第6話 リゼット 初任務へ
———17才になった。
当時居場所を無くして彷徨い続けた、惨めな路上生活時代からは時が経ち。ここハイドアウトレストに来てから、早くも4年という月日が経過していた。この世界では女性は『17才』、男性は『18才』で成年を迎える風習が存在し。今年の春のリゼットは成人の儀を迎えた。
あれから4年の間。思い起こせば色々な思い出が募ってくる。
マーリンさんに勉強と拷問(修行)をつけてもらい。エリーとバーで客人の接客を共にし。暇があればアルトさんにボコボコにされ。
あっという間に過ぎ去った日々だ。そんな成人を迎えたある朝。リゼットは早朝から団長に呼び出され、部屋の前に訪れて扉をノックしていた。
―コンコンッ
「―入っていいぞ」
「失礼します」
こうして。グリムさんに直々に呼び出されるのはとても珍しい事で、年に数回あるかないかの事例である。大抵そういう時は全体会議で呼ばれていたりしたが。今回は初めて「個人」でのお呼ばれである。ひょっとすると成人のお祝いでだろうか。前回呼ばれたときは、エリーの誕生会議が全体で行われ。その協議の結果。
何故かリゼットが彼女にプレゼントを渡す役として抜擢された。
その後リゼットがエリーから話を聞いたところ。皆んなの挙動が普段と違いすぎて、
サプライズ自体は実はバレバレだったが。彼女の優しさから。そして大人たちの名誉のためか、この話はリゼットとエリーだけの内密となっている。
「それで、私に何のご用ですか?」
「・・・訓練、頑張っているらしいな。感心したぞ」
「・・・あぁ、訓練の話ですか」
「そうだ。マーリンから話は聞いている。あいつの修行についていける奴は、中々いなかったからな。みな途中でギブアップして辞めていった。そういう意味では、お前には才能があるよ」
「・・・ありがとうございます。まぁ、成長しているかは疑問だらけですが」
「ふむ。確かにお前は実戦を経験していない。どれだけの成長を遂げているか実感が湧いてないのも、無理はない」
「そう、なんですかね・・・?」
「コホンっ。っそろそろ本題に移るらせてくれ。今回お前を呼んだ理由。それはなリゼット
。そろそろお前に。任務を任せたいと思っている」
「・・・っ。任務って、もしかして何でも屋の仕事ですか・・・?」
「その説明をする前に。この話をするにはもう一人足りないな。入って来ていいぞ」
「―おう。邪魔すんぜ」
「うむ。よく来てくれたな、『アルト』」
「・・・いいさ。んで、今度は何やらせようってんだ?俺を呼ぶってことは、また
『傭兵』の依頼でもされたか?」
「いや、今回は別件だ」
「はぁ?じゃあ一体何を・・・」
部屋にいた私と、唐突に目が合ったので会釈をしてみた。すると、彼は眉を思い切りひそめ。ため息を吐き出す。
「・・・あ、おはようございます」
「いや、まさかとは思うが。コイツと?」
「―あぁそうだ」
「はぁっ・・・!?うそだろ・・・!?」
実は。4年間の間アジトの中で過ごしてきたリゼットだが、他の人に比べてアルトとだけは接点が特別存在していないのである。接点と言われれば、半年に一度の頻度で。マーリンとの修行が終わった後に、追加修行の名目で偶にボコボコにされる記憶ばかりが呼び起される。それぐらいで。二人の間には会話という会話が全く無い。
リゼットも幾度か会話を試みようとしたのだが、如何せんタイミングが難しい。アジトに籠りきりのリゼットとは対照的に。
アルトは外で任務をこなし長期間帰ってこない事がざらだった為。ここまで接点が無かったのだ。
「リゼット。君には、そこのアルトと共に。私の知人の下に迎って貰う。そしてその者にこの手紙を渡してもらいたい」
「けっ。お使いかよ。くだらねぇな、悪いが俺は帰らせてもらうぜ」
「あ、待ってくださ・・・」
「―もし。お前が来なければリゼットの死ぬ確率が上がるだけだ。仲間を見捨てる薄情者には別の任務を依頼するが。どうする?」
「・・・分かった。分かった。やりゃいいんだろ。・・・やりゃ」
「聞き分けが良くて助かる」
「目標となる人物。そいつの情報だが、実は一度も顔を合わせた事がない。」
「相当な腕利きの情報屋という事は分かっているのだが、おっと。そう不安そうな顔を浮かべるな。あらかた、いる方角は耳にしている。一度しか言わないからよく聞け。いいか。お前たちはこのローグタウンから。
———遥か東の地に迎え。
奴は恐らくその場所で身を潜めているだろう。その旅の道中で様々な情報を集め、居場所を探し出して来てほしい。
「ここから東の地か」
「なるほど。そこまでは分かりました。他には、その情報屋の詳細はないのでしょうか?年齢や性別、身長など。何でも構いませんから教えて頂けませんか?」
「———自分たちで探すことだ。これ以上俺の口から話すことは無い」
「・・・了解です。」
「纏めるぞ。目的の人物の性別・年齢・身長・体重全て詐称。名前も偽名だ。お前たちはこれから東の地へと赴き。この人物を探し出して見つけ出し、俺の書いた手紙を届けて欲しい。時間は問わない。好きなだけ時間をかけてくれて構わん。金は最初だから少し多めに渡しておく。よく考えて使うことだ。以上で話は終わるが何か質問は?」
「いえ。ありません。任務了解しました」
「よし。では、幸運を祈る」
▽
「―そうか、お前もついに旅に出る日が来たか。」
「みたい、ですっ!!」
マーリンの問い掛けに、目線と集中は切らさずになんとか返事を返す。
両手で握られた巨大な大剣を紙一重で避けながら、マーリンは不敵な笑みを浮かべている。稽古を重ねるうちに、段々と実践に近い形式に慣れるため。お互いに自身の持つ武器を使って稽古を行っていた。リゼットは「翠の結晶剣」を使用して。マーリンは「青銅の直剣」と呼ばれる一般的に幅広く使われている普通の剣が使用されている。
「あの、殺すつもりですかっ・・・?」
「その程度ではお前は死なんだろ。それ。よそ見している場合かっ!!試合に集中しろ!」
「・・・鬼っ。サディストっ。鬼畜っ」
突風が頬を撫で、髪が湧き上がる。こんなの一度食らえば一溜まりもない。三日は気絶することになること間違いなしなのだ。体制が崩された。
この上段の振り下ろしは、受ければ剣ごと潰されるだろう。その判断を直感で下し
「翠の結晶剣」の持つ能力を解放。突風を巻き起こして、マーリンから少しだけ距離を取る。そして一度呼吸を取り直す。
こんなおもちゃでも、要は使い方だ。確かに殺傷能力は欠片も持ち合わせていないが、使うタイミングによっては。こうして回避に使えなくもない。
「どうした。もう終わりか?」
「何を言ってるんですか。これから、です、よっ!」
余裕綽々な表情を少しでもゆがませてやりたい。リゼットはもう一度【翠の結晶剣】の風の力を解放する。と同時に。足先の力を思い切り込めて、前に思い切り突進する。剣先を後ろに向けて解放する事で後方に小さな風の突風を巻き起こし。突進力に風力を重ね。真正面から一転突破する狙いだ。離れていた距離をゼロ距離まで詰めることに成功する。その勢いのまま。剣を右から一文字斬りを仕掛けて、必殺の一撃をお見舞いしようとするが。
それを受けてもまだ。
マーリンは余裕の笑みを崩さない。
咄嗟に足を一歩後ろに引くことで。受けをとるための時間を作り、リゼットの攻撃はギリギリ紙一重で受けきられてしまう。
「ふむ。中々にいい一撃だったが、惜しかったな。僅かに届かずだ・・・、ふぅこれで終わりか。だが成長したな。それほどの力を身に付けていれば心配は―」
「いいえ。まだ、ですっ!」
「・・・っ!?」
突進力と一文字斬りの遠心力を加える。
正面からの切りあいでは単純に力で劣る。何度も打ち合いを重ね、負け続けたこれまでの経験から、嫌というほどに理解していた。
マーリンは力を出し切ってはいない。いつも手加減されてながらもボコボコにされている事は重々理解している。だけど。せめて一撃はお見舞いしてやりたい。
彼女があっと驚く一撃を。
右からの左へと流れた剣筋。その流れに身を任せリゼット体を委ねる。
マーリンに対して背中を向ける完全な無防備な態勢。そんな隙だらけなリゼットを見かねて。意識を落とそうとマーリンが上段から首元へ峰内を仕掛けようとした途端。
突如として、視界からリゼットの姿が消える。
【3回目の解放】
マーリンが気配を察知し後ろを振り向くと。消えたと思われたリゼットが
剣先の解放と遠心力を使って背中側にくるりと一回転して目の前まで迫っていた。
堪えきれなくなり、思わず口角が吊り上がるのを感じる。
久しく感じていない高ぶりをマーリンは感じていた。もはやこちらに手加減する余裕もない、全力で受け手に回るべく持ちうる全て力を使って。振り上げていた直剣を
リゼットが狙っているであろう場所へ。
受けきって見せる。カウンターで今度は逃さない、必ず仕留めてみせる―
―――
「・・・負けました」
一歩。届かなかった。
リゼットの直剣は顔の前でしっかりと受け止められ。逆にマーリンの青銅の剣はのど元に直剣を当てられている状況。とどのつまり私の敗北を意味していた。また負けてしまった。これで通算対戦成績「0勝1064負」。稽古の勝敗条件は、相手の髪や服に触れられた側の負けと定められている。結局成人して旅に出るまでの4年間の間。触れることすらできず、一勝することもできず仕舞いだったが。今回は遂にマーリンの焦った表情が見られた。
とても大きな収穫と言ってのではないだろうか。
彼女との訓練は終わりを迎える。
帰ってくるまでに旅の間にもっと強くなって、
その時こそきっと――
「―いやお前の勝ちだよ。リゼット」
「・・・えっ」
「ほれ」
そう言い。彼女が指さした耳元の辺りに目を向けると。マーリンの髪の毛が数本、
ハラハラと地面に落ちていくのが見えた。この決闘試合は、どの部位でも先に触れた側の勝利が原則としてある。それが髪であろうと。
リゼットの直剣の方が早く触れていたのであれば、それはリゼット勝ちに他ならない。
苦節4年。長年の稽古が実った瞬間だった。初の勝利の事実を受け入れた瞬間。柄にもなくリゼットはその場で何度もジャンプを繰り返し、湧き上がる喜びを嚙みしめ。
そして。暫く舞い上がっていたリゼットだったが。段々と冷静さを取り戻すと、顔を真っ赤に染め上げ。その場にふさぎ込むと、膝を抱えて丸まって悶え苦しんでいた。
そんなリゼットの肩をマーリンは優しく叩き。
これから新たな門出へと旅立つ彼女へと言葉を残した。
「よし。これで何の愁いもなく見送れるな。リゼット、お前はこれで一先ず免許皆伝だ。だが、甘えることなかれ。これからも精進するようにな」
「・・・っ。はい、頑張ります」
「・・・そっかぁ。これで一先ずおしまいかぁ、なんか寂しくなるねぇ」
「エリー。あなた暇さえあれば、私の稽古姿を見てましたね・・・。そんな面白くないと思いますけど」
「そんなことないよ!あーあー、残念だなぁ。リゼちゃんの有志も当分の間見納めかぁ。」
「ほら。馬鹿言ってない。初の任務を任されたんだリゼット、気をつけて行ってこい。帰る時には。是非とも私達に旅の土産話を頼んだぞ」
「リゼちゃん!絶対、無事に帰ってきてねー!いってらっしゃーい!」
「・・・行ってきます。」
◇
アジトの皆に盛大に出送られ、ローグタウンを出てから二人は無言で道を徒歩で歩いていた。気まずい沈黙が流れる中、二人でグリム団長の教えに倣って東に向かうこと早数時間。そこで。とある道の駅のホームにたどり着いていた。木造で造られた駅舎。一人、ぱちぱちと点滅を繰り返す壊れかけの淡い外灯。自然と融合した人工のストーブパイプ管。そして電車を待つ人だかり。電車の通るレールには、微かに自然が生えたそんな駅のホームの看板には
『道の駅:T.L』と書かれた文字がでかでかと記されていた。
何か頭文字を取った記号のようだが、どういった意味が込められているのだろうか。
リゼットは。受付で気だるい様子で肩肘を突き。退屈そうにラジオ放送を垂れ流す車掌の元に向かい。向かうべき進行方向をその車掌さんに尋ねる事にした。
「あの・・・、お尋ねしても。私達東に向かいたいのですが」
「んー。“東”ってぇと?悪ぃが具体的な街の名前とかば———」
「・・・いえ、分かりません。とにかく東にいければなんでもいいんです」
「んーと。事情はわかんねけどよぉー、ほんなら。ここの5番線の電車に乗るとえぇ!。それに乗りゃあ。おまんらを東に連れていってくれんだべ」
「5番線・・・。ありがとうございます。あともう一つだけ。看板に書かれていた『T.L』って・・・」
「あぁ!街の名前の頭文字だーよ。どの駅にも付いてるんだべ。花の香る街『トロント・ルーヴェンディ』その大文字をとってT.Lって記されてんだ」
「なるほど。勉強になりました」
「いいってことよ。そんで切符は二人分でええんか?」
「はい。これで」
「ほい。まいどありー。道中気を付けていくんだべー」
「―アルトさん、切符買ってきました。大人二人分。どうやら20分後に電車が発車するみたいです。先に並んで待ってましょう」
「・・・おう」
「こんな場所に駅があったなんて私。知りませんでした。アルトさんはこの場所知ってましたか?」
「そりゃあな」
「よく見たら。駅のあちこちに花の植木鉢があります、花の街ルーヴェンディですか。なかなか洒落た名前を付けたものですよね・・・」
「あのよ、さっきから気になってたが」
「・・・?な、何ですか」
「―あんま馴れ馴れしく話しかけてくんな。仲良く旅行に遊びに行くんじゃねぇ。あくまで。仕事の付き合いだ。」
「・・・は、はい」
「それと!キョロキョロすんな。普通にシャキッとしてろ、シャキッと。挙動不審なんだよ。不審に思われるだろうが」
「・・・ご、ごめんなさい」
『もう少し普段通りに行動しろ。ほら、あそこをよく見てみろ。各車両の乗車口の側に警備服を着こなした若い警備員と、少しふくよかで丸みを帯びた50代ぐらいの。花を抱えた女性が。あそこでなにか話し込んでるだろ?
で、その周りをもう一人の警官が、異様にピリピリとした空気を纏って周りの様子を観察してる。不審な人物がいないか警戒してるんだよ。
最近この駅でとある事件が起きていたらしくてな。密売人による大麻の取引ルートとして、密売を行っているグループがこの駅を使っていると新聞で見出しがでていたらしい。
警備員はそれらの密輸を警戒して、ああして巡回してるって訳。俺たち。
アジトの奴らは家無しの集まりだ。
身分を証明するものなんか持ってねぇんだよ。パスポートの提示を求められたら一溜まりもない』
「いいか?気を引き締めろ、任務は始まってるんだぞ」
「・・・っ。気を付けます」
まもなく、5番線に電車が到着いたします。少し下がって、お待ちください。繰り返しご案内申し上げます。後ろに下がってお待ちください。
駅のホームに場内アナウンスがこだまする。私たちが乗る電車が到着するみたいだ。
陰に身を潜めてい場所から姿をあらわし、人影に紛れ込む。
「来たか・・・。行くぞ」
「・・・。」
5番線電車の乗車口に向かうと、駅の乗組員が乗車券の確認を行っている。
警備員の方となにやら談笑していた花を抱えた女性の方。私たちより前の列に並んで。切符の拝見をされていた。私達の順番が回ってくるのは、10組程後になるだろうか。
気持ちを落ち着けるんだリゼット、別に普段通りに電車に乗るだけだ。
心配なことなんて何もない。なのに。
胸の動悸が収まらない。心臓のバクバクが止まらないのは、どうして・・・。
「落ち着け。平常心だぞ」
「・・・。わ、わかってますよ。・・・って。あれ・・・ぁ」
徐々に順番が回ってくる。近づいていくにつれて心臓の動悸は収まることを知らずにもっと膨れ上がっていく。頭がぐるぐる回って平衡感覚が無くなり。リゼットはふらつき倒れかけた所をアルトに支えられる。
「お、お嬢さん!大丈夫かい!?」
「おい。彼女は体が弱いんだ。切符はこの通り2枚ある、すぐに席に座らせてやりたい。頼むから道を譲ってくれないか」
「し、承知しました!!先にこの二人を電車内にご案内します。すみませんが道を開けてください!」
「助かる」
『―お前、なかなか役者じゃねぇか』
『人に酔いました・・・、貧血で倒れただけです。』
『・・・おい、ただの貧血かよ』
よかった。何とか通ったみたいだ。怪我の功名じゃないけどうまくいったことでほっと一息つき付き切符に記載された電車内の座席シートに向かってリゼットたちは席に
ついた。
汽笛の音が長く響き渡る。電車が発車し体が軽く揺れ動きはじめると、一緒に窓の外の街の情景がゆっくりと動き出す。徐々に速度を上げて行き、街の景色があっという間に緑色へと変貌して行く。
私は窓側の席に座らせてもらった。アルトさんは座席にあった雑誌をつまらなそうに読んでいるようだ。私はこうして窓の外の景色を見つめているこの時間は嫌いじゃない。時間や場所、人によって見える景色が違って見える。街の景色から流れていく自然。橋の上から眺める川の景色。そこで釣りをする人毎秒、毎秒変わりゆく景色を眺めている時間は。なんともいえない懐かしいというか、
不思議な感情が芽生えてくる。と、すこし行く前に水分を取りすぎたかもしれない。電車の空調が良く聞いて肌寒く感じているのも関係しているか。
「あの、すみません。少しお手洗いに。」
「・・・なら、ついでに飲み物買ってきてくれ」
「分かりました」
そう言うと彼は。よほどつまらなかったのか、読んでいた雑誌を乱雑に仕舞うと。上着で顔を覆い眠りにつき始めてしまう。そんな彼のことは一旦放って、リゼットは後方の車両でお手洗いを済ませ終えた。
更に後ろの車両に、飲食販売の提供をしているバーテンコーナー。
『そういえばアルトさん何飲むんだろう』彼の好みの飲み物を知らない
さっき聞いとけばよかった。しまったといった表情で、リゼットは商品乗った表を見る。
「えっと・・・」
並んでいた商品は『コーヒー』、『オレンジジュース』、『ココア』、『牛乳』
食べ物に『サンドイッチ』だ。
とりあえずコーヒーでいいか。無難にコーヒーを選択することに。リゼットは牛乳を選び。アルトさんもお腹がすいているだろうからとサンドイッチを2つ。
頼むものを決めて、カウンターの裏手にいた方に声をかける。
「すみません、コーヒーと牛乳1つ。あとサンドイッチ2つ頂けますか。」
「あいよ、ミルクと砂糖はどうする?」
「いらないです」
「はいよ!少々お待ちなさんな」
リゼットは近くの椅子に腰掛けて。手持ち無沙汰な様子で足をぶらぶらと揺らしながら、おばさんが作る料理ができるのを待つことにした。おばさんはキッチンに立つと包丁を取り出しコッペパンのついたバンズを二つに切り分け、ロースハムをスライスし。沸騰したお湯の中に卵を入れていく。
トマトを輪切りにし、新鮮なレタスをよく水洗いした後。水気をよく切り適当なサイズにちぎって水気を良くふき取る。
「お嬢さん、一人かい?」
「いえ。もう一人連れがいます、今は座席で寝てると思います。」
「へぇー。二人で旅とは乙なものじゃないか。それで何処に行く予定何だい?」
「・・・まぁ東にですかね。向かう場所とかに当てはありませんが、偶にはそういった旅行も悪くないのではないかと思いまして」
「なるほどねぇ・・・。」
「・・・なぁ、話は変わるけどお嬢さん。
―あんたの手を少しだけ見せてもらってもいいかい?これでも、私は手相を見ることに関しちゃ。名のある腕利きでね。」
「・・・はぁ。別に構いませんが」
「ああ。ありがとうねぇお嬢さん」
『ほーう。
ーこれから先、気をつけた方がいいね。あんたの手相からでてるこれは、「金銭」に関する悪い予感を暗示する線でね。旅先でのスリ、金銭の使い方には気を付けて出歩くといいだろう。他には。未来になにかしら「決断」を迫る出来事が発生するかもしれないと、手相から暗示されている。すまないが深くは読みきれないね。未来がいい方向に向かうのか、はたまた、破滅の一歩をたどるのか。いずれにしろ。未来は大きく動くことになる。それまでに。
できる限りの準備は怠らないでおきたまえ』
「なんてね!どうだい、私の手相占いは如何だったかな?まぁ、話半分に聞いておくことを推奨するよお嬢さん!私の手相占いは外れる事で有名だからね!!わははっと出来た―はい、お待ちどーさま。当駅名物の『チーズイン・ロースハムサンド!』暑いからお気をつけてお食べ」
「・・・はい、どうもです」
———手相占い、か。
アルトさんが待ってる。急いで元の場所に戻ろう。
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