第8話 港町セレンディア
洞窟を出た後、二人は親切なおばあさんに拾ってもらい。その家でアルトの熱が引くまでの間寝泊まりさせてもらった。暖かいスープを飲み、暖房の前で毛布にくるまったりと。親切な人のおかげで無事にアルトの熱の状態もよくなり。そして無事に見送られて、再び旅の出発に出ることが出来た一行であったが。
そんな二人は何故か今。
広大な自然の荒野を彷徨っていた。
「・・・水だ、リゼット。水をよこせ」
「もう、この水筒しか残ってないです。我慢してください・・・、アルトさん」
天気は雲一つなく快晴だ。長旅で疲れがで始めたこのタイミングで、正直この暑さは凄く堪える。そんな私達の都合など気にせず。空に光る鬱陶しい太陽は皮肉にも、どこまでも嬉しそうに輝きを放っていた。
「いいから。よこしな」
アルトはイライラした様子でリゼットの腕から無理やり水筒を引ったくると、蓋を開け口の上に顔をあげて。カラカラに乾いて乾燥仕切ってしまった喉を潤そうと水筒を傾けた。
しかし。
「・・・あ?」
期待とは裏腹に、中から垂れてくるほんの一滴の水のみ。付近に川があるような痕跡は見えず。途方にくれていた。そして。リゼットが慌ててアルトの腕から水筒を奪い取るが。何も残ってない空の容器を見て。絶望と落胆を隠せない様子で肩をガクッと落とした。
「・・・あぁ。取っておいた、最後の。最後の一滴がぁ」
「んだよ。おい、一滴しか入ってねぇぞ」
「それが、最後だったんですよぉ・・・」
「ん、聞こえねぇ。もっとはっきり喋ってくれ」
「それが最後だったんですってばぁ。もおおお。それもこれも最初の方にアルトさんが一気に全部飲んだのが悪いんじゃないですかぁ・・・!」
「はぁ?人のせいですかぁ??お前だって飲んでたじゃねぇかよ」
「いや、まぁ。そうですけど・・・っ。っていうかなんで道の途中に何もないんですか。普通川や街の一つぐらいあってもいいじゃないですか」
「しらねぇよ。無ぇもんは無ぇんだから」
「はぁ・・・、はぁ・・・」
「けっ、とことん使えねぇ女だな」
「あなたこそ、現状は火を出す事しかできない、ただの無能じゃないですか」
「・・・一旦、この話やめるか」
「はい。不毛です。無駄に体力が持っていかれるだけです」
無駄な言い争いも、ただただ無情に二人の気力と体力を奪い取っていく。太陽がジリジリと輝く。遠くの方を見つめると、地面からゆらゆらと影が揺蕩っている。これは、本格的にまずい事になった。それに、だんだんと頭がぼーっとしたきた。正直これ以上、喋る気力もない。言い争ってもただ疲れただけで、何も得る物が無かった二人は、徐に口からため息を漏らした。
「「はぁ・・・。」」
あれから。更にどれぐらい歩いただろうか。
大量の汗がポタポタとしたたり落ちる。身体中がべとべとで気持ち悪い。気力をを振り絞って額についた汗を拭う。暑さで頭がおかしくなりそうだ。
「あれ…」
あれは、幻覚だろうか。陽炎に揺れる視界の奥に微にだが、だが確かに。遠くの方で青い地平線が見えた気がした。
「あ、アルトさんっ」
「・・・んだよ」
「見てください。ほらあそこっ」
「何だよ。何もねぇぞ」
「もっと遠くです。更に奥の方」
「んぁ・・・?ホントだなんか微かに見えるな」
リゼットに言われるがままに、目をじっと懲らしめて草原の奥を見つめてみる。すると彼女のいう通り、確かにあれは。海。そう海だ。ずっと求めていた『"水"』
どこまでも無限に広がっているように見えるそれが、アルトの目にも映る。
砂漠では暑さで幻覚を見ることがある。
生存本能だろうか。求めすぎるあまり存在しないオアシスの幻を、その瞳のレンズ越しに映し出す。私たちは今海という幻を瞳に映し出しているのか。いや、違う。これは本当に実在するのだ。
「やった!港街ですよ。アルトさん!遂にやりましたっ。ん・・・あれ?」
リゼットが嬉しそうに隣に目を見やるが、先ほどまでいた人の影はそこにはなく。一緒に喜びを分かち合おうとしていた男はいつの間にか港に向かって走り去っていった。
「あっ、待って。って、あぁ・・・」
咄嗟に後を追おうとしたが、すっかり疲れ果ててしまっていて。とてもじゃないがあの速度には追いつけそうにない。そんな現実を悟ったのか。リゼットは諦めてゆっくり歩いて港に向かうことを決めたのであった。
▽
『港町セレンディア』
それがこの港町の名前らしい。
一人でぶつぶつと彼に対する嫌味を呟きつつも歩きを進め。そして遅れながらも、リゼットは港町に到着した。疲れが限界に達して近くの木陰に座りこむ。
「・・・・・・」
風に髪がふわりと靡く。海から陸に向かって吹いている海風によって、暑くほてった体が冷やされてとても心地いい。座り込むついでに遠巻きにこの街の景色を見てみると。するとどうだろうか。先ほどから港に続々と、船が出入りを繰り返している。どうやら、ここは漁業によって栄えている街のようだ。漁師らしきガタイの良い男性達が、大量にとってきた獲物であろう。様々な魚などを運び込んでいる様子が視認できた。途端にお腹の音がグゥーっと響きわたる。
「・・・ん」
魚を見ていたら。お腹が空いた。それに喉もカラカラだ。リゼットの街にきて最初にやるべきことが決まった。一先ずアルトさんのことは放って置いて、この渇きに渇いてしまった喉とお腹に住む腹の虫を黙らせる事にしよう。それから合流しても遅くない。あの人なら一人で大丈夫だろうし。そうと決まれば。リゼットは立ち上がり、遠くの方から香ってくるいい香りに釣られて。
一人歩き出した。
▽
「ごくっ、ごくっ、、。・・・ぷはぁ〜っ!」
くぅー。水が美味しい。こんなに美味しい水は、これまで生きてきた人生の中で初めてかもしれない。口から喉を伝って、体の隅々までキンキンに冷えた水分が染み渡っていく感覚。最高。
「んぐっ、んぐ。。。」
それに、この海鮮を使ったパスタ。モチっとした麺に絡められたオリーブとニンニクの香り。大量に乗っけられた新鮮な採れたての海の幸、黒胡椒のピリッとしたスパイスが全体の味をビシッと引き締めてくれる。海の街ならではの贅沢パスタ。熱々のパスタを一気に掻き込んでは、キンキンに冷えた水を思い切り仰いで喉を潤す。この黄金パターン。
とても美味。リゼットはもぐもぐと、ほっぺを膨らまして食事を堪能していた。そこで。近くの席に座っていた二人の男性の話し声が、リゼットの耳に入ってくる。
「ふぅーっ、いやぁ!食った食った。」
「俺の奢りだからって容赦なく食ったな。こんにゃろう。皿ばかみてぇに積み上げやがって。俺の財布の心配はなしですかい」
「へへっ、悪りぃな!」
「・・・それで、これからどうするんだ?」
「明後日、ここから東にある「マルタ」って街にいく船が出るらしいんだ。この街はどうやら噂によると、いい女が揃っているらしいぜ!どうだい、その船に乗って。この街とはおさらばだ。どうだ、いいプランだろ?1泊2日の船旅と洒落込もうじゃねぇか。」
「おぉ!いいねぇ。そこで酒もたんまり飲むとしようや」
「「ッ・・・ガハハハハハハハッ!」」
「— 船が出ているのですか」
確かに。港町だから、都市と公益を行っているのは当然の事か。リゼットたちも、これに乗り込んでいくのが良さそうだ。問題があるとすれば、パスポートの有無。また警察に追われるのは勘弁願いたい所だ。
「さて、どうしましょうか」
思わぬ情報を得られた事に一瞬歓喜に浮かれたリゼットであったが、すぐに落胆の表情を浮かべる。残った水をぐいっと煽り。少し冷めてしまったパスタをもぐもぐと平らげた。
「ふぅ。膨れました・・・」
明後日まで時間がはある。それまでにパスポートをどうにかしなければならない。最悪の場合は、手に入らずとも船に忍び込むという作戦もあるだろう。そこら辺の詳しい話は
アルトさんと合流してからのほうがいいだろう。一人で決めるのもあれだし。
リゼットは腹ごしらえも済んだので、次は街の探索ついでに道具屋へと向かうことにした。
活気に満ちた声が聞こえてくる。楽しそうに子供達が元気よく走り回っていて、この街はとても活気にあふれているらしい。
「まぁ。あまり賑やかなのは得意ではないのですが・・・」
ひっそりと静かに生きていたい。学生の頃にも都会での人だらけの息苦しささえ感じる街に疲れ果て。人の少ない田舎暮らしという生活に憧れを抱いていた時期があった。
虫の多さや、スーパーなどの店までの道が遠すぎて直ぐに嫌気がさしそうだが。
まぁでも、見ていて。とても眩しい場所だと思う。人々から充実した生活を送れているであろう雰囲気が感じられ、素敵で過ごしやすい場所であると言うことがありありと感じられた。
「・・・さてと。そんなこんなでありましたね。目的の道具屋です」
・・・成程。寂れていて埃っぽいが、まぁ仕方ないか。ガラガラと古っぽい扉を開けて店の中へと入る。店主の。いらっしゃせーと定番の挨拶を聞き入れ。リゼットは軽く会釈をして店の中をぐるりと見まわして色々と物色を始めた。見たところ使い道の見えないガラクタや玩具が大半を占めているが、所々に点々と光って見えるものに、リゼットは手を伸ばした。
「・・・店主、これは?」
「それか?それは『虫除けマント』だな。名前の通り虫を寄せつけなくなる効果がある。いまなら「3000G」で売ってるぞ」
「ん・・・ちょっと。いまいちですね」
いまいちピンと来ない。虫よけマント、虫をよける以外の使い道が見えないし必要だとは思えない。伸ばしていた手をパッと離した。そして他の目ざとい商品がないかと目を光らせていると。店主が自ら。
商品を一つ手に取る。そしてリゼットの前に一つの商品を見せてきた。
「なら、これとかはどうだ。
『ウォーター・ワンド』
こいつを振れば杖の先から大量の水が飛び出すぞ。」
「・・・おぉ。凄そうです」
「ただし、杖先から360°の広範囲に水が広がっていく為使用者の安全はあまり保証できないぞっ。だが威力だけは保証していい。何たって一度こいつのせいで、この店が全部ぶっ壊れて。しまいには俺が意識を失って死にかけた程の威力だからな。ダハハハハハ!」
「・・・ダメじゃないですか。もっとまともな商品はないですか」
「"それならとっておきだ、こいつはどうだ"」
『メモリアル・リング』
これはな、この指輪と訪れた街を自動で登録し更にはその街に一度だけワープして飛ぶことができる。ただし一度しか使用する事ができない。使えば粉々に砕けて無くなる
一度だけの使い切りアイテム。つまり人生で一度しか使えないロストアイテムって事だ。こいつを使う場合の機会は慎重に選ぶ事をおすすめする。
「・・・これ、買います。」
「お・・・っ!お眼鏡にかなったようだな。こいつは本当であれば「3000000G」と言いたいところだが。あんたは初めてだからな、「10000G」でいいぞ。」
「・・・急な落差についていけませんが。そんなに安くなると言うのであれば、喜んで買わせてください」
『はいよっ、10000Gちょうどねどうもっ!またご贔屓に』
「・・・良かった」
店から出てきたリゼット。その表情はホクホクと満足気であった。
とんでもない拾い物をした。こんな辺鄙な港町の道具屋もよってみるものだ。こんな良い掘り出し物に出会えることになるとは。
さて。買い物も済ませた。いい加減にアルトさんと合流しよう。といってもあの人が何処にいるのかわからないのだが。適当に彼の好みそうな場所に向かって見よう。元きた道を戻っていく、その帰り道の途中。
突然。リゼットの上に謎の影がかかる。
「・・・。」
おかしい。まだ真っ昼間の時間だった筈だけれど。不思議に感じて慌てて上を見上げた。すると、窓に足を組んで漫画を読み耽った見覚えのある人物。・・・成程。こちらから探しにいく手間が省けた。
その男性はこちらに気づくと、先ほどまで読んでいたであろう本をパタンと閉じ。生意気そうな表情を浮かると。こちらにむけて手を降ってきた。
「———よぉ」
◇◆◇◆◇
「宿とってたんですね」
「まあな。旅に着いたら寝床の確保は鉄則って習わなかったか?」
「知らないですよそんな鉄則。もう街の探索は終わったんですか?」
「あぁ。一先ず今日のところはだがな。だが正直あまりいい情報は得られなかったが。
だからこうして漫画なんぞ読んで。寛いでいる訳なんだがな」
「はい。こちらとしても探す手間が省けたのでありがたかったのですが。それはそれとして、ですよ。あの時私を置いてったのは何故です」
「仕方ないだろ。水が俺を求めてたんだ」
「・・・もういいです。ふん。でも、後でそれ相応のことはしてもらいますからね。これでお終いです。後で私の得た情報も共有しておきたいですし。あ、そうだ、私はここで寝ればいいんですよね?」
リゼットは2つあったベットの一つの近くに、荷物を置こうとした瞬間だった。
「・・・は??」
「・・・え?」
「———下にいる女将にどっか部屋空いてるから聞いてこい。お前と一緒の部屋な訳がねぇだろうが」
「・・・はい?」
状況がよく読み込めていないが、アルトに部屋を閉め出されてしまった。何か悪いことをしてしまっただろうか、いや。ここに突っ立っていても仕方ない。言われた通り空いてる部屋がないか聞きに行こうと2階の階段から降りて受付のカウンターにいる女将さんのもとを訪れてリゼットは尋ねた。
だが、
もう空いてる部屋はないと、女将さんに突っぱねられてしまった。
「空いてるのはあの部屋だけだよ。ほらさっさ帰んな。」
「そうですか・・・すみません、ありがとうございます」
2階への階段を登りコンコンと部屋をノックする。ガチャっと開くとコソコソと覗き込き。いつもよりむすっとした表情をしたアルトに声をかけた。
「あの、空いてないそうです」
「・・・別の宿は」
「それもダメでした。経営しているのはどうもこの宿だけらしいです。」
「・・・そうか」
アルトが寝ころんでいたベットから勢いよく立ち上がる。リゼットはその勢いに体がビクッと跳ね上がり。スタスタと自分の荷物を手に取ると扉の前に来て。この部屋はお前が使っていいといって部屋を出ていこうと荷物をまとめ始め。本当にいいのかと確認して。どこに行くかを尋ねた。
すると彼は外で野宿してくる。と折角宿が取れたのに。二人同じ部屋という些細な理由で出ていかれるのは忍びないというか。仲良くなれるきっかけなのに残念な気持ちというか。
「ちげぇよ馬鹿、お前女じゃねぇか。一緒に寝られるわけねぇだろ」
はっ。そうだった。今女性だった事をすっかり忘れていた。つまり、自分は今異性の部屋で普通に寝泊まりしようしている訳だ。側から見るとこれではただの痴女だ。
『ち、違うんですよ?け、決してそんなつもりはこれっぽっちも無かったんですよ?信じてください。い、痛いです。石を投げないで・・・同じ過ちを犯したことがあるものだけが私に石を投げなさい。あ、ちょやめ・・・。』
「おい」
「・・・・・ハッ!」
「そこ邪魔で通れねぇからどいてくれ」
「い、いやです。やっぱりアルトさんがここ使ってください。私は大丈夫ですから」
「つってもな、俺がここ使ったらお前何処で寝んだよ」
「私もここで。離れて場所で寝ますから。心配しないでも大丈夫です」
「お前さぁ、男ってのはなぁ」
「さっきの反応を見ればわかりますよ。———そんな人じゃないって。それとも、アルトさんは、私の事襲っちゃう人なんですか?」
「・・・けっ。誰がこんなお子ちゃま襲うかよ」
「なら決まりですね」
ふっ、やったぜ。これで寝床確保は完了。久しぶりにあったか布団でぬくぬくと眠りにつくことができる。リゼットはベットに勢いよく顔からダイブした。これは…ふわふわで気持ちがいい。もふもふ。
『おっと、そうでした、これを伝えておきたかったのです。ここから2日後に、マルタ都市に向けて船が出航するみたいです。ただパスポートが必要みたいなので、それの準備だけしておかないといけないみたいで』
『OKだ。二日後か・・・、どうにか乗って行きたい所だが、パスポートは俺等は所持してねぇからな。どうするか…。一先ず今日は各々ゆっくり過ごして、明日から行動に起こそう。俺はゆっくり宿で過ごさせてもらうことにするわ』
「はい、私もそうします」
その夜のこと。
すやすやと眠りにつくリゼットとは対照的に。アルトの方はというと、悶々としてとてもではないが眠る事ができず。横で気持ちよさうに眠るリゼットの寝顔に、思わず理性が爆発仕掛けたのは。
———ここだけの秘密の話。
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