知言の追抄(ちげんのついしょう)

天川裕司

知言の追抄(ちげんのついしょう)

「嗚呼」

 青春(はる)の一光(ひかり)に間延びが漏れ出し、一男(おとこ)の火蓋が盛(さか)る時期(ころ)には、大胆不敵の女性(おんな)の主観(あるじ)が近い身内に嫁ぐのを止(や)め、

「どうしても近いのです。私は貴方を愛していません。もう、私には別に好きな男性(おとこ)があって、貴方の下(もと)へは一向経っても参れません。悪しからず。」

と言い、幻(ゆめ)の奥義(おく)へとその実(み)を惑わす〝向こう上手〟が活き活きしていた。女性(おんな)の活気は貴方(おとこ)の身元をきちんと据え置き、清閑(しずか)な静寂(しずか)な閑古の許容(うち)にて思春(はる)の兆しを揚々留めて、身分の相異を殊に付けない朝陽に埋れる詩人を識(し)った…。

 幻(ゆめ)の胴着に三重(かさ)ねた上着を青春(はる)に参じて〝向日〟に受け取り、慌てた様子で気楼を識(し)るのを女性(おんな)の軟手(やわで)に軽く懐かせ、小娘から得た希少の生果は、阪(さか)に上(のぼ)れる悪魔の吐息を、真奥(まおく)に射止めてすんなりしていた。…過去の記憶を自由に射止める自活の傘下は「自由」を塞ぎ、孤独の瞳(め)をした個人(ひと)の信仰(めいろ)は明日(あす)に届かぬ活力(ちから)を留めて、幻想(ゆめ)に纏わる概(おお)くの嗣業(わざ)には男児の末路が盛(さか)ってあった。清水(しみず)を流れる女性(おんな)の〝湯浴み〟は一春(はる)に留めた気性の様(さま)にて、男児(こども)に還れる神秘(ふしぎ)の目下(もと)では、「男・女(だんじょ)」の区別が凡そ付かない奇想の経過に小敗地(アジト)を観た儘、一女(おんな)の身内は別へ拡がり、貴方(おとこ)に届かぬ延命(いのち)を持った。

      ☆

 物事に感じて発する語。ah。oh。

      ☆

 退走(たいそう)して行く宙(そら)の身許は貴方(おとこ)の孤億(こおく)を大きく蹴散らせ、女性(おんな)の孤独に自信を貫く〝見様見真似の後光〟を保(も)った。理解に乏しい一女(おんな)の気色は男性(おとこ)の洋躯(ようく)を識(し)り得なかった。雨がぱらつき、雹が降る。女性(おんな)の浮沈が何処(どこ)へも発(た)たずの〝奇声〟を発して貴方(おとこ)を見紛う。一男(おとこ)の容姿は宙(そら)へ返るを酷く嫌った。一女(おんな)の体(からだ)は貴方(おとこ)を毛嫌い自分の嗣業(しごと)へ返って行った。女性(おんな)の化粧は実に濃かった。貴方(おとこ)が見知らぬ別の男性(おとこ)へ転々独走(はし)り、幾つになっても薹が立たずの幻(ゆめ)の娘は概(おお)きく死んだ。

 「汚れっちまった哀しみに、不埒な一女(おんな)がふらふら居着き、詩(し)が無い優雅に貴重を見亘(みわた)す稚拙な孤独が歪んでいった。」

 男性(おとこ)の身欲(よく)には女性(おんな)が立った。発熱して行く労苦の吟味(あじ)には、女性(おんな)の容姿が届かなかった。冷たい女性(おんな)の別れ間際が、男の孤独を暗殺している。過去が暗転(ころ)がる。感覚(いしき)が乏しい。俗世(このよ)で捧げる女の〝娘〟は、一男(おとこ)の元へは還らなかった。


「ああいう」

 「蟹さん手の鳴る方へ」娘の声が響き渡った。雨が降る、沢の辺りは、娘の体(からだ)を既に揺らした。男の小声(こえ)は雨に失(け)されて、浮き足立っては頼り無かった。人の体が上下に漂う。「日本の純白(しろ)さ」が異国を離れて無頼に寄り着き、ふらふら、ふらふら、味見を忘れた沢の辺りは、無機に透れる独裁を見た。

 男の一体(からだ)に小雨が通る。女性(おんな)の過去には牡丹が咲いて、それは奇麗な気色を見せた。空の間(あいだ)に白雲(くもり)が横たえ、男の主観(あるじ)を感覚(いしき)へ還せる。拙い淡さが底に通った。

 自由の感覚(いしき)は空路を切り裂き、明日(あす)の透りを呆(ぼ)んやり留(とど)める「異国情緒」の由来を識(し)った。女の意識が男に寄り着く。無頼でないのは沢の辺りの男・女(だんじょ)であった。

「蟹さん掌(て)の成る方へ」

 娘の口が再び開いて、男の一肢(からだ)を呑み込んだのだ。初春(はる)か晩秋(あき)かも分らぬ許容(うち)にて、女の手練れは〝四肢(てあし)〟を纏い、男の体へ走って入(い)って、内から狂わす無言を採った。――、男の体は煩悩(なやみ)の本能(ちから)に投げ遣り、幻(ゆめ)と未知との静かな孤独を、事始(こと)の思いへ突っ撥ね始める…。女の下肢(あし)には脂肪が付いて、恐々(こわごわ)、ごにょごにょ、…、男性(おとこ)の果実を想わす儘にて、女体の実力(ちから)を発揮していた。

      ☆

 あんな。あのような。like that。ああいうことはやめよう。

      ☆

 きょとんとしている。きょとんとしている男・女(だんじょ)の一体(からだ)は、沢の辺りで、丈夫に立った。幻(ゆめ)の意識に迷いながらも、初春(はる)の暖風(かぜ)から感覚(いしき)が遠退き、晩秋(あき)の許容(うち)へと猛夏(もうか)を匂わす無尽(むじん)の極致はぐったりしており、男の躰が女性(おんな)を呑むのは、空気(しとね)に揺られた伽藍にあった。女から出た男の体は、女を産み付け沢へ下った。川が流れる。鋏を捥がれた蟹の一種が、沢を遠目に眺めてあった。横這い歩きに一通である。女に居着く齢(とし)の理性(はどめ)は、過去の歪曲(ゆがみ)へ辟易している。路人(ろじん)が死んだ。佳人が活きた。胸に高鳴る女性(おんな)を模した男の性(さが)には、沢の天気がつとつと交響(ひび)ける、詩(うた)の文句が並んであった。

 一女(おんな)の正気を蟹が射止める…、孤独の独気(オーラ)が男を留(と)めた。場末に据え立つ幻(ゆめ)の感覚(いしき)は宙(そら)へ翻(かえ)され、事始(こと)の概(おお)くが無音に果て行く四季(きせつ)の通りが男女を解(と)いた。女が高鳴る。一男(おとこ)も高鳴る。無知の小児(こども)が口を割らずに、女性(おんな)の方へと下って入(い)った。男は去った。沢の辺りは静かになった。娘が呟く――。

「掌(て)の無い蟹さん、掌(て)の鳴る方へ」。


「アーヴィング」

「 Irving, do you hope my condition relating to core-mind? I might have missed your dream. Brown tail that would raise hope of dream has been remade by mistaken. Solitude in men probably would love longing for children. To angry, to message, to call, to select man's cell.... Those deeds must be raised in the sophisticated believing. I believe your honesty that had been consisted of the shaken world. Pages of your minds necessarily would gain my conditional love. This love is consisted of human elementals. To scope human technology should be called as "Supernatural mixing".

To think is consisted of my all. To believe is due to gaining of the essential rhythm. Please don't annoy these phenomena for remaking human relations. White wall calls black wall. Human deeds would be raised from sunrise. Do you believe these? Human deeds necessarily are to be put into this box. In the sky, man's thinking is flying still now. "White wall surely is calling you as the existing.」

 モノクロの君が今、白壁を目前(まえ)にして立っている。立ち尽くしているようだ。その君の周りには恐らく誰も居ない。きっと空が、君の最後の友人である。人の駆逐は人に依って採り決められた。奇妙な経過(とき)の合図は、人の背中で壊れてあった。もう、あの人はどこにも居ない。空気が澄んで、浮き足立つ君は「人の流行(ながれ)」に憧れていた。純白(しろ)い汽笛が宙(そら)に鳴る時、人の合図も鳴り果てたのだ。「奇妙」は自然。自然は不自由。不自由なるは、人の文句(ことば)に捕えられ行く〝哀れな言霊(こだま)〟の気色にあった。自由に息衝く無知の精華(はな)には身悶えしている純心(こころ)が降(お)り着く。都会の女は感情(こころ)が乏しく、表情(かお)を持たない。女の末路は決っていつもの落胆にある。アーヴィング…、ああ、アーヴィングよ。精神(こころ)の空間(すきま)は無機を通さぬ。旧い屍(かばね)は文句(ことば)を保(も)たない。いつまで経っても無言に佇み、過去を透さぬ明日(あした)を見ている。幻(ゆめ)の血路は寿命(いのち)に近く、幻想(ゆめ)の感覚(いしき)は活気を放れる…。

      ☆

 アーヴィング→アービング。

      ☆

 言霊(こだま)の交響(ひびき)は無限に片付き、意識を見せ得ぬ経過を問うのだ。人の内実(なかみ)が体裁(かたち)に落ち着き、孤独を忘れて宙(そら)まで跳んだ。人の精華は闊達し得ない。無言に近付く悪魔を観ていた。…―アーヴィング、ああ、アーヴィングよ…。父の生果(せいか)を散々呪おう。お前に託した事始(こと)の精華は自由に羽ばたき大言さえ吐き、幻(ゆめ)の身重(みおも)に人を遮る。紺(あお)い進化は安きに容易く、呪う間も無く未完(みじゅく)を吐いた…。

 アーヴィング…、ああ、アーヴィングよ…。宙(そら)を見上げよ。お前の幻(ゆめ)がそのまま浮んで自由に死んだ。人の勇気を男・女(だんじょ)に観るのは自己(おのれ)の孤独の延命でもある。悪しからず。


「アーカイブス」

      ☆

 古文書・古記録をはじめ、種々の記録物、歴史的な資料・情報など。また、それらを保管する所。不時の災害などで失われるのを防ぐ為のもの。

      ☆

 一男(おとこ)が在った。一女(おんな)が在った。二性(ふたつ)の躰は地上に降り立ち、一瞬ずつの生気を吸った。生気が講じて正義が成った。旧い物から地球が削られ、宙(そら)に羽ばたく無想の幻(ゆめ)には、男性(おとこ)と女性(おんな)が合体していた。一男(おとこ)の心身(からだ)は見る見る解け出し、女性(おんな)の内にて〝飛ぶ〟のを忘れ、明日(あす)の孤独と一緒に培う奇妙の帽子を被ってあった。

 「物(もの)」の個室は無純を保(たも)ち、一男(おとこ)の幻(ゆめ)から快楽(らく)を保てる。明るい景色が呆(ぼう)と浮んだ。浮ぶ矢先に一女(おんな)の〝間延び〟は失(け)されていった。真白(しろ)い気色がぽんと浮んだ。男性(おとこ)の笑顔は轍(てつ)を踏み貫(ぬ)き、厚い景色へ飛び乗り始めた。

 未完(みじゅく)に宿した、人の哀れを死なせる「不動を呈した風景」がある。

(ぶんやこ)「あらあら、色(しき)さん。昨日の素顔をどこへやったの?」

(こうやこ)「いえいえ、甲さん。幻(ゆめ)の感覚(いしき)は実に貴(とうと)い。暑い日にでも人の涙は、人を忘れて跳び立ちまるで。」

(けしき)「頃合い計った山際が、きっと二人を待っていますよ。あの白い人煙(けむり)が目印です。」

(とおく)「いいですねえ。秋の夜長は実によろしい。寒い日にでも気迫を点して、秋の佳日は返るだろうに…」

(あしさん)「紙の表紙に加減を見るのじゃ。人の髪は純(うぶ)が祟って、男も女も、奇麗すっかり化けられる。」

(ミュラさん)「式が要りますか?人の気色は孤高にあります。初春(はる)の孤独は孤憶(こおく)に発(た)ちます。式は要りますか?」

(キュラさん)「おやおや、式さん。脚色(いろ)を忘れてどこに行くの?」

(いしきのかみさん)「ひもとくおそらはあそんだおそら。はじめてあうのに人のぬくもり。いしきをとおした人のぬくもり。…」

 夜の帳が安堵を知る頃、人の意識が微笑を携え、夕日に訪ねる〝秋の夜長〟は曇ったお空に真っ青だった。

 人の素直が遠く流行(なが)れる宙(そら)に睨(ね)めては、厚い気楼(きろう)が無純を想わす〝一介〟ばかりの偽りさえある。人の労苦が酔える瞬間(あいだ)に、緻密の気色が人を惑わせ、人の葦から乱れる苦悩は夜半(よわ)の限りにほとほと近い…。俺の感覚(いしき)は一女(おんな)を忘れて、労苦を越え活き幸福を得た。

 人の小躍(ダンス)は血路を開き、葦を統(たば)ねる雀躍を観る。遠い所で人の景色が、無想を束ねて「おいで」「おいで」している。手招く動きは白雲(くも)の間をすっかり通り、見様見真似で世界を牛耳る。人の孤独は体に灯され、神女(しんじょ)の余韻(あまり)は活気と和らぐ。

 俺の旧(むかし)に懐ける幻想(ゆめ)には、小さな飼い葉が雀躍しており、厚い経過(ながれ)の概(おお)きな過程(さなか)で、産みの親から神を見ている。


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知言の追抄(ちげんのついしょう) 天川裕司 @tenkawayuji

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