第5話 ギフテッド

これは、百年前の話だ。


 その時代に突如として、世界の中心に世界樹が誕生した。それと同時に

光を浴びて生まれてくる子供が世界に誕生する現象が発生したと言われている。

その子らは。何処か体の一部に特殊な紋様を浮かべていた、人々は。神から授けられた紋様「ギフテッド」と呼び。

子供達を「ユグドラの民【世界樹の力を受け継ぐ者】」と名付け。それはそれは大切に育てられたという。ギフトを授かった子供達は何かしらの特殊な異能を授かっているのが発見された。人の何倍もの力を発揮できるパワー。物体を宙に浮かせる“浮遊の力”。その特異な能力は。人々の安全の護衛や、街の発展に大いに役立てられ、帝国や様々な国に着実に認知されていき。ユグドラの民は認められて行くことになる。



「世界樹の力を受け継いだ人種・・・、ですか」

「あぁそうだ。産まれてくる確率は。およそ5%程度と言われている」

「5%ですか」


 しかしだ。どうも過去の歴史は全てが順調にとは進まなかったらしい。いざこざが発生したのだ。一部の人間はその得体の知れない世界樹の力に怯え、恐怖し。反発する者が現れた。それらの勢力は「アレスター教団」と名を名乗り。元の人の暮らす世界に戻してみせると文言を上げて立ちあがった。彼らは辺境の地などで産まれた貧しい子供に目を付け。徹底的に虐げて従順な奴隷として扱ったのだ。

能力の持たない人種を 


健常者『アルケード人』

低層階級に生まれてくる一部のユグドラの民の事を。

はみ出し者『イレーニ人』 


 アレスター教団が別称で呼び始めた事が発端で、この名は世界に広められた。現代で彼らはイレーニ人と呼ばれている。過去の歴史の流れとして。今の現代で世界や国等に認められているイレーニの民は、

貴族等の立場の強い上流階級ばかりであり。底辺階級に生まれを持つ子供に対しては

一部の人間達は無能だ。ゴミだと蔑み。暴力や性奴隷として扱うことを肯定とする世間の風潮が生み出されたのだ。イレーニ人は歪に生み出された劣等民族であり、アルケード人こそが正当種族であると。


「えっと?この世界の“人類“が、百年前に『2つに別れた』?」

「あぁ。それでいい」

 

「なるほど」

「本当に厄介な話だ。歴史は繰り返される、同じ人間同士仲良く出来ないものだろうかね」

「・・・マーリンさん。もしかしてその手」

「―あぁ、この通りだ」


 マーリンに手の甲を見せて貰うと確かに。腕に謎の紋様が浮かび上がっていた。

丸い円の中を三つの輪が重なった紋様。

成程。これがギフテッドと呼ばれる紋様は光を発さず灰色のまま。淡く浮かび上がっていた。


「私はギフトを授かって生まれてきた」



「・・・能力を聞いても?」


「コホンッ。異能は我々が生きる生命線だ。やすやすと教えを乞うものではないよ。リゼット」

 

「・・・すみません。不躾気な質問でした」

 

「気にするな。おそらく。近いうちにお前に見せる時がくるはずだ。その時を楽しみにしていてくれ」


「はい。楽しみにしています」

 

「よし。今日の歴史の授業はこれでおわりとしようか。しっかり復習しておきたまえ」

 

「ありがとうございました」



 マーリンとの授業が終わり。勉強用具を片付けて厨房に向かったはいいものの。

暇だ。勉強会を終えて晴れて自由の身になったとは言え、何もやる事がないと、暇である団長さん。これから何をしていくのか。私の行動方針も分からない現状だ。

暫くは自由に行動していい。と読み取ってはいる。なら。互いに親睦を深めようにも、お相手であるアルトさん。彼はアジトから出かけていて。それも出来ないのである。

仕方がない。ここのアジトの中の散策でもしゃれこむとしようか。

マーリンさんを追いかけよう。さっき扉から出ていったばかりだし。直ぐに追いつける筈だ。アジトの探索許可をも貰いに行かなくては。


「マーリンさん。・・・ちょっと待ってください」






 無事に許可を頂けたのでアジトの中を探索に向かうことが出来た。アジトの中の冒険の始まりである。あっとそうだった、伝言で厨房から行ける地下空間があるらしいが、そこは食品関連の保管や、長年もののワイン等の維持管理をしている場所だから。できるだけ入らないようにと忠告されていたっけ。だから厨房の地下にはいかないようにしながら、探索しよう。

さてと、何処から探検しようか。皆が何処にいるのか探してみるのも一興。

いざこうして探索してみると。



『このアジト・・・、外からの見た目に反して内装が広いですね。』


 下手したら。リシュエル家の洋館並みの広さがあるかもしれない。

アジトの内装を順番に見ていくと。一階は客を迎え入れる大きな酒場が構えられている。ここは私が初めてメンバーと交流を果たした場所だ、厨房キッチンと受付カウンターがあり。グラスや食器が棚に並べられていた。

横並びに並んだ棚の一番奥手。部屋の左端に扉を見つける。マーリンさんがいつも仕事終わりに入っていく扉。好奇心にくすぐられ。思い切って。


そのカウンターの奥にある扉をくぐれば。


「・・・廊下に出ましたね」



 廊下を歩いてくと中央部分に広い中庭があり。観葉植物が育てられ、小さなテーブルやイスがセットされている。更に奥に進んで行くと洗面台に風呂場とトイレが完備済み。洗濯室もここにセットされている。

2階は各メンバーの私室に客室。チラッとコーヒーを片手に団長が入っていく姿が見えた。一番奥の部屋には「執務室」と書かれている。成程仕事部屋か。時々ちょっかいをかけにお邪魔しにいくのも悪くない。

中央には広い図書館ホール。ロマンにあふれる場所だ。 


 棚の中から埃を被った本を慎重に取り出して

開いてみる。そこには習ったことのない難解な文字の羅列が並べられており。まだリゼットには読むことが出来なかった。

マーリンさんに教えてもらいつつ、読めるようになるまでこの世界の語学を勉強しよう。大変だがこの世界に少しずつ慣れていこう。





「・・・これは」


 リゼットが今いる場所は2階の屋根裏部屋だ。

探索を続けている際に偶然見つけた。蜘蛛の巣が張り巡らされた空き倉庫。

そういえばマーリンさんが言っていた。物置の何処かに木刀が収納されていると。中にあった黒い木刀を手に取り、中庭へと向かった。

マーリンさんに教えて貰う予定だったが。先に剣を握って素振りをするぐらいは初めてもいいだろう。


 自分を守る術を身に着けるべく。殺風景な景色の中で一人素振りを始めた。適当に素振りをしていると中庭に出てきたエリーに、一人で素振りをしている所を見られてしまった。アジトに来て早々にとんだ失態だ。


「え。何してるのリゼちゃん」

「・・・いや、なんでも。え、エリーさんの方こそ。こんな場所で一体?」


「実はねぇ。ここ私のお気に入り休憩スポットなのだよ。ふふーん!」


「・・・そ、そうですか」


「見ちゃったものは仕方ないし。ほらほら。私の事は気にしないで!続き続きぃ!」


「は、はい・・・!?」


 背筋を真っ直ぐ伸ばし。グリップが抜けないように腕でしっかり握りこみ。

上段に構えた箒を振り下ろす。ただひたすらに、これだけを繰り返す。一見簡単そうに見える動きだが、体に掛かる負荷は大きく。一振りごとに体の筋肉が悲鳴を上げている。

だが、ただ振っている中でも。彼女の中では大きな発見があった。


それは。


 前世の体より今の方が運動神経が圧倒的に優れている事だった。前世ではなかったイメージ通りに体を動かせる感覚。体が軽くて、しなやかに動く。これはリゼットにとって大きな発見であり、凄く新鮮な出来事だった。段々と調子に乗りだして。早いスピードで木刀を振ってみた物の。


それで筋力が持つはずもなく。



「無理、です。もう、腕が、、、上がりません」


「お疲れ様―。リゼちゃん!」

「はぁ・・・、エリーさん。ありがとうございます。見世物じゃないですけどね」

「えへへ。はいコレ!リゼちゃん疲れたでしょ?あったかいお茶飲んで!」

「どうもです。エリーさん」

「ん、エリーでいいよ!」


「・・・分かりました。エリー、出来ればこの事はどうか内密にしてもらえると嬉しいのですが」


「あ~。ごめんだけど。もうアルトにばれちゃってるみたいだよ?」

「―んっ」


木刀を肩に担ぎ。

見定める様な視線を送ってくるアルトさんが。エリーの陰から顔を出す。気づかなかったが彼に見られていたようだ。


「―立て。」

「ちょ待って待って!今日は流石にお終い!これ以上リゼちゃん無茶しちゃダメ・・・」

「・・・わかりました」

「ストップ!ストーップ!!」


 任務から帰ってきていたらしい。見られてしまったのは恥ずかしいが、わざわざアルトさんから来てくれたのだ。こんな床で倒れ伏してる場合じゃない。答えなければ。

ここで倒れたままだと、彼に金輪際アジトの仲間として見向きもなれなくなるような気がする。だから、答えたい。



「・・・っつ。」



 その後は稽古という名目で、アルトさんにボコボコにされ。マーリンに秘密裏に修行していたのがばれてド𠮟られ。本当に散々な一日である。『“明日から地獄を覚悟しておけ”』

とはマーリンの言葉だが。私は本当に明日動けるのだろうか。この感じ、覚えがある。体育祭の次の日にベットから指一本動かせなくなったあの日と同じ。

悔しくはある、一本もとれなかった。髪に触れる事すら許されず、私とアルトさんとの間の高い壁を感じた。けど、早めに知れて良かった。明日から地道に訓練する事にしよう。強さとはまず己の弱さを知ることからである。

彼に触れる事を訓練の第一目標にしていこう。



「さっきお風呂沸かしたから。リゼちゃん先に入ってきていいよ!」

「わぷ」

「うわぁー、服もボッロボロだし汗もびちゃびちゃだ。ちゃんと体洗ってゆっくり湯船につかってきてねー!」

「エリー。ありがとう」


「いいよー。ねね!またリゼちゃんが訓練してる時があったら、偶にでいいから見に行ってもいいかな?」

「・・・?まぁ。いいですけど、あまり面白くないと思いますよ」

「大丈夫っ!私人が頑張ってる姿を見るのが好きだから!なんか、カッコいいんだよね!えへへ、着替えここに置いておくから。じゃあごゆっくりー!」




「―ふぅ。変わった人ですね」


その日は。


 エリーが淹れてくれた湯船に浸ってからご飯を食べて、今日は眠りにつく事にする。

結局一番風呂を頂く形になってしまったのが何とも申し訳ないない所ではあったが。しかし。エリーの淹れてくれたお風呂かぁ。同い年の女の子が淹れてくれたお風呂に入る機会なんて、夢の世界か二次元の世界でしかないと思っていた。


 リゼットがワクワクした気持ちで、エリーが入れてくれた湯船に浸かる。しかし、現実は傷に熱湯が染み渡って、じんじんして、めちゃくちゃに、痛かった。

熱すぎるよ。


エリーのばか。



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