、それがわかってよかったな」
「ああ。ということで、UFOを間近に見に行くぞ」
「はあ? 金峰山に行くって事か」
「そういうことだ。といっても今日は準備で決行は明日だな。明日は金曜。翌日は休みだから深夜まで居れるだろ」
「深夜? 放課後ずっと見張るって事かよ」
「そうだ。だから、これから買い物に行くぞ。テントとか食料とか」
「マジかよ……」
「マジだ。荷物が多いから手伝ってくれるか」
「まったく……」
俺はこんな事のために教室に残ってたのかよ。だったら、転校生の歓迎会に行った方が良かった……なんてことはないか。ああいう場所は苦手だ。そういう場所に行かない理由としては逆にありがたい。綾乃の誘いを断る口実になってくれた。
ということで、俺は藤崎の買い物に付き合うことにした。藤崎の家は金持ちらしい。詳しいことは知らないが、こいつはよくいろんなものをおごってくれる。その代償というわけではないが、俺は藤崎のオカルト趣味にたまに付き合っていた。
藤崎と仲良くなったきっかけもオカルトだ。いつも一人でいる藤崎が俺は気になっていた。そういう孤独なやつには話しかけたくなってしまう性分だ。俺と似ているところを感じるからかもしれない。
俺が話しかけたとき、藤崎はオカルト雑誌を読んでいた。俺もその雑誌はたまに読んでいたから話が盛り上がってしまい、そこから話すようになったのだ。俺は別にオカルトにのめり込んでいるわけじゃ無い。ときどきそういうのをたしなむ程度だ。でも、好きであることは確かだから藤崎の話によく付き合っている。
結局その日は、キャンプ用のいろんなものをバスセンターで買い込み、水前寺の藤崎の家までそれを持って行って、家に帰った。
◇◇◇
翌日、朝から教室は騒がしい。騒ぎの中心はやはり転校生・鳴海華蓮だ。彼女はまず背が高いし手足も長く、金髪も輝いている。さらにハーフっぽい端正な顔立ちに豊満な胸。高校生とは思えないほど大人っぽかった。登校するとあっという間にクラスメイト達に囲まれている。
その人気者の一番の親友という顔で隣に居るのが皆川綾乃。わが幼馴染みだ。席が隣と言うこともありすっかり仲良くなったらしい。
俺はと言えば当然、鳴海華蓮と一言も話すことはなく遠くから見ているだけだ。まあ、このまま関わりは無いだろうと思う。
だけど、鳴海華蓮のことが少し気になるのも確かだ。彼女の周りに人は集まっているに、本人はどこか孤独に見える。他の生徒と親しく話そうとする雰囲気を感じないのだ。一番仲のいいのは皆川綾乃だろうけど、それでも自分から話すことはほとんど無いようだった。転校生だしまだ何かと馴染めないのだろう。そういう子を見ると手助けしたくなる性分だが、あれだけ人気だと俺が行く必要も無いだろうな。
昼休み。俺はいつも藤崎と二人で弁当を食べている。今日の話題は金峰山でのUFO監視計画のことばかりだ。
「放課後すぐ行くからな」
藤崎が俺に言う。
「行くってどうやって行くんだよ」
「タクシーだ」
「はあ?」
「金峰山まで歩いて行けないだろ。金はかかるが仕方ない」
なにが仕方ないだ。そこまで金かけるような計画なのかよ、まったく……
弁当を食べ終わってからも藤崎はノートを広げ俺に計画を話してくる。
「駐車場の端に陣取るぞ。で、ここにテントを張る。そして、UFOを探す」
「はぁ……で、何時まで居るんだ?」
「何言ってるんだ。テントを張るんだぞ。基本、朝までだ」
「朝まで!? 朝まで金峰山に居るのかよ」
「まあ、場合によっては昼までだな」
「マジか……」
これは長い一日になりそうだ。そんな話をしていたときだった。
「なになに? 金峰山でキャンプするの?」
そんな声で振り向くとそこに居たのは皆川綾乃だ。さらに隣には鳴海華蓮も居た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます