【6話】適当すぎるだろ
俺とレイアは一度街を離れ、人里から遠く離れた山へと足を向けた。目の前には、標高100メートルほどの小さな山が静かにそびえ立っている。
「ふぅ、結構歩いたな」
「リュート、あなたは疲れた顔になると、ますます見ていられない顔になるのね。
気をつけた方がいいですよ」
レイアが冷静に指摘してくる。
「おい!もう放っておいてくれ!」
「じゃあ、早速見せてあげますね」
レイアは俺のツッコミを完全に無視してロッドを手に取ると、呪文を唱え始めた。
〈響く脈動よ、深淵の闇を貫き我が力を解き放て〉
ロッドから、ぶわぁっと黒い闇のような光が溢れ出し、レイアの周囲に渦巻くように集まり、まるで空気そのものが歪むかのように周りにオーラを撒き散らす。闇の光は、うねるようにしてロッドの先端に収束し、その闇の震えが急激に収まり、ぴたりと静まり返ると、次の瞬間、凄まじい閃光が目の前の小山に向かって解き放たれた。
目を焼くような光、音を感じないほどの爆発的なエネルギーが波動となって広がり、その圧力で自分の足元が揺れるような感覚に襲われる。強烈な衝撃で、身体が吹き飛ばされそうになるが、なんとか踏ん張る。
閃光が消え去ると、風も音もなく、まるで時間が止まったかのような静けさが訪れる。そして、目を開けると、そこにはもはや小山の姿はなく、跡形もなく消え去っていた。
これが、レイアの力なのか…。その威力に、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
「えぇぇ………!
なんか、大惨事になってるぞ…、やばくないか、これ…」
「大丈夫ですよ、人里から離れていますし」
レイアは、まるでふんすと言わんばかりに、勝ち誇った表情で胸を張り、満足げに微笑んでいる。
その時、少し離れた場所から大きな声が聞こえてくる。
「うわぁぁぁ…!
オラの山が消えちまっただぁぁ……!
代々先祖から受け継いできた大事な山がぁぁぁ………!!」
その声は、まるで胸を引き裂かれそうなほどの嘆きが込められていた。おそらく、この周辺を管理している村の者だろう。悲しみの声が空気を震わせて響いてくる。
ちらりとレイアを見やると、微笑みを浮かべながらもその顔色は青ざめ、冷や汗が頬を伝ってダラダラと流れていた。
「と、とりあえず、さっさとここを立ち去った方が良さそうですね…」
こ、こいつは…。
**********
俺とレイアは再び街へ戻り、落ち着いた雰囲気のカフェのような店で、ひと息つきながらお茶を飲んでいた。
「てか、俺、いなくても、世界救えるんじゃないの?」
先ほどレイアの力を目の当たりにし、俺が何かの役に立てるとは到底思えなかった。そんな正直な気持ちが、つい口をついて出てしまった。
「いえ…、魔王は勇者しか倒すことができません」
「そうなのか…?
ただ、俺、そんなに強くないぞ…」
「大丈夫です!
チートスキルがありますから!」
「いや、そうなんだけどさ…。
チートスキルがどんな力なのか、まったくわからないんだが…」
「まぁ、何とかなりますよ」
「おい!
世界の危機って言いつつ、適当すぎるだろ、それ…」
本当に大丈夫なのか…?
緊張感がまるで感じられない状況に、俺は不安で胸がいっぱいになる。本当に、このままで世界を救うことができるのだろうか…?
**********
「これで良かったのでしょうか?」
先ほどのレイアと、年配の男性の会話。
どうやら、その年配の男性はレイアの上司にあたる人物らしい。
「しかし…、仲間が一人も見つからんとは…
勇者も不憫だのう…」
「ね、だから言ったでしょ!
絶対に仲間になる人なんて出てこないって。
私だって、本当に本当に本当に本当に、仲間になるのはイヤなんですからね!」
「お主の見た目にこだわる性格は、なんとかならんかのう…」
「ちゃんとボーナスをはずんでくださいね!」
「わかったわかった…。
しかし、本来は我々が干渉すべきではないのだが、勇者に仲間がいないこの状況ではやむを得んのう…」
「ちなみに、チートスキルの詳細ってまだ分からないんですか?」
「ふむ、現在、いにしえの伝承や文献を解析中じゃ、少し待て」
「分かりました。
それでは、引き続き彼と行動をしていきます。
見た目的には仲間になりたくない気持ちでいっぱいですが…」
「こら!」
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