【9話】魔王よ、お前もか…

「だいぶ城の奥まで進んだが…。

うん、これは、完全にアレだな、いかにもって感じだな」


俺とレイアの目の前にそびえるのは、重厚で威圧感たっぷりの扉だ。鋼鉄の表面には不気味なまでに緻密な彫刻が施され、怪しい気配を放っている。しかし、その細工はどこか荘厳さと気品を兼ね備え、見る者に畏敬の念を抱かせる。巨大な扉が発する沈黙の圧力に、自然と息を呑むしかなかった。


「では、いきましょうかね」

レイアはどこか興味を欠いたような雰囲気を漂わせながら、無表情のまま淡々と話しかけてくる。


いやさ、この扉をくぐったら絶対に魔王がいる雰囲気だよな、だからさ、ここはちょっと気合を入れて「いくぞ!」みたいな、ちょっとアツい場面になるんじゃないかと思うわけよ。本当に何の前置きもなく、サクッと行っちゃうのかい?なんて思ったりもするのだが、もちろん、そんな俺の胸中や期待をレイアが汲んでくれるわけもないよな〜。




ギギギギギ…、ゴゴゴゴゴ…




重厚な扉がゆっくりと開かれ、足を踏み入れた先には、威圧感たっぷりの玉座が部屋の中央に堂々と据えられていた。まさに「魔王の玉座」と呼ぶにふさわしい、いかつい造形は一切の妥協を許さない職人技を感じさせる。そして、その玉座に腰掛けた人影が、徐々に闇の中からその姿を現し始めた。


「いました、あれが魔王です」

レイアは相変わらず淡々と話してくる。


「よく来たな勇者よ…」

静かではあるが、どこか力強い波動を秘められたようなが発せられる。


あれ?可愛らしい声?


よくよく魔王を改めて見てみると、そこにいたのは華奢な美しい少女だった。堂々とした威厳を漂わせながらも、その表情には妙に偉そうな雰囲気が漂っている。その顔立ちは驚くほど端正で、人の姿なら誰もが思わず二度見、いや三度見してしまうほどの美しさと魅力を兼ね備えていた。


しかし、赤く燃えるような瞳に、闇を吸い込むような黒い長髪。その頭には、まさに悪魔を象徴するような二本の鋭い角が突き立ち、背中にはコウモリのような漆黒の羽が広がっている。そして、腰からはトランプのスペードを思わせる形状の尾がしなやかに揺れていた。


「これが、魔王か…。

すごいプレッシャーを感じるな…。

しかし、女の子の姿をしているとは…」


「あれ…?

ところで勇者はどこにおるのじゃ?」


その少女の魔王は、ふと目を丸くして少しキョトンとした表情を浮かべると、周囲へと視線を彷徨わせ始めた。


「え…?

俺が勇者だけど…」


「いや、お前は荷物持ちだろ」


「おい! 失礼な!

俺が勇者だって!」


「まじ…?」


その少女の魔王は、なぜかそわそわと落ち着きなくキョドり始めた。

なんなんだよ、女神に続いて魔王まで…この世界の住人は、俺への礼儀を欠くのがデフォルトなのか?


「魔王さん

はい、残念ながら、彼が勇者です」

レイアは大きくため息をつき、肩をすくめながら、どうしようもないといった雰囲気で助け舟を出すような言葉を口にした。


「まじ…?」


その少女の魔王は、現実を受け入れきれないとでも言わんばかりに、瞳を潤ませ、今にも涙がこぼれそうな表情を浮かべた。


「おい…

驚きのあまり、敵であるレイアに助けの目を求めるなよ…」


魔王との対決、思っていたのとぜんぜん違う…。どうなるんだ、これ…。

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