第3話
「君の涙と鼻水で服がベチャベチャだ」
気の済むまで赤子のように泣き腫らし、話せるくらいには落ち着いてきた頃。神崎さんは言った。
「ずびばぜん…………ずずっ。着替えてもらっても良いですか?」
俺が汚してしまったのだけど、濡れたシャツが透けて扇情的過ぎる。
「あは。さっき私のナニを見たと言うのに私で興奮するのか」
「まあ、男ですから」
付いてる以外。女性にしか見えませんから。
「そうだな。じゃあ役得じゃないか?透けた胸を見て楽しむも良しだぞ?私は気にしない」
「俺が気にします。性欲に任せて本能で動くのは、それこそ俺から元カノを寝取った奴と変わらない」
「寝取られたのか。辛いな」
辛い。けど、泣いたお陰か元カノって言葉はスラッと言えた。
「はい。元カノに呼び出された場所に行ったら、ムキムキの以下にも男って感じの奴と一緒に居て……女性の悦びを知ったとか。男は強引な方が良いとか一方的に言われてフラれました」
「馬鹿だな。その元カノさんは」
「俺も関係壊すのが嫌だし。求め過ぎたら嫌かなって手を出せずに居ましたから」
「ふふ。傷付けられたのに庇うんだ」
「未練が無いわけじゃないんだと思います。例え何ヶ月も前から浮気されていたとしても好きだったので」
「その間もデートをしていたの?」
「してました。映画を観に行ったり。買い物に行ったりとか。最中で時折居なくなるからおかしいな。とは思ってたけど、うっ」
危うく嘔吐しそうになり口元を抑える。
「それだけ愛した彼女は、自分より優秀な雄に強引に迫られて関係を結び、挙句デート中にも君の知らないところで抱かれていたと」
見上げた神崎さんの目付きが鋭くなった。
俺の為に、怒ってくれているのだろう。
「そうですね」
「結果君は元カノにフラれてしまったわけだけど……先に抱いていれば良かったと思う?」
問いかけの答えに困り、俯き下唇を噛む。
やりたくなかったと言えば全くの嘘になる。
夏なんかは目のやり場に困った場面も大いにあった。水着とか、部屋に誘われた時なんか。理性で抑え込むのが大変だったよ。
今思えば元カノも、俺を誘ってくれていたのかもしれない。
言い出しづらいから行動で示してくれていた。
元カノが出した勇気を不意にしたのは俺だ。
「それでも俺は……彼女を大事にしたかったと思います」
けれど、1歩踏み込めなかった俺だけど、この気持ちだけは嘘じゃない。
真剣だったんだ。それで良いじゃないか。踏み躙られたけれど元カノが幸せになるのなら、それで良い。
しばらく女性は信用出来そうにない。それどころか人を信用することすら億劫だ。
それも多分時間が解決してくれる。
顔を上げると、神崎さんは満面の笑みを浮かべていた。
もう何度目だろうか。どんな表情も綺麗で釘付けになってしまう。
「良いじゃないか、大変紳士的で素敵だよ。性欲に負けて性を貪るのは馬鹿のすること。理性的じゃない。だから君はとても立派なんだよ」
今風に言うと、我慢出来て偉いかな?と神崎さんは頭を撫でてくれた。
神崎さんに甘えながら、元カノとの馴初めや、同じクラスだから
「ありがとうございます。元気出ました」
死んでしまいたかったのが嘘のように、前向きになれそうだ。
「ふふ。よかった。じゃあ夜も遅い。親御さんも心配するだろう。帰るなら送っていくよ?」
神崎さんに甘えに甘えて長居してしまった。スマホを取り出して画面を点灯させると時刻は22時。
なんの連絡も無しにこの時間まで出掛けていたから母さんからの着信も数件入っている。
「いえ、自分の足で帰れます。近くなんで。神崎さんのお陰でマジ元気なんで!」
もう少し神崎さんの部屋で神崎さんと話していたい。後ろ髪を引かれまくる気持ちを抑えつつ、告げた。
「もう少し私と話していたいでしょ?送っていくよ」
「なんで分かるんですか?」
「顔に書いてある。ふふ。だから遠慮せずおじさんに送られなさい」
「お、お言葉に甘えさせて頂きます」
ルンルンで準備を整える神崎さんだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます